房総の漁村の昼下がり、漁具小屋の前で、漁を終えてくつろぐ漁師さんたちの姿が、遠めにも楽しそうでした。
近づくと、日焼けした海の男たちの視線の先には、1ぴきの若い猫。たしか去年の5月生まれの猫です。夏には、母猫が、この子ともういっぴきの黒猫の兄弟を一生懸命子育てしていました。餌はちゃんともらっているようで、ひとなつこくころころした母子でした。
秋には、兄弟だけになっていました。母猫は、病気で死んでしまったと、漁師さんのひとりが教えてくれました。
「母ちゃんは、俺たちで葬式やって埋めてやった」とのこと。「兄弟だけになっちゃったけど、うまい魚たんと食わせてるし、みんなで可愛がってるから、ほれ、ノラとは見えねえ毛並みだろ?」と、自慢げでした。
きょうは、灰白の猫が、おじさんたちにかまってもらっています。猫を見るおじさんたちの目尻は下がりっぱなし。「よく太ってんだろ、デブって呼んでんだ。猫だって人間だって太ってなくちゃ、ちーっとも可愛げがないっぺ」。
ぽっちゃり族を代表して、「ありがとうございます」とお礼を言うと、一座は「あーはっは」と大笑いでした。
「黒猫ちゃんはきょうはいないですね」とたずねると、おじさんのひとりが「あの子はこのまえ、朝、冷たくなってた。前の日は元気でいっぱい食べてたから、車に轢かれたっぺや。母ちゃんの隣に埋めてやったよ。さびしくないっぺ。ほれ、そこのいーっつも遊んでた草むらに眠ってる」。
飾り気なく、余分な感傷もまじえない話しっぷりに、海の男たちなりの猫たちに対する愛情がしみじみと伝わってきました。
デブちゃん、じゃなかった、灰白美形ちゃん、母ちゃんのぶんも兄ちゃんのぶんも、長生きするんだよ!
さて、今週は、お知らせ3つです。
・新宿ゴールデン街の名物バー「クラクラ」店内のギャラリーで、今月13日から29日まで、「道ばた猫たちへ」と題したミニ写真展をしています。3.11以前の猫たちと、以後に出遭った猫たちを対比させました。クラクラのマスターは、劇団椿組を率いる役者さんで、とても気持ちのいいひと。「写真を見に覗いていくだけでもいいですよ。まあ、ついでに飲んでいってくれればうれしいけどね」とのこと。ゴールデン街には、路地猫もちょろちょろしています。新宿文化の発信地ゴールデン街をのぞきにいらっしゃいませんか。クラクラは定休日なしです。
・浦安駅から歩いて5分の路地にある「猫実(ねこざね)珈琲店」で、月末まで、豆本展をやってます。わたしも参加して、「影猫」という豆本を置いています。さまざまに工夫を凝らした作家さんたちの豆本の数々、手にとってお楽しみください。
・発売されたばかりの「猫びより」3月号で、写真集「みさおとふくまる」が話題の伊原美代子さんの取材記事を書いています。この写真集の魅力は、みさおさんも、ふくまるくんも、大地に自分の足でどーんと立って生活しているもの同士ということです。どの頁にも、房総の光が満ちています。伊原さん自身、浮わついたところのまるでない、まっすぐな瞳のかたでした。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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ジーンとくるレポートでした、去年の秋平塚港に釣りに行った時、とっても可愛いい兄弟猫に会いました。食べ物に苦労していないのか、おおらかな猫ちゃん達だったのを思い出しました。
by ゴマパパ 2012-02-15 05:19
きぃれいな子、漁師さん達に愛されているんですね。我が家を通り道にしているサバちゃんとくろの母さんもいつの間にか姿を見なくなってしまいましたが生きるすべは教えていったようです親のすることはどこでもいっしょですね。
by りょう 2012-02-15 08:36