[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2012年10月23日

崖を登ってきた猫

　ギャラリー＆カフェ「風草」は、陶芸家松平美子さんの工房内にあって、印旛沼をみおろす広いコナラの林のなかにたたずみます。

　吹き渡る風のなか、木漏れ日をあびて、ここちよさげにしているのは、ここの看板猫風ちゃん。推定年齢１２歳の、長毛の温和な雌猫です。

　風草は、道路からかなり奥まったところにあり、風ちゃんの目のさきには夕暮れの印旛沼が広がっています。印旛沼が見下ろせるということは、かなりの崖、ということです。

　１１年前、風ちゃんはこの崖を必死に登ってきました。民家もそんなにない場所ですし、崖の下は原野のような風景ですから、さぞおなかがすいていたでしょう。捨てられて何日もさまよっていたのかもしれません。とにかく、風ちゃんは、風草をめざして崖を登ってきたのでした。

　松平さんを崖の上にみつけた、痩せてひもじそうな猫は、「いまいくから待ってて！」とばかり、にゃあにゃあ啼きながら、ひたと松平さんをみつめて登ってきました。

　困ったのは、松平さん。犬派で、猫は苦手だったのです。たどり着いた猫に対し、「しっ、しっ、あっちへいって！」と見ないようにしていたとか。猫は、風草にくる人たちにおやつをもらっていついていました。

　みんなは松平さんに言いました。「とってもおりこうさんで、性格もいい猫だから、飼ってやって」と。一週間後、松平さんは、しぶしぶ猫を飼うことにしました。

　そして、猫の魔法！！　　　飼うと決めて、猫を触ったり、話しかけたりした日から、松平さんは風ちゃんにメロメロになってしまったのでした。「猫がこーんなに可愛いとは思ってもみなかったわ！とくにこのコの可愛さはトクベツ」と松平さん。「あのときの風ちゃんは、ココに決めた！という一途な目をしてた」とも。

　風が吹き抜ける風草の猫なので、「風」ちゃん。いまや、風草の看板猫、招き猫として、悠然と広い敷地内を散策しています。大腸の病気と闘っていますが、みんなに愛され、穏やかに日々をすごしています。去年の夏、ベランダで行き倒れていた「くっくちゃん」という白黒猫の後輩もできました。でも、松平さんの膝の上は、くっくちゃんに渡せない風ちゃん。抱っこをせがみ、松平さんの胸に顔をうずめるひとときが、風ちゃんの至福です。

　さて、いま、この風草で、手作り猫５人展をやっています。題して、［風のなかの猫たち」展。近在の作家さんたち（るいさん、あずみさん、ケンジさん、ちえこさん）４人に、友情参加の私。２７日土曜日まで、１０時から１７時までです。今回は、私は写真展示のほか、手作りも販売します。ミニブック、小さな額に入れた風の中で出会った猫の写真、ちくちく夜なべで縫った猫木綿のパッチワークのコースターなど。

　風景がいいだけに、車でないとちょっと不便なところにありますが、ここちよい秋風の中で、風ちゃんがお待ちしています。

　（　ギャラリー＆喫茶　風草　　千葉県印旛郡村山田１８１５－１）

写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹茉莉子（さたけまりこ）

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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