洗ってもらったばかりのふわふわのからだに、気持ちよさそうに春の日差しを浴びているのは、「浪右衛門(なみえもん)」くん。黄色にうすい縞々がある綺麗な雄猫です。
彼の年齢は、不詳です。東日本大震災後の2011年9月、保護団体が福島県浪江町に入ったとき、コンビニ店で売られている唐揚げ棒の匂いにつられて近寄ってきたところを保護されたのです。3ヶ月、もとの飼い主を探しましたが、見つかりませんでした。
里親探しが始まって、もらわれていった先が、ここ、文京区向丘の光源寺という歴史のある浄土宗のお寺です。江戸時代から、「駒込大観音(おおがんのん)さま」として親しまれている寺です。地域に開かれた寺をめざし、境内には、クローバーの広場や子どもの遊び場もあります。毎年7月9日10日の「ほおずき千成市」は、たくさんの人でにぎわいます。
東関東に大震災がおきた2年前、光源寺を中心とした地域の人たちはすぐに集まりました。毎日、大量のおにぎりを境内で握って、被災地に届け続けたのです。ここは、東京大空襲を体験した土地ですから、光源寺にも、災害時のためのテントや調理器具が備わっているのです。支援活動は、さまざまな形で、今も続けられています。
光源寺の住職様一家は、大の猫好きで、これまで飼っていた猫を亡くしてみんなでさみしい思いをしていたとき、「もらうのなら、被災地の猫を」ということで、浪右衛門がもらわれてきたのでした。
寺の一人娘で副住職さまの話によると、きたばかりの浪右衛門は、物音に過剰反応し、余震の少し前に棚に上ったりと、かなり神経質だったそうです。
「ほんとうに怖い思いをしたのでしょうねえ。左耳が折れていて、アタマを触ると凹んだところがあるのですが、命からがら生き延びたのだと思います。やってきて1年以上たった今では、食いしん坊で、何があっても起きないコですけど(笑)」
震災のあと、どんな光景を見たのか、浪右衛門の薄緑の瞳は、澄み切って、2年目の春を眺めています。光源寺さんが「浪右衛門」と名づけたのは、今も住民のほとんどが原発事故のために戻れずにいる浪江町のことを、片時も忘れずに支え続けたいという思いがこめられているのだと思います。
副住職さまは、「自死」を防ぐ活動も個人的になさっています。「人生飛ばず落ちず、楽しくもあり」というブログには、大震災後に、「僧侶としてするべきことは、苦しみに向き合っている人の心に寄り添うこと」だと、改めて思いを定めていく心の軌跡が綴られています。人と人の絆、人と猫の絆、根っこは同じことなんですよね。「おたがいのいのちを尊重し、寄り添う」ということ。
誰かがいっしょだと、安心してこうして庭にでるという、浪右衛門くん。もとの飼い主さんが見つかって引き取りたいという希望があったときは、返す約束だそうです。
「そのときを想像すると、ちょっと悲しいですが、飼い主さんがご無事なことがなにより。そのときまでを、わたしたちのそばで、ゆっくり過ごしてほしい」と言う副住職さまでした。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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浪右衛門かわいい! 元の飼い主さんが元気で暮らしていますように。
by となかい 2013-05-07 19:38
浪右衛門、優しい買主さんに巡りあって、もう怖くないね。大人猫を保護したときは、今までの猫性がどんなものだったのか、聞いてみたい、知りたいと思うことがあります。でも、知らなくてもお互いを思いあって寄り添って生きられるよね。猫が幸せなら人間もしあわせ!人間が幸せなら猫もしあわせ!
