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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2014年06月24日

森で生きぬいた猫

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彼女の名は、グレース。推定年齢7歳の長毛種です。窓辺のソファーでゆったりとくつろぐ様子は、その名のごとく優雅そのもの。マスカット色の賢そうな瞳は、しんと静かな光を湛えています。まるで深い哀しみを味わったことのある人のような・・・。

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 彼女は、5年前のある日、突然ひとりぽっちになりました。夜逃げをした飼い主一家に置き去りにされたのです。
 彼女が住んでいたのは、時代から取り残されたような古い建売住宅がぽつんぽつんと並ぶ集落。住みかをなくした彼女は、集落のはずれにあった森の奥へと姿を消し、「森の住人」となりました。それまでの名前で呼ばれることは、もはやなく。

 外暮らしを知らなかった猫にとって、森の暮らしは、どんなだったのでしょう。嵐の日や酷寒の日、身を横たえる場所はあったのでしょうか。木々の間から射し込む朝日や小鳥のさえずりに心慰められることもあったでしょうか。もとの飼い主が迎えに来る日を信じる気持ちはいつまで続いたのでしょうか。

 哀れに思った集落の人たちが、森の入口までときおりごはんを運んでくれていたようです。ごはんの時間になると、彼女は、森の入り口に生えている「根曲がり杉」の根っこの上に座って、人を待つようになりました。

 森の番人のようにひっそりと佇むその姿を、たまたま通りかかって見つけたのが、ルイさん。ルイさんは、里親先から逃げ出して行方不明になったきょうだい猫を探すため、近くまで来ていたのです。(道ばた猫日記「出戻りピーナッツ」

 その猫は、頬はこけ、目は鋭く、毛並みもばさついていて、ヤマネコのような風貌でしたが、人恋しそうなようすから、すぐに元飼い猫だとわかりました。集落の人から事情を聞いたルイさんは、彼女をなんとか飼い猫に戻してやりたいと思いました。ふと見ると、近くに「グレース洋品店」という看板が。それで、とっさに、猫に「グレース」」という名をつけ、ときどき通ってごはんを与え、里親を探し始めました。

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 写真は、森の住人だった頃のグレース。ルイさんに話を聞いた友人のムヨク・アズミ夫妻がグレースに会いに出かけていったとき、カメラマンであるムヨクさんが撮った写真です。(左上は、森の入り口にある根曲がり杉の上で人を待つ姿。左下は、アズミさんを見上げる必死な目。右写真でわかるように、痩せていて、目も鋭かったグレースです)。 
 すでに保護猫を何匹も飼っているアズミさんは、友人のチカコさんに、グレースを家に迎えてくれないかと持ちかけました。猫を飼ったことのないチカコさんでしたが、心動かされ、森に会いに行くと、グレースはすぐに森の奥から姿を現しました。「『私をここから連れていって』とすがるような風情だった」と、チカコさんは言います。グ レース の森での生活はやがて2年目になろうとしていました。

 グレースに情の移ったチカコさんは、犬派のダンナさまをなんとか説き伏せ、グレースを迎えることに。
 そして、3年が過ぎた今――。

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 猫がやってくることにあんなにしぶしぶだったダンナさまのそばで、グレースがごろんごろんしています。「私がもらってきたのに、グレースは主人が大好きなの」と、チカコさん。ダンナさまも、こんなに甘えるグレースが可愛くて可愛くてたまりません。「グレース」と呼ぶのは気恥ずかしいとのことで、「グーちゃん」と呼んでいるそうです。窓辺のグーちゃんに顔を寄せて、メガネをチョイチョイされても、かまいすぎて腕を甘噛みされても、目尻が下がりっぱなし。

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 グレースは、未発症の猫エイズキャリアでした。
「あのままだったら、発症して遅かれ早かれ、森で誰知らず朽ち果てていたでしょう。ルイさんとアズミさんのおかげでうちに迎えてやれて、ほんとによかった。グレースは人間の言葉がわかるとっても賢いコ。『ダメ』と言ったことは2度としません。賢いからこそ、2年近くもあんな森の奥で生きのびられたのだと思うの。主人の遊び相手をしてのんびり長生きしてほしいわ」と、チカコさん。
 グレースに初めて会った時、ルイさんもアズミさんも「どこかふつうの猫とは違った不思議なオーラの猫」という印象を持ったと言います。私もまったく同感ですが、もしかしたら、グレースは、森の生活で生きのびていく不思議な力を身につけたのかも。そうそう、チカコさんがこんなことを言っていました。「グレースは、黒っぽくなったり、茶色っぽくなったり、いろんな色の猫に自在に変わるの。私が初めて森に会いに行く前、『アメショーが好き』と言ってたら、アメショー柄になって待ってました(笑)」

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 チカコさんは、自宅でフラダンスを教えています。ゆったりしたフラの音楽は、グレースにとっては至極心地よいらしく、レッスン中に部屋に入ってきて、踊る足元で寝入ってしまうのだとか。

 置き去りにされたことも森での苦難も、泣き言ひとつ言わず受容し、なにごともなかったかのごとく、そっと人間に寄り添う・・・・猫ってほんとうにグレースフル(気高い・潔い)な生き物ですね!

