[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

みにゃさま、こんにちは。
今日は、猫さんではなくワンちゃんのお話しです。

今年の７月に佐藤さんご夫婦の元へ迎えられたチャッピーちゃん。



生後約３ヵ月で捨てられていたところを保健所に引き取られ、殺処分直前のところを動物愛護団体に保護されました。

ちょうどそのころ、犬好きの佐藤さん夫妻が「飼うなら保護団体から」ということで探していたところチャッピーちゃんに出会い、めでたく家族の一員になりました。

ところが、このチャッピーちゃん、おうちの中でご夫婦の愛情を受けてもう1ヵ月以上一緒に過ごしているのですが、いつもいるお部屋の定位置から出ることを拒み、座りダコができるほどじっとしてお散歩を嫌がります。人やちょっとした生活音にもおびえ、吠えたりおねだりなどの感情表現もせず、時々夜鳴きをするという状況です。

感情を表に出さないので、意志の疎通ができているのかご夫妻は不安になることもあるそうです。

お部屋にお邪魔すると、チャッピーちゃんは私を見ないようにしています。話しかけたり近づいてみても一切目を合わせようとせず、目をそらします。ですが耳はよく動いており、人間の会話は一言も漏らさず聞いています。



チャッピーちゃんの定位置のクッションの横にぴったり寄り添って顔をのぞき込んでみましたが、とことん目をそらします。触れることはできますが、明らかに怖がり、我慢をしていて、「早く終わって、お願い！」と心の中で祈っています。

お話しするのは難しい状況でしたので、チャッピーちゃんの過去を見てみると、次のような映像が見えました。

１、２歳の小さな女の子と若い夫婦、おじいちゃんおばあちゃんもいる田舎のお家でチャッピーちゃんは生まれたようです。生んでくれた犬のお母さんや兄弟、大好きな女の子に囲まれています。
女の子とは大の仲良しで、毎日お庭で大はしゃぎで遊んでいる様子が見えました。しあわせな日々そのものです。

ところが場面は一転。山のふもとのあぜ道に、抱えたチャッピーちゃんをポンと置くおじいちゃんの手が見えます。遊んでもらえると思いきや、おじいちゃんはチャッピーちゃんを残して車で走り去ってしまいました。待てども待てども誰も迎えに来てくれません。

チャッピーちゃんにとって果てしなく長い時間が過ぎました。
不安と恐怖と寂しさで胸がつぶれそうな毎日。小さな体で生きていくのに必死です。しかしチャッピーちゃんは、「今日はもしかしたら迎えに来てくれるかもしれない！」と希望を持ち続けました。

そして、今日まで一日たりともそのことを忘れたことはありません。

佐藤さんご夫婦と暮らすようになって約２ヵ月。お二人の日々の愛情により少しずつ心を開いてきてはいますが、人間に対する恐怖と不信感は根強く残っています。
また同じことが起きるのではないかと気が休まる時がないのです。

部屋を出たりお散歩を嫌がるのは、また捨てられるのではないかと思っているから。人におびえたり目を合わせないのは、この人に捨てられるかもしれないと思っているから。生活音におびえるのは、保健所内で物音がよく反響していたのを、目の前に迫った死の恐怖と共に思い出すから。
感情を表現しないのは、これらすべての過去とそれに伴う思いが心を大きく支配しているので、自分の気持ちを表現する余裕が無いからです。恐怖と悲しみの中で本来の自分を出せる動物や人はいないのではないでしょうか。

夜鳴きをするのは、寝ている間、あの幸せだったころを夢に見て、目覚めた時に違うというショック、悲しみ。恋しいお母さんや女の子を思い出し、涙を流して泣いているのです。日中に定位置のクッションの上にいる時やお昼寝の時もよく思い出していますが、それと同時に、「私のどこが悪くて捨てられたのかな...」と自責の念も抱えています。

まずはチャッピーちゃんに、お二人が望んで迎えたことを伝えることが大切です。すでにご夫妻は愛情をかけておられるのですが、さらにということでアドバイスさせていただきます。

「私たちの家族の一員になってくれますか？ 一生私たちと一緒にいてくれますか？」と尋ねることで、自分が望まれ必要とされていることが伝わります。
チャッピーちゃんを迎えるその日がどんなに待ち遠しかったか、初めて迎えた時にどんなにうれししかったか、どんなにかわいくて愛しいと思ったかを伝えるのも良いでしょう。

そして過去にあったことの分かち合いです。ひとりぼっちですべてを抱え込んでいたチャッピーちゃん。襲ってくる悲しみを分かってくれる人がいれば悲しみは半分以下になります。安らぎとしあわせな気持ちが増していくと共に、やがて悲しみはゼロに近づいていきます。




夜鳴きした時や日中不安そうにしている時に、「怖かったね。寂しかったね。」と声を掛け、そっと体に触れて温もりを伝えます。体の温もりと一緒に愛情も必ず伝わります。
チャッピーちゃんは外に出ると遠くの山を見ている時があるそうですが、あの時を思い出しているので、しゃがんで同じように声を掛けたり優しい眼差しで触れてあげて下さい。

日常の言動で気をつけることに関しては、見下ろす視線・影・手・突然の動きが特に恐怖の対象なので、視線は低く、チャッピーちゃんに影がかからないようにして、無言で持ち上げたり触れたりはしないことです。これらはすべて捨てられたあの時を思い出す動きだからです。

お二人の動きと会話に過敏になっていますので、今まで以上に声を掛けることが大切です。立ち上がる時、お部屋を移動する時などの何か行動を起こす前は、ほんのちょっとしたことでも声に出してあげてください。目が合ったら優しい笑顔で返してあげて下さいね。このひとつひとつが安心に繋がり、私は大切にされていると必ず伝わります。

本来のチャッピーちゃんはちょっぴりクールなお姉ちゃん気質です。生まれ持った性格と傷ついた過去の経験から、人の気持ちを汲んだ優しい行動を取るでしょう。飼い主さんに何かあった時にはそっと寄り添って心の支えになってくれるはずです。

一方通行から始まった私とチャッピーちゃんとのコミュニケーションですが、お話を進めていくとチラチラこちらを見てくれるようになり、最後には見つめあえるようになりました。そして、「ありがとう」と私の手を丁寧に舐めてくれました。口数の少ない彼女なりの精一杯の好意に、胸がいっぱいになりました。



最後、駅までチャッピーちゃんとご主人が車で送ってくれたのですが、未来の希望を現すかのようにいい表情をしていました。

佐藤さん、チャッピーちゃん、ありがとうございました。いついつまでもお幸せに！

訪問から2週間ほどあとに後日談をいただきました。

先日はありがとうございました。岩津さんに取材に来ていただいて以来、チャッピーはすごくなついてくれるようになりました！ 

やっと、ゲージから出て一緒に遊んだり、近くに座ったり、散歩に行くのもあんまりビビらずに行けるようなったんです！ 多分、岩津さんからぼくらにチャッピーの過去などを教えてもらって、少し理解し合えたおかげかなと思います。 

ご主人の佐藤 亮さんはカメラマンをされており、今回の素敵なお写真は撮っていただきました。どうもありがとうございました！