自家焙煎の珈琲専門店「と庵」にいくと、運よく今日は猫営業部3匹が揃って出迎えてくれました。夕方いくと、たいてい2匹は自宅に早引けしているのです(笑)。
ふだんは外回りで忙しい営業部長のリッチくん(9歳)は、相変わらずの巨体ですが、温厚そのもの。営業部員は、アメショーのコナちゃん(4歳)と、うす三毛のきなこちゃん(4歳)です。えっ、リッチくんとコナちゃんしかいないって? カウンターの一番奥に目をこらしてください。
ここはきなこちゃんの定位置で、ふっくらしたおなかを見せたまま、「いらっしゃい」をしてくれました。さすが、男性客から「色っぽい」と評判のきなこちゃんです。
コナちゃんときなこちゃんがここにやってきたいきさつについては、「幸せになったコナちゃん」と「きなこちゃん」で書きましたが、2匹とも会うたびにふっくらと表情豊かになっていきます。コナちゃんは、ブリーダーの夜逃げで保健所行きのところをマスターたちに救い出されたコ。大きくなるまでケージから出されたことがなく、話しかけられたこともなかったので、来たときは無表情無反応でしたが、いまでは金色の瞳が生きてる喜びでピカピカ。きなこちゃんも来たときは、「ひもじかったんだろうなあ」としのばせる風貌の猫でしたが、ふっくらするに従い、なんとも愛らしい猫になりました。
コナちゃんときなこちゃんがつぎつぎとやってきたとき、マスターに「迷わずひきとったんですか?」と聞いたことがあります。答えは、「そのままにできなかったんだよ」でした。
きなこちゃんは、通いのママさんのトシエさんが、自転車で通るたびに必死で追いかけてくるノラきなこちゃんを、店につれてきただけに、「ママが一番」を貫いています。そんなきなこちゃんを見やりながら、マスターは言いました。
「誰でも一生に一度はトクベツな『運命の猫』に出遭うもんだね。トシエママにとってはきなこ。僕にとっては、ブーちゃんがそうだった」
ブーちゃんというのは、ブルボンちゃんのことで、リッチくんを産んだお母さんです。4年前、私がはじめてこの店に入った寒い日、焙煎室の中のベッドで、ブーちゃんとリッチくんは寄り添っていました。ブーちゃんはすでに交通事故で半身不随になっていました。
「ブーに遭ったのはもう10年前。散歩中に公園を通ったとき、そこにいたんだ。まだ幼な顔でね、かわいいコだなあ、と思って『おいで』と言ったら、駆け寄ってきた。そして、ずっとうしろをついてくるんだ。『うちまでくるかい』と言ったら、公園からバス通りを通ってすぐうしろをついてきた。部屋にはいると、安心して寝てしまったんだよ。えさをあげたわけでもない、抱き上げたわけでもない、僕に声をかけてもらうのをそこで待ってた、という感じだった。選ばれた、と思ったね」
賢くて、機敏で、美人で、3拍子揃った看板猫だったブーちゃん。彼女が半身不随になったあと、マスターの一日は、朝4時半におきて、自力では排泄できないブーちゃんのおしっこをしぼりだしてやることから始まりました。お湯で朝夕2回からだを拭いてやり、お店でくつろぐマットもたびたび取り替えてやります。店内から外を眺めるだけの生活になってしまったブーちゃんでしたが、お客さんみんなに可愛がられ、大好きなマスターとも、甘えん坊の息子リッチくんとも四六時中一緒で、ブーちゃんはいつも柔らかい光に包まれていました。
ブーちゃんは、いま、雲の上です。
「あんないい猫はいなかったよ。彼女に選ばれて幸せだったね。こっちが選んでやったとか、救ってやったとか、そんなんじゃないんだ。猫が『この人!』ってニンゲンを選ぶんだ。それが『運命の猫』ってやつさ」
マスターのはなしは、なんだか恋物語を聞いているよう・・・。うちの猫は・・・と思いを馳せれば、どの猫もどの猫も「運命の猫」だったように思える、果報者の私なのでした(笑)。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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初めまして。
いつもは読み逃げしています。笑
「と庵」のマスターさんの言葉が心に染み入りました。
我が家にも保護したメンズ(猫ですが)2ニャンおります。
甘えん坊の膝のり巨体の、ふーちゃん。
気分屋の、くーちゃん。
私も選んでもらえたのでしょうか。
それなら、こんな幸せな事はありません。
by リトル 2013-01-29 12:03
うちにいるあんこちゃんも、間違いなく
私を選んだと思っています。
毎日うちに来てくれてありがとうって
言ってます。
にゃんこは我が家に笑顔を運んでくれてるので。
by わかります 2013-01-29 13:05
マスターのおはなしに深く頷いてしまいました。
猫がニンゲンを選ぶって、その通りだと思います。我が家の猫に選んでもらえた私はラッキーだなぁって。
運命の猫・・・。もちろんいますが、どの子か言ってしまったら、他の子に申し訳ないので、内緒にしておきます(笑)。
ブルボンちゃんの日向ぼっこの写真。本当に幸せなのが伝わってきますね。
by ちぃこ 2013-01-29 21:08
かわいい!♪
by マイメロ 2013-01-31 22:53
”運命の猫”を読みながら、ちょっと涙ぐんでしまいました・・。
マスターさんの運命の猫さんは、これからはもう現れないのでしょうか・・。ブーちゃんはマスターさんにとって運命の猫さんだったんでしょう・・。でもまたマスターさんを運命の人だと感じて寄ってくる子がいるのではないかな・・と思ってしまいます。猫・・ってちゃんとわかるらしいですからね。
by りんりん 2013-02-01 21:02
とっても、あったかいお話で、涙が出ました。
”運命の猫”…私にとっては、にゃあこさん。
出逢えて私は幸せ者だ~って、感謝してます。
ブーちゃんは、マスターと出会えて幸せだったし、
マスターも幸せだったし、まさに運命の出会いだったんですね。
by にゃあこママ 2013-02-02 15:40
>リトルさん、わかりますさん、ちぃこさん、マイメロさん、りんりんさん、にゃあこママさん。
コメントありがとうございます! 運命の猫は、生涯一匹だけの人もいれば、どの猫もそうだって人もいるのではないでしょうか。ブーちゃんは、夜にちょっと外出したマスターの後を追って(そのことをマスターは知らず)事故に遭ったそうです。それだけに、マスターには「運命の猫はお前だけだよ」という思いがあるのでは、と思ったりします。
by 道ばた猫 2013-02-03 22:26