[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2012年09月18日

ミーちゃんへ

　ミーちゃん。　はじめて会ったのは、3年前だったかな。古い漁師町、浦安の猫実（ねこざね)という町の路地にある、小さな珈琲店「猫実珈琲店」に立ち寄ったときだったね。

　珈琲店のとなりは原っぱで、そのとなりは、小さな児童公園。その向かいがミーちゃんのおうちだった。ミーちゃんは珈琲店に興味津々で、前をいったりきたり。ときどきのぞいて、にゃあ～～にゃあ～～（ここには猫用メニュウはありませんか）って啼いてたね。

　ミーちゃんは飼い主のおじさんととってもいい仲だと、珈琲店では評判だったよ。いきもの好きのおじさんが朝夕公園のドバトたちに食パンの耳をなげてやるのを、やきもち焼いて、すごーく陰険な目つきで見てたね。ときには、ドバトを追いかけようとしてたけど、追いついたためしがなかった。だって、ミーちゃんは、その頃すでに１５歳だか１６歳だか、結構な年増だったんだものね。

　ミーちゃんは、ながいこと公園暮らしのノラだったんだってね。おじさんちが庭先で飼ってた大型犬が死んじゃったら、間髪をいれず、「そんじゃあ、こんどはアタシがお世話になりますよ」ってな感じで、すーっと家の中に入ってきたんだって？

　ミーちゃんは気が強くて、角の履物やさんちの猫さんを追っかけては、「こらあ、ミー！」って履物やさんのおばさんに叱られもしてたね。　

　でも、ミーちゃんは、さびしがりやだった。おじさんもおばさんもお出かけしちゃった日は、２階の窓から屋根伝いにおりてきて、家の前を通る人に「にやあ～～にゃあ～～（アタシの飼い主ったらまだ帰ってこないんですよ、そろそろおなかがすいてきたんですよ）」って訴えてたね。そんな、ちょっぴりいじわるで、さみしがりやで、抜け目なくて、食いしん坊のミーちゃんは、ムーミン谷のミィに似てるな、って思ったりしてたんだ（笑)。ムーミン谷のミィは、ミーちゃんみたいにおばあちゃんでなくて、ちいさな女の子なんだけどね。目つきもちょっと似てたかな。

　ミーちゃんと仲良くなって、路地で私を見るなり突進してくるから、ミーちゃんの写真は、いつもブレブレ。そのうちバッチリ撮りたいと思ってた。

　今年の6月、ミーちゃんはものが食べられなくなって、おじさんはそれは心配して、ミーちゃんを籠に入れ、自転車にのってお医者さんに通ってた。そのあと、ちょっと元気になったって、聞いていたけど、ミーちゃんは路地に出てこなくなっちゃった。夏の終わり、猫実珈琲店さんに「このところ、ミーちゃん見かけませんね」って話したら、ミーちゃんが旅立ってしまったことを教えてもらったんだよ。

　夏のあいだ、ちょっと食べては、２～３日行方不明ということが何度か続き、雨の日、暗くなっても帰ってこないミーちゃんを探しにいったおじさんが、暗がりで動けなくなってるミーちゃんを見つけたとか。一晩中、おじさんは介抱したけれど、翌朝、ミーちゃんはいっちゃった。

　ミーちゃん。この路地のひとたちも、珈琲店に集まる猫好きたちも、みーんなミーちゃんのことが大好きだったよ。いじわるでさみしがりやで抜け目なくて食いしん坊のミーちゃんがとっても気に入ってたよ。さびしそうにしてるおじさんに、ピンボケの写真を届けたら、おじさん、とっても喜んで、「食卓に飾って、いつもミーといっしょにゴハン食べてます」って言ってたよ。ミーちゃん、しあわせな一生だったね！

　ミーちゃん、いま、ムーミン谷にいるのかな。ひとやすみしたら、生まれ変わって、また、猫実の町に帰っておいで。ドバトをいじめてる新顔の猫がいたら、「あっ、ミーちゃんが帰ってきた」って、思っちゃうかもね。

写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹茉莉子（さたけまりこ）

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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