立春というのは、暦の上の春で、体感的には寒さの真っ盛りだとずっと思ってきました。
でも、うちの猫たちを見ていると、人間よりもずっと早く五感いっぱいに春を感じ取っているらしいのです。
というのは、我が家の庭の片隅に白こぶしの木があるのですが、小さなちいさな花の蕾が寒気のなかでふくらみ始めたある日、猫たちは、毎年恒例の行事をするのです。
そのことに気づいて、パソコンのなかの写真の日付を調べたところ、3年前は2月5日、おととしは2月3日、去年は1月30日、今年は、寒さのためか2月18日でした。
我が家の早春の猫行事というのは、こぶしの木の一気駆け上りです(笑)。若手の猫から年寄り猫まで、じゅんぐりに駆け上って、青空をうっとりと見渡します。その浮かれた姿は、全身で「春だあ!」と言っているようです。
猫は、4月5月生まれがいちばん多いそうですが、やはり芽吹きの季節におなかのなかで子どもを育む、動物ならではの本能なのでしょう。
「猫の恋』「春猫』「浮かれ猫」とは、俳句では春の季語で、発情期のそわそわ浮かれた猫たちの様子をさすそうです。我が家の猫たちは、みな手術済みですが、それでも体内の奥深くに、浮かれ出したい原始の本能を秘めているんですね。季節の訪れをたっぷりと楽しむ。こんな贅沢を人間は忘れかけているみたい。
では、わたしも、木登りがわりに五感いっぱいに春を感じに、町へ浮かれて繰り出すことにします。そう言ったら、あるひとに「あなたは一年中、浮かれ猫でしょ」と言われてしまいました。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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