大震災直前のこの猫日記で紹介した珈琲豆店「と庵」のコナちゃんのこと、覚えてますか? コナちゃんは、マスターとの情愛をますます深めて、顔つきもますます可愛くなっています。
さて、このきなこちゃんも、元ノラで、と庵にやってきた猫です。東京湾に面した船橋というかつてさかえた港町の川べりで娘共々、いつもおなかをすかせていたノラでした。近くに自宅のあると庵のママさんが自転車で通るたびに、餌をねだって必死に追いかけて来たのですって。春先に入院することになったママさんが、入院中にひもじい思いをさせてはかわいそうだと、思い余って、母と娘を店に保護したというわけです。
カルーアと名づけられた娘のほうは、子猫だったので、すぐに先住猫のリッチ君や先に保護されたコナちゃんと仲良くなりました。でも、母のきなこちゃんのほうは、バリバリのノラでしたから、リッチ君たちにもマスターにも心を開かず、やむなく店の焙煎室に閉じ込めて様子を見ることに。
そのころ初めてきなこちゃんに会った私は、きなこちゃんがガラス窓越しに外を眺めている姿に、「ひもじくても外を走り回っていたころのほうが恋しいのでは・・」と、ふと思ったりもしました。4月のことです。
先週、久しぶりにと庵にいってみました。きなこちゃんは、まだ焙煎室暮らしでしょうか。
焙煎室にきなこちゃんはいません。マスターが笑って言いました。「きなこだったら、散歩に出てるよ。そのうち、にゃっ、にゃっ、と鳴きながら帰ってくるよ」。
その通りでした。暑い盛りのお散歩から帰ってきたきなこちゃん、裏口から店に入るときに、にゃっにゃっ、と「ただいま」の挨拶。おやつのササミをたいらげると、店の通路でこてっと寝てしまいました。とても元ノラとは思えないふっくらとしたおなかを無防備に見せて。
猫はなんて順応性があるんだろう、という思いとともに、「愛されてるって、こんなにも猫を安心させるんだなあ」と、感じ入った私でした。
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道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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