夏も遠ざかり、ひと気のなくなった海辺。釣り師さんのうしろで、雑魚(ざこ)のおこぼれを忍耐強く待っている猫がいました。
砂浜に放られて砂だらけの小さな魚をパッとくわえるや、その猫は、砂浜の坂道をどこまでものぼっていきます。いったいどこまで運ぶのだろう?と興味がわいて、その猫さんのあとをついていきました。
廃船の陰で、くわえていた魚を口からおとすと、船の中から下から、草むらから、わらわらと、猫たちがでてくるではありませんか! この子たちのために小魚を運んでいるのなら、この母さん猫はいったい海辺と廃船とを何往復しているのでしょう。でも、みんなそんなにひもじそうでもなく、人間を怖がらないのは、だれか世話をしている人がいるのかもしれません。見回すと、大皿や、水のたっぷりはいったバケツもあります。
その謎はすぐにとけました。近づいてきた漁師さん(日に焼けているのでわかりました)が声をかけてきたのです。「猫が好きなの?」
はい!と答えると、「みんなオレの猫。朝晩、餌やってる。いっぱいいるからたいへんだよ」。「10匹以上いそうですね」と聞けば、「17匹いるよ。ほら、そこにも、あそこにも」。ほんとだ! これはたいへんだ!
小魚をくわえてきたベージュいろの美形母さんの子どもがほとんどだそうです。「千葉のほうからも20代のおんなのこがよくこの子達に会いに来て日暮れまで遊んでるよ。あれは、オレに気があるんだな」。おもしろいおじさん!
問わずがたりで、おじさんはこんな話をしてくれました。17のときに母親が死んで、漁師の父親が自棄になって、自分もひねくれて家を飛び出し、遠洋船に乗っていたこと。父が年老いて、家に戻り、船を継いだこと。ひところはよく獲れて景気もよかったけど、いまはもう漁業はダメだし、足も痛くなったので漁師はやめたこと。
「年金生活になったけど、80くらいまでは、こいつら(猫)がいるから元気でいないとな。やっぱりこいつらがいないと、寂しいよ。餌代はたいへんだけどさ」
おじさんは、いまも海辺の漁具小屋で寝泊りしているそうです。楽しみは、一日の終わり、猫たちに餌を放りながらビールを飲むこと。 猫たち17匹を海辺の大家族だと思ったけど、おじさんも一員の大家族だったんですね。一家の大黒柱だから、体に気をつけて長生きしてくださいね!!
「また、遊びにおいで」といってくれたおじさんのそばで見送ってくれた猫たちも、「また遊びにおいで」と口々に言ってくれたような気がしました。
この海辺の猫たちをはじめ、漁村で会った猫たちの写真を、きょうから11日の日曜日まで、神奈川県秦野市の丹沢美術館で「漁村の猫たち」という企画展として展示していただいています。秦野市寿町6-19みどりやビル2階の、(たぶん)日本一ちいさな美術館です。11時から18時まで。近くにいらしたら、ぜひのぞいてみてください!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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17匹の面倒を看ているなんてすごいですね!
会いに行ってみたいな~~!!
by しのりゅう 2012-11-06 18:18
地元なので今日、丹沢美術館のぞいてみました。沢山の猫たちの写真でほのぼのとして帰ってきました!
by 299 2012-11-07 15:05
17匹の面倒を見てくれてるおじちゃん、尊敬の一言です!!元気で
これからも猫たちをよろしくお願いします。
by りんりん 2012-11-11 18:46