[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

　関西の5月旅、2日目の午後は、神戸から奈良に回りました。会いたい猫がいるのです。



　いました、いました。観光中心地からは外れた高畑町にある、陶器と雑貨の店「あんず舎（や）」の看板猫、べっちゃんです。

　ベっちゃんに会うのは、1年ぶり。相変わらずの美貌です。

　「もうすっかりおばあちゃん猫になっちゃって」と、店主のヒロコさんは言いますが、どうしてどうして、ますます女っぷりに磨きがかかっているではありませんか。

　ベっちゃんに初めて会ったのは、彼女があんず舎に来たばかりの頃。若い頃のベっちゃんは、それは絵になる綺麗な娘でしたが、今よりちょっと輪郭がぼんやりした感じでした。これは、9年前の写真です。



　ベっちゃんは、いま、14歳。人間でいうと、70代ですが、べたつかない凛とした人あしらいと言い、瞳の張りといい、前足をやや斜めに揃えてのすっとした座り姿といい、崩れを感じさせません。「自分の立ち位置を確立した大人のオンナの魅力だなあ」と、同性として惚れ惚れしてしまうのです。

　ベっちゃんは、あんず舎向かいのおうちでごはんをもらっていたノラ母さんが産んだ仔猫の1匹です。当時飼っていた黒猫くうちゃんが噛み癖のあるキツイ性格の子だったので、「2匹目はぼーっとした猫がほしいな」と思ったヒロコさん、いちばんぼーっとしていた白猫とんちゃんを選んだのですが、動物病院で「きょうだいで育てたほうがおっとり育つ」と勧められ、「ついでに」もらったのがべっちゃんでした。ベっちゃんの本名は「べーこ」。ベージュ色からついた名前です。



　ベっちゃんは、あんず舎にもらわれた翌年の、1歳の時、JR西日本のマナーポスターに起用され、一躍有名になりました。

　美貌を買われての起用だったに違いないと、ずっと思っていたのですが、今回、真相が判明。
　あんず舎は奈良公園のすぐそば、志賀直哉の旧居隣にあります。そののどかな風情を見込まれて、ポスターのロケ地にと頼まれたそうです。2階の和室で、イケメンモデルくんの撮影開始・・・というところへ、「なにやってんの～」とばかりに、べっちゃんが横切りました。そこで、急遽、イケメン君が美猫を抱く図に変更。でも、じつは、イケメン君は猫が苦手で、こわごわ抱いていたのでした。べっちゃんはといえば、カメラ目線で、堂々のモデルぶりでした。（ポスター写真は、あんず舎ブログ花びより2001年8月3日で、見ることができます）



　あんず舎さんには、作家ものの陶器やガラスがずらり並んでいますが、ベっちゃんは、そのテーブルの上が大好き。すいすいと歩き回っていますが、なんと、14年間、一度も作品を落としたり倒したりしたことはないそうです。



　くうちゃん、とんちゃん、すでに亡く、「ついでにもらってきた」ベっちゃんが今はヒロコさんの寵愛を独り占めして、遠くから訪ねてくるファンもいっぱい。「べっちゃん、ここにお乗り」とヒロコさんが言うと、どんな高い所でも、ひらりと飛び乗ってしまう身の軽さ。「サーカスに売れるわ」と、ヒロコさんは笑いますが、ベっちゃんを置いては遠出もできないヒロコさんなのです。

　ところが、そんなふたりに、先日、事件が。べっちゃんは、ヒロコさんが忙しくしてかまってくれないと、気を引くためにぷいと家出します。わざと道路を渡って、迎えにこさせたりと、そんなカワイイ家出なのですが・・・・その日はベっちゃんの姿がどこにも見当たりません。探し回って、聞こえてきたのが、ご近所の屋根の上からの鳴き声。木から登って、降りられなくなっていたのでした。ところが、あいにく、そこの家の奥さんは夜おそくまでお留守。ご主人のほうは「猫なんてそのうちおりてくるものだ」と、とりあってくれません。翌朝、2階に上がらせてもらって、ようやく救出しました。

「それで、家に連れて帰ってからの、ベっちゃん、どうしたと思います？」と、ヒロコさん。そりゃあ、ゴロゴロゴロゴロ大甘えだったんでしょう？　きっと、ひっついて離れなかったのでは？

「違うの。なんで下から見えてるのにすぐに助けないんだと、すっかり怒ってしまって、まるで私を無視なの。あのときは、べっちゃんとの甘い仲も終わりかと、ほんとうに悲しかったわ」

　ベっちゃん、3日後には、元通りの甘えんぼさんに戻ったそうです。べっちゃんの怒り顔、見てみたい気もします～　　きっと、奈良興福寺の阿修羅像に似ていたんじゃないかな。ベっちゃんの鼻すじや瞳のラインを見るたびに、猫って仏像にも匹敵する完璧な造形美だと思ってしまうわたしです。