茉莉子さんの記事はしあわせの種まきしているみたい。読んでいて気持ちがあたたかくなる。
猫の目線にピント合わせた写真もすてき!早く本にならないかなー。
by ruineko 2013-05-07 21:42
>となかいさん
>ruinekoさん
光源寺さんで浪右衛門の前にいた猫も、飼い主に夜逃げされ、マンションで2週間後に救い出された猫だったそうです。ひどい仕打ちをするのが人間なら、救い出すのも人間の役目。1匹の猫に差し出す手が無数にふえれば、無数の猫が救われます。ノラであっても地域猫であってもすべての猫が安心してひなたぼっこできる世の中になってほしいなあ!!
by 道ばた猫 2013-05-08 10:44
可愛い、いつまでも、健康でいますように!
by ゆっきぃ 2013-05-08 16:24
震災も含め、世の中にたくさん悲しい事がある中、ここのブログに来るととても心が温かくなります。
私も何かしなくちゃ!っていう気にもなります。
by にゃにゃ 2013-05-08 18:12
がんばれ!がんばれ!! いつまでも健やかに。。。
by ぷ 2013-05-08 21:40
光源寺さんにおじゃますると、時々出てきてくれます。機嫌がいいときは、ご挨拶。私は「なみ~」と呼んでいます。
「なみー」の瞳はどんな風景を見てきたのかなぁ・・・と思うと、切なくて悲しくなります。
でも、境内を悠々と闊歩するようになって、浪江から縁あって向丘の猫になっってきたなぁと思って見ています。
これからも仲良くしよう、なみ~(^^)v
by きょんた 2013-05-09 21:08
浪右衛門はきっと、浪江町のこと忘れてはいないでしょうね。辛い思いも、でもきっと、その前の幸せな時のことも。
今はこうして、安心して幸せに暮らしていますって、飼い主さんに教えてあげたいですね。
by ちぃこ 2013-05-10 20:17
>ゆっきぃさん
>ぷさん
人気がなく変わり果てた町で、半年、どんな思いでいきのびたのでしょうね・・。まだ救出を待っているコたちのモデルケースとして、健やかに幸せに暮らしてほしいです。
>にゃにゃさん
いろんな猫たちに遭ってきて、猫にはかなわないなあ~と思うことたくさんです。わたしも猫たちにこころを温めてもらってます。
>きょんたさん
浪右衛門とおともだちなのですか!向丘は、いい町ですね。光源寺隊の活動もすばらしいです!
>ちぃこさん
わたしもそう思います! 猫って、すべて心の奥にしまいこんでいて、そのうえで、ひょうひょうと生きている気がします。人間にはなかなかできませんよね。
by 道ばた猫 2013-05-11 13:17
浪右衛門くん、最初の写真を見て驚きました。
うちのニャンコのレツ君に瓜二つなんですもの!
薄緑色の瞳といい、フサフサの毛並みといい。
うちのレツ君は毎日能天気にノンビリ過ごしていますが、
浪右衛門くんは大変な思いをして生きてきたのですね。
でも今は優しい家族と一緒にノンビリ楽しく暮らしているんですね。
良かった。
どうかこれからも心安らかにいられますように。
遠く離れた高知県の空から
浪右衛門くんにそっくりなレツ君と一緒に祈っています。
by taa 2013-05-11 22:26
>taaさん
ノー天気なレツくん、さぞ可愛がられているんでしょうね~ わたしは、たいがいの毛色の猫(もとノラ)と暮らしましたが、考えてみれば、長毛の猫とは縁がなく・・・ふわふわの猫、あこがれてます(笑)。
by 道ばた猫 2013-05-14 01:04
おととい、光源寺に浪右衛門に会いに行って来ました!
道ばた猫を読んで浪右衛門に会いに来た第一号だと、副住職さんに言われました。
浪右衛門にかみかみされながら(笑)境内にふく心地良い風の中、泣けてきました。
いつも生きるちからを届けてくれるブログが、私をまたより生きる行動につなげてくれました。
ありがとうございます。
by じゅんこ 2013-05-21 06:09
>じゅんこさん
浪右衛門に会いにいったのですね!! 浪右衛門も副住職さんも喜んだでしょう~ わたしもまた会いにいくつもりです。光源寺さんは、境内に大きな癒しの力がありますよね。「生きるちからをいつもとどけてくれる」・・・と言っていただけてほんとうに嬉しいです。生きる力をくれるのは、猫たちで、ただ紹介しているだけなんですけど・・・。
by 道ばた猫 2013-05-23 10:07