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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2012年01月17日

古い町の古い店の古い猫

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 神保町にいくと、よく立ち寄る喫茶店があります。表通りからはずれて、錦華公園ちかくの路地にひっそりとある古い喫茶店プリマベーラ。木と漆喰で作られた店内は、33年の時を経て、飴色がかっています。『遺しておきたい古典喫茶』というムック本の表紙にもなった、味のある店です。
 
 この店のたたずまいにぴったりなのが、白黒の雌猫みーちゃん。もともとはこのへんのノラでしたが、プリマベーラのマスター夫妻が面倒をみるようになって16年たちました。ですから、みーちゃんは、もう20歳に近い高齢猫です。
 
 マスター夫妻は、この店に通っているので、みーちゃんは外に自分の小屋をつくってもらっています。マスターが出勤してくる時間には店のまえでお出迎え。クーラーの嫌いな彼女は、夏はほとんどを外で過ごし、冬は、ごらんのとおり、店内の客席の隅っこのトクベツ席で丸くなっています。わたしはいつもみーちゃんの向かいに座らせてもらいます。
 
 わたしがみーちゃんに初めてであったのは、5年前。まだ外を闊歩していた彼女は、横断歩道を渡る前に、右を見て、左を見て、また右を見てから渡っていたのです!その賢さに驚き、彼女に道案内されてこの店の常連になったのでした。
 
 「昔は、このへんの路地を走り回っていたんですけどね、いまは寝てばっかり」と、マスター。お店が休みの日曜や年末年始も、マスターは、みーちゃんのごはんのためにやってきます。「だから旅行なんてできないの」と、奥さんは笑顔で言います。
 
 マスターは、チャッピーという路地猫にもごはんをあげていて、ちょっと離れた路地に暮らすしろちゃんとゆきちゃんという白猫きょうだい(昨年8月のこのブログで紹介ずみ)の小屋にも寒い間はホカロンを差し入れています。「私の服は買わなくていいから、あのこたちにホカロンをお願い」という奥さんの願いを受けてのことでした。
 
 この店にくると、ホッとするのは、みーちゃんの存在だけでなく、「変わらないもの」が店内にひとすじ流れているからだと思います。
 
 マスターはみーちゃんたち町猫に対して、きっとこんなことを思っているのではないかしら。「同じ町に暮らしてめぐりあったんだ。おまえたちを路頭に迷わせたりはしないよ。いっしょに静かに年取っていこうじゃないか」って。
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写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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