まだらちゃんは、サビ猫の雌で、6歳。たぬき顔と、太めのころんとした足がチャーミングです。千葉県にある一軒家カフェの「窓猫」です。店の中には入ってこず、ひがな窓辺に寝そべって、夕暮れになると姿を消す自由猫さんなのです。
カフェの窓は、カウンターのうしろにあって、テイクアウトの窓も兼ねているので、窓の内外に棚があります。まだらちゃんは、この季節、暑い日中は内側の棚で、涼しい夕方は外の棚でまどろみます。
このカフェは、10年前のオープンで、まわりにはまだまだ原っぱが多かったそうです。娘さんと一緒にカフェをなさっているオーナーの女性の話では、まだらちゃんにはじめて会ったのは、まだ子猫から中猫になる幼な顔のころ。原っぱにひとりで座っていたのだとか。近所の人の話では、ノラが産んだ子猫の一匹らしく、はぐれてしまったようです。
餌は、餌やりボランティアの方からもらっていましたが、猫好きなカフェの母娘にも少しずつなついてきて、いまや開店時間には窓の下で「いれて!」と啼くのだとか。窓辺で、通りすがりのひとたちからも可愛がられています。
「なんと、悠々自適のいい猫人生ですね!」と言うと、オーナーの女性が「まだらちゃんには、好きで好きでたまらなかった彼がいたんですよ」と、こんな話を始めました。
まだらちゃんは、早い時期に餌やりボランティアのかたのお世話で避妊手術を受けた身ですが、そのころ、どこからかやってきた白黒の雄猫と仲良くなり、いつも2匹寄り添って原っぱにいたそうです。ことにまだらちゃんの様子は、「好きで好きでたまらない」ようだったと、いまも語り草のラブラブぶり。彼はまだらちゃんよりかなり年上のガタイのいいオトコ。まだらちゃんにとっては、初恋であり、保護者の存在でもあったのでしょうね。
ある日、いつもこの2匹に食事を運ぶボランティアさんが、自転車で通りかかったとき、原っぱでうずくまる白黒猫のかたわらで啼き続けているまだらちゃんに気づきました。前日まで元気だった白黒さんは、何があったのかまったく足腰たたないようす。これは大変と、ボランティアさんは白黒猫を籠に入れ、自転車で獣医さんに連れて行くことに。
ところが、自転車が走り出すと、まだらちゃんが必死で追いかけてきたのです。まだらちゃんがついてきたことなどこれまでになく、けっして遠出などしない猫だったのに、いつまでもいつまでも追いかけてきます。そして・・・信号のある大きな交差点で、ついにまだらちゃんはあきらめたのでした。
白黒さんは、外ではもう暮らせないからだになりました。ボランティアのかたが、必死に追いかけてきたまだらちゃんの姿にこころうたれ、2匹一緒にマンションで飼ってやりたいと、まだらちゃんを連れ帰ろうと何度も試みたのですが、まだらちゃんはどうしてもつかまらなかったそうです。そのかたに避妊手術に連れて行かれた怖い記憶がそうさせたのでしょう。
そして、月日がたちました。避妊済みとはいえ、チャーミングなまだらちゃんに言い寄る土地のオトコは後を絶たず。でも、まだらちゃんはなびきません。
きょうも、カフェの窓から外を見て過ごすまだらちゃん。その目の先には、いまは駐車場になってしまった原っぱがあります。大好きな彼が、マンションで大事にされ、動けなかったからだもすこしずつ治ってきたものの、まだらちゃんと別れて2年後くらいに天国へたびだったことを、まだらちゃんは知るよしもありません。
まだらちゃんは、カウンターのドアの下をくぐりぬけて店に入ることができるのに、けっして店猫にはなろうとしません。外が見える窓が定位置。
まだらちゃんは、いまも彼が原っぱに戻ってくるのを待っている。そんな気がしてなりません。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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まだらちゃんの切ない恋の話に涙がでました。天使になった彼もまだらちゃんのそばに居てくれてるような気がします。
by yoshi 2012-08-07 15:57
く~~~~(泣)。哀愁を帯びた眼差しの先には追憶の日々があるのですね。百万回生きたネコの話のようです。
by チャレンジ 2012-08-07 16:10
今年観たどの映画よりも、上質で素敵で感動の映画を見たような気持ちです。
まだらちゃん。なんていい女!!!!!
いつか遠い未来にまだらちゃんが天国に行ったら
きっと白黒さんと会えますように!!!!
by りりか 2012-08-07 17:20
せつない・・・泣けます(´;ω;`)
まだらちゃん可愛いです。
天国にまで思いが届きますように。
by ゆうか 2012-08-07 19:03
はぅー。
泣いてしましました。
なんて一途なんでしょう!まだらちゃん!!
彼の最期まで一緒にいさせたかったですね。
避妊手術が怖かったとのこと。
こういうエピソードを聞くと、人間って物凄く勝手な生き物なんだと思い知らされます。
彼女の目にはカフェの窓からは彼の姿が見えるのかもしれませんね。
チープな言葉になりますが、
いつかあの世でまた一緒にいられることを願って……
by しのりゅう 2012-08-08 17:04
原っぱで2匹の猫が寄り添う・・素敵な光景ですね。
今でも、まだらちゃんには、駐車場ではなく、原っぱが見えているのでしょう。切ないですが、幸せな思い出に包まれて、まだらちゃんはとても幸せなのかも。猫の恋って、人間よりもずっと純粋で本気だなぁと思います。
by ちぃこ 2012-08-08 21:02
いつもこのブログを楽しみにしてくださってありがとうございます! お詫びがあります。お寄せくださったコメントが反映されていないという不具合があったのが、さきほど判明しました。さかのぼって8日間のコメントは復元できました。それ以前にコメントをよせてくださったかたで、消えてしまった方、よろしかったら、ふたたびお寄せいただけるととてもとてもうれしいです。いつも、みなさまのコメント、励みにしています。
by 道ばた 2012-08-09 18:02
涙が止まりません。とても良い話を聞かせて頂きました。
by レオ 2012-08-09 21:21
まだらちゃんの恋の話には胸がシーーンと泣けました。
とてもいい話でした。いつか、天国でまた会えますように!
by りリア 2012-08-11 17:09
こみあげるものを必死で堪えて、このコメントを打っています。
まだらちゃん、ほんとに可愛いお顔。
いつかきっとまたその彼に会える日を信じている眼をしていますね。
その彼の分までまだらちゃん、元気で長生きしてね☆
by すもも 2012-08-16 16:47
素敵なブログにまだらを載せてくれてありがとうございます!
今日も定位置でのんびりしています。
by foo 2012-08-20 23:34
foo cafe さま
コメントありがとうございます! 近いうちに、まだらちゃんに会いに、おいしい梅しそパスタ食べに、行きます!
by 道ばた猫
by 道ばた猫 2012-08-24 09:09
まだらちゃんの生きざま、かっこいいですね
今私がエサをやっているサビ猫フクちゃんの彼氏も白黒の猫で年上です。2匹とも不妊・去勢手術をしたので、これからも仲良く穏やかに過ごしてほしいと、あらためて思いました。
by イリス 2012-09-04 22:35