[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2012年03月26日

ココちゃんの復活のものがたり

　大震災の被害に遭われた方たちにかけることばを、いまだに見つけられずにいる私ですが、きょうは、ココちゃんの物語をご紹介したいと思います。

　ココちゃんは、埼玉県川口市のとあるマンションの裏庭に住み着いていた、白黒のまだおとなになりきっていない雌猫でした。住民の女性ＯさんとТさんからごはんをもらっていたものの、近寄るとさっと逃げる臆病なノラでした。ねぐらは、自転車置き場の自転車のかごのなか。ハチワレ顔が海苔つきおむすびみたいなので、当時は「おむすび」と呼ばれていました。近くのふとん屋さんでも可愛がってもらっていて、家の中に入り込むこともあったようです。

　６年前の３月１５日。ふとん店は火事で全焼してしまいました。焼け跡に「猫の焼死体があった」と消防士さんは言っていたのですが、翌朝にはありませんでした。

　午前中に、マンションに住む猫好きのМさんが外出する際、裏庭の新聞置き場の古新聞紙のうえに見慣れない猫が前足を伸ばしてぐたっとすわっているのを見ました。「全身が焦げ茶色で、顔がぐちゃぐちゃでしたが、ケンかでもしたのかと、さほど気にせず、通り過ぎたんです」とМさん。

　その猫がいつのまにか自転車置き場に移ってきたときになってはじめて、おむすびを可愛がっていた人たちが口々に言い始めたのです。「まさか・・・」「でも、あのこじゃない？」

　焦げただれたおむすびでした。Мさんが動物病院に電話をすると、「感染症で死んでしまうからすぐにつれてきて」とのこと。なんとか運び込んだОさんは先生に安楽死を頼みました。おむすびは、どう見ても「生」より「死」に近いように見えたからです。

　ところが、先生がおむすびを抱き上げたとき、ぐったりした焦げ茶色の塊は、後ろ足で先生のおなかを蹴りました。「このこは生きようとしている！　できるかぎりのことをしてみましょう」と先生は言いました。

　そして、奇跡は起こりました。おむすびは、先生の言ったように、ひたすら生きようとしたのでした。ただれた目や焼けた耳先や溶けた肉球は元にもどることはありませんでしたが、焦げた体には数ヶ月で新しい毛が生えてきました！

　おむすびは、いま、Мさんの家の６匹めの猫になり、名前もココちゃんになりました。どのくらい視力があるのかはさだかではありませんが、ふつうの生活をしているそうです。先輩猫のニャン太くん（１６歳）のことが好きで好きで、いつもあとを追いかけ、寝るときも一緒だとか。

　Мさんのお嬢さんが撮って送ってくれた写真には、ネズミに耳をかじられて耳が短くなってしまったドラミちゃんのような、ふっくらと利口そうなココちゃんが写っていました。生き抜いたその姿を、こころから気高いと思いました。

写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹茉莉子（さたけまりこ）

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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