「あっ、お客さんだ・・・」
ほんのちょっと人見知りなダイちゃんは、5歳の男の子です。じつは「長期貸し出し中」でここにきているのですが、もうかわいがられてかわいがられて、この家になくてはならない存在になっています。
5年前、片手に載るくらいの小ささの時、保護されました。保護したのは、先々週の猫日記「猫を助ける人たちの輪」で紹介したヨウコさん。保護猫のフウちゃんが脱走して行方不明になった時、谷中墓地あたりまで夜中に探しに行って、お寺の塀の上にちょこんと乗せられていた小さな子猫を発見したのです。
いったんは家に戻ったヨウコさんでしたが、カラスに食べられそうな小ささを思い出すと、ほっておけず、靴の箱を手に、そこへ戻りました。ひどい風邪で目も鼻もぐちゃぐちゃ、下痢もしていましたから、そのままでは助からなかったでしょう。(68日間行方知れずだったフウちゃんはその後無事発見され、我が家へ戻ることができました)
ヨウコさんのお母さんの初子さんは、すぐ近くに、ヨウコさんの弟夫妻と暮らしています。
当時、86歳。急激に認知症が進んで、食欲もなく、げっそり痩せてしまい、無表情・無反応で言葉も発せず、首をうなだれて座っているだけの日々でした。周囲は、もう寝たきりになるのを覚悟していたそうです。
そんなとき、ヨウコさんが連れてきた小さなダイちゃんは、お母さんの足元にじゃれついて可愛い盛り。
ヨウコさんがダイちゃんを連れて帰ろうとすると、お母さんは言いました。
「その子、うちに置いときなさい」
ダイちゃんがとっても気に入ってしまったのです。
同居のお嫁さんも賛同したので、ヨウコさんは、ダイちゃんをお母さんに貸し出すことにしました。
その日から、初子さんの認知症は、あれよあれよという間に、改善されていったのです!
写真は、ダイちゃんがやってきてしばらくたった頃。
初子さんは食欲が戻ってきて、すこしふっくらしてきました。
ダイちゃんは、湯上りの初子さんの足に絡むのが好き。消毒液とばんそうこうが欠かせなくても、「しようがないねえ」と、
甘々の初子さんです。
ダイちゃんが大きくなるにつれ、初子さんの顔つきも、5年前とは打って変わって、シャキッとしてきました。
ダイちゃんをかまったり、話しかけたり、笑ったり、初子さんの表情が豊かになったことに、ヨウコさんたちは、びっくりするばかり。
「猫好きの母はずっと猫をきらしたことがなかった。でも、認知症が一気に進んだ時は、そういえば、猫がとぎれたとき。たった1匹の猫だけど、小さないのちがそばにあることで、母は毎日のはりあいを取り戻したようです。一日一日と、顔つき
がしっかりしてきて、奇跡を見ているようでした」
初子さんは、沖縄本島の農家出身です。楽しそうに、こんな話を聞かせてくださいました。
「農家ではね、どこも猫を飼っていてね、よそから猫をもらってくるときは、ちょっとお金を払うの。猫が元の家に戻らないようにね。子どものころに飼っていた猫は、学校から帰るのを道で待ってて、おままごとの相手もしてくれた。森の遊びに行くときもついてきて、木に登って、私たちが遊ぶのを見下ろしてたわ」
ダイちゃんと一緒にいると、楽しかった子ども時代にたちかえり、初子さんは感情がいきいきとしてくるようです。
「可愛いですよ。寝てるとね、耳元でにゃあにゃあ(入れて)って言うんです。ボーイソプラノでね。それで『いいわよ、どうぞ』って、お布団を持ち上げて入れてあげるの」
ダイちゃんと暮らして、5年。初子さんは91歳になりましたが、デイサービスにも週に5回通えるほどお達者で、訪問医療の先生からは「あと10年は長生きを保証します」と言われているそうです。
長期貸し出し中のダイちゃんですが、もうすっかり「初子さんの猫」ですね。
「母を 元気にしたダイの評価は高く、私たちの話題の中心」とヨウコさんが言えば、初子さんは微笑んでこう言います。
「ぬいぐるみと違って、猫って反応があるし、よくおしゃべりもしておもしろいわね。そうね、孫みたいなもんだわね~」
それにしても、猫のチカラって、ほんとうにすばらしい!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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なぜだか、泣きそうになりました。
初子おばあちゃんとダイちゃんが、いつまでも仲良く暮らせますように。
by ひしがた 2015-05-19 19:52
そう!
猫って不思議なチカラを持っているんです♪
だって、ヒト嫌いで極力ヒトと関わらないで生きてゆきたいと思っていたワタシが猫関係なら初対面のヒトでもなんのためらいも無く分け入って行けるんですもの(笑)。
福島でレスキュー活動をしていたときに、救援本部シェルターに里親さんとして犬を引き取りに来たおばあちゃんをふと思い出しました。
「老人と穏やかに暮らせる老犬を」とあえて高齢の犬を家族のバックアップを元に引き取ったおばあちゃんです。
あの時の風景を思い出しながら記事を読ませて頂きました(泣)。
by kaoringo 2015-05-19 21:30
>ひしがたさん
はっちゃん(初子さんは家族からこう呼ばれています)とダイちゃん。
ほんとうにいつまでも仲よく元気に暮らしてほしいです!
by 道ばた猫 2015-05-20 01:47
>kaoringoさん
猫たちの不思議なチカラがもっと認知され、「各家庭に(少なくとも)一匹は猫」がいきわたれば、
猫問題は一気に解決するのにと思います~
私もkaoringoさんと同じく、猫を介してなら、人見知りでなくなります(笑)。
by 道ばた猫 2015-05-20 01:55
初子さんまるで別人のようですね。
きっとダイちゃんと初子さんの間には魂の響き合いのようなものがあったんですね。
いつまでも仲良く暮らしてください。
私も近所の小料理屋の入口にいつもいるサビ猫さんの写真撮ってる人がいると、見知らぬ人でもついつい「かわいいですよね〜」って声かけちゃいます。^_^;
by 才蔵 2015-05-20 12:30
>才蔵さん
わかります! 「なんてことないその辺の猫」に話しかけたり、写メしてる人を見ると、たちまち親近感わいて、話しかけたくなります!
by 道ばた猫 2015-05-20 23:53
猫のちからって すごい! わたしも猫と一緒に暮らしていなければ、寝たきりになっていたかも。痛みがあっても、熱があっても、猫のトイレ掃除とごはんのお世話はシャキッとできるわたし(^^♪
猫たちに感謝です♪
by ruineko 2015-06-01 15:57
>ruinekoさん
猫と暮らしていなければ・・・・もう少し貯金ができて、旅行も夜遊びもできて、部屋もおしゃれに飾れたかもですが、猫と暮らしていない私なんて、考えられません!!!(笑)
by 道ばた猫 2015-06-19 03:29