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写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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みにゃさまのコメント

読んでいて、涙が出ました。
でも、今のグレースに『可哀想』の涙は失礼ですね。
こんなに幸せそうなんだもの。
ご主人の目尻が下がりっぱなしになるのも、しかたありませんね~。
美人猫で甘え上手・・・女性の欲しいもの、持ってるんだもん。笑
エイズは発症しない場合もあると聞いた事があります。もしそうなら、グレースが発症しない事を心から願います。

by リトル 2014-06-24 15:18

グーちゃん、生きる力の強さを感じました。
穏やかに暮らせる日が来て
本当に良かった。 甘甘のパパと仲良くしてる姿、安心したし 良かったという思いで涙が出ました。 キャリアであっても、今 良い薬や治療方法ある。
グーちゃんの幸せと健康を願います

by トム 2014-06-24 15:48

素敵な飼い主さんに、癒されてよかったですね。家の、みみちゃんに瓜二つ!!そっくりで、コメントしたくなりました。

by きらこ 2014-06-24 17:14

なにげなく話した言葉が素敵な文章になり、力強くグーを語ってました。
見てくれた友人からも感動したと連絡があり、感謝です
グー!長生きしようね

by グーママ 2014-06-24 17:23

うちの猫ちゃんももちろん家猫。
外を通る車の音、たまに来るセールスの人、全ての外の世界にビクビクしてます。
もし、何かあって外で迷った時生きていけるのか心配でたまりません。
なのでグレースちゃんの2年間を思うと辛くって涙が出ました。
また、力強さも感じました。
グレースちゃんは素敵な飼い主が見つかってよかったですね!

by まき 2014-06-24 17:35

グレースという立派な名前がぴったりな素敵なねこちゃんですね!幸せになって良かった(つ∀`).+°o*。.''
グーちゃん長生きしてね(*''ェ`*)

by はっちゃん 2014-06-24 19:22

グレースに甘えられる家族が出来て良かった。。
こうやって繋いでいく人たちがいることに感謝しなければと思います。
幸せに生きられる猫がまた一人増えたことを嬉しく、本当に嬉しく感じています。

by ぐり 2014-06-24 21:39

>リトルさん、 >トムさん

 グーちゃんの健康を祈ってくださってありがとうございます! ストレスフリーになったので、発症確率は低いと思います。
苦労した分、長生きしてほしいですね!

 >きらこさん

 みみちゃん、瓜二つなんですか~ じゃあ、賢そうな綺麗な目の猫さんなんですね!

 

by 道ばた猫 2014-06-24 23:36

>グーママのチカコさん

 はい、パパもママもグーちゃんも、そろって長生きしてくださいね!

>まきさん

 飼い猫が家をなくすのは、本当につらいと思います。ことに長毛は外での生活に不向きなので、グーちゃん、ほんとによく頑張った!!

by 道ばた猫 2014-06-24 23:45

>はっちゃんさん

 「グレース」という言葉には、神の恩恵という意味もあるそうですから、ほんとうにぴったりの名前ですね。まさか、目の前の洋装店からとった名前だったとは(笑)。


>ぐりさん

 ごはんを運んだ集落のかた、ルイさん、アズミさんご夫妻、チカコさんが繋いだグーちゃんの命。それぞれができることを注いだ結果ですよね。被災地という奥しれぬ深い森に置き去りにされた動物たちにも、グーちゃんのような救いを繋がねば、と、心から思います。

by 道ばた猫 2014-06-24 23:53

森で出逢ったころのグーちゃんは目も鋭くどこか悲しげでした。
チカコさんのおうちで暮らしているうちに顔つきも穏やかになり、本来持っていた優雅さと甘えん坊の性格でご主人にかわいがられています。
グーちゃんの森での苦労はチカコさん一家に出逢うための試練だったのかも。
頑張って生き延びて、いま大きなしあわせの中にいるグーちゃん、ほんとによかったね!

by ruineko 2014-06-25 10:03

>ruinekoさん

 ほんとうに別猫のように猫相の変わったグーちゃん。いろんな思いをして生きてるのは、ニンゲンも猫も同じですね~。ルイさん、ありがとう。

by 道ばた猫 2014-06-25 12:03

グーちゃん、そしてグーちゃんを想う周りの方々の優しい気持ちに心が熱くなりました。グーちゃん、チカコさん御夫妻の愛に包まれて、思いきり幸せを満喫してください。

by アダチ ケイコ 2014-06-25 20:25

>ケイコさん

 森のある集落は、奥まっていてよその人は通り過ぎない場所。ルイさんが目に留めなければ、いまのグーちゃんはいません。運命、縁ってあるのですね。

by 道ばた猫 2014-06-26 13:04

読後、涙ぐんでしまいました。純粋で一途なグーちゃん、優しい家族に巡り逢えて本当に本当に良かったね。うちにも猫が1匹おりますが、改めて優しく接しようと考えさせられました。

by ティミー 2014-06-27 06:34

>テイミーさん

 パパが帰ってきたときのグーちゃんの甘えぶりは、「にゃ~~~ん」と、どこから声を出すの?(チカコさん談)という感じで駆け寄り、お膝の上が大好きだそう。 テイミーさんちの猫さんも甘えん坊なんでしょうね~

by 道ばた猫 2014-06-27 09:01

初めまして、グレースちゃん顔つきが穏やかになりましたね。一匹でも幸せになれて良かったです。まだまだ野良で必死に生きてる子達が一杯いるでしょう・・・なんとか野良生活から脱出させて、ゆっくり安心して寝られるように、里親様探したいですね。

by WWWpin 2014-07-01 00:06

>WWWpinさま

 どんな猫も安心して暮らせる権利を有する、ってねこ憲法を町々で採用してほしいですね!! 今は、せめて私たちができることから一歩ずつ。

by 道ばた猫 2014-07-01 08:08