ここは、植木の町・安行(あんぎょう)にある、新車・中古車販売店「カーミリオン」。
事務所に一歩入れば、ワオ‼ カウンターの上に、漆黒の猫が「いらっしゃいませ!」とお待ちかねではありませんか。
分身の術のように、店内には黒猫がもう一匹。
「通りから猫が見えたから」と、ふらり入ってくるお客さんもいます。
そりゃあ黒猫が2匹もいたら、猫好きなら、入りたくもなりますね!
ソファーでの、買い替えのご相談には、2匹揃って立ち会います。
そっくりで一見見分けがつきませんが、ヤマトくん(4歳)と、ナデシコちゃん(2歳)は、別々に保護されたノラの子です。よくよく見ると、やっぱりヤマトくん(写真上)は精悍で、ナデシコちゃん(写真下)は女の子らしい顔つきをしています。箱の中が大好きで、文字通りここの箱入り息子と箱入娘なのです。
カーミリオンのオーナーご夫妻と猫との絆の物語は、店内に飾ってある写真の子犬の物語抜きには語れません。
写真の子犬「ブーちゃん」は、奥さんのミサさんが独身時代、妹さんが公園で拾ってきた捨て犬でした。当時、お母さんは寝たきり状態。子犬の里親を探し始めたのですが・・・子犬は寝たきりのお母さんに
よくなつき、なつかれたお母さんには生きる張り合いが生まれました。それで、家で飼うことに。初めて飼う動物でしたが、人間の気持ちがよくわかることに驚いたと言います。
「ブーちゃんがいつもそばにいてくれたおかげで、母は6年も頑張れました。母が死んだとき、ブーはまったくご飯を食べなくなり、『ブーちゃんを連れて行かないで』と亡き母に願って、やっとブーは食べ始めたんです」と、ミサさん。
ミサさんはブーちゃんを連れて結婚。ブーちゃんは二人で開いたお店の看板犬を長いこと務めました。
ブーちゃんがめっきり年老いた4年前の夏の暑い盛り、お店の脇に衰弱した子猫が。ガリガリなのに、逃げ回り、4時間かかってようやく保護。それが、ヤマトくんです。
「当時、ブーちゃんは16歳半。首も曲がってもう動けない状態で、余命1カ月と宣告されていました。だけど、初めて見るちっちゃい動物に、母性本能をかきたてられたみたいで、ヤマトと仲よく寄り添いあってるうちに、みるみる元気になり、ご飯をパクパク食べ始めたんです。ヤマトがいないと探し回るほど。ヤマトのおかげで、ブーは、そのあと1年半、18歳まで生きました。ブーが死んだとき、ヤマトも元気をなくしました。きっと、自分の亡きあと私たちをあまり悲しませないために、ブーはヤマトをうちに呼んだんだと思います」
犬のお母さんと暮らしたおかげで、ヤマトくんは、おもちゃをくわえてきて「遊んで」と催促し、投げると持ってくる、犬みたいな子になりました。
それにしても、消えそうになっているいのちを、無心なる小さないのちがこんなにも元気づけるとは。愛情とは、種を超えてめぐり巡るのですね。
さて、ブーちゃん亡き後に、ナデシコちゃん登場です。ブー母さんをなくしてしょんぼりしているヤマトくんのために「可哀そうな猫がいたらもう一匹迎えよう」と思っていたご夫妻。近所の農家でノラの子を保護したという話を聞き、ヤマトくんに「お嫁さんほしい?」と訊いたら、即座に「にゃあ」と答えたので、もらいに行きました。
ヤマトくんは、やってきた小さな女の子がかわいくてかわいくてたまらないふうで、やさしく見守るように育ててくれました。
そう、またもや、愛情の循環が。小さな動物にも、きっと「無条件に愛された記憶」というのが心の奥に大切にしまわれていて、より小さな存在に向かい合ったとき、慈しむ気持ちがあふれ出るのかもしれません。人間だって、同じことなのでしょう。
そうそう、ナデシコちゃんには、ちょっと困った性癖があるのだとか。「布を食べてしまう」子なのですって。獣医さんには「ケージ内飼い」を勧められましたが、可哀そうでそれはできず、その代わり、布という布は全部しまっておく羽目に。じゅうたんもはがし、キャットタワーのロープも外したウッデイな暮らしです。
ところが、あるとき、商談中のお客様の足元にナデシコちゃんが居座っていたと思いきや、気がついたときには、靴紐4本が食べられていました! 猫好きのお客様だったのでお咎めなしだったそうですが、ナデシコちゃんは病院行き。
「それ以来、入ってきたお客様の足元をまず見る癖がついてしましました」と、ミサさん。
だけど、2匹は、自分たちのいのちを繋いでくれた父さん母さんに、ちゃんと恩返しをしています。
「ヤマトとナデシコは、お客さんを招いてくれるんですよ。猫が可愛がられている店だから信用できる、ここで車を買い替えたいってお客さんが結構いらっしゃるんです。悪い人のはずがないって(笑)。おかげで、いいご縁がいっぱいできました」と、笑顔のご主人です。
ミサさんは地域のノラの里親探しのお手伝いもしていて、猫がつないでくれたご縁もたくさんできたそうです。
帰りに立ち寄った「安行東盆栽」店にも、元ノラの長毛レイくんと、茶白のダイヤくんが住みついていて、若旦那やお客たちに可愛がられていました。
盆栽店の一代目は職業柄、野良猫を見ると反射的に追い払っていたそうですが、居つかれてしまったら、「カワイイもんだなあ」と、すっかり猫好きに。
きっと、レイくんとダイヤくんも招き猫として大いに恩返ししてくれることでしょう。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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なんて心温まる話でしょうか。うちもぜひここで車を買い替えたい!
by もにえ 2015-09-29 23:02
カーミリオンさんの前を通ると、ガラス越しにヤマトくんとナデシコちゃんがいて「あーいたいた^^」と幸せな気持ちになります。
あたたかくてやさしいご夫婦に可愛がられて幸せな子たちですね!!
by やまちゃん 2015-09-29 23:21
二匹(特にヤマト君)は、小さな黒豹のようですね!
かっこいいです^ ^
・・わたしも猫ちゃんに紐齧られても怒らないタチです(*^_^*)
でも、体のこと考えると、困った癖ですね>_<
・・盆栽店の猫ちゃんたちも幸せそうです(*^_^*)
by akiko 2015-09-30 07:27
>もにえさん
私も!です。
猫さん2匹が相談に乗ってくれると思います~
by 道ばた猫 2015-09-30 09:27
>やまちゃんさん
ガラス越しにいつもヤマトくんたちに会っていらっしゃるのですか!
会えた日は、きっといいことありそうですね~
by 道ばた猫 2015-09-30 09:32
お母さんとプーちゃん、そしてプーちゃんからヤマトくんへの愛情の受け渡しに 涙がこぼれてしまいました。
プーちゃんの腕をしっかと抱きしめている姿も、なんとも言えません。
種を超えた愛情を繋いだのはミサさんなのですものね、素敵だな(=^・^=)
by りょう 2015-09-30 09:37
>akikoさん
そうなんです。黒ひょうみたいなので、たま~~に「2匹もいてこわい・・・」とおっしゃるお客さんもいるそうです(笑)。気のいい穏やかな2匹ですけど。
布や段ボールを食べてしまう異食症の猫さんは結構多いようですね。お腹が痛そうにじっとしていたら要注意です。
by 道ばた猫 2015-09-30 09:37
>りょうさん
老いたブーちゃんの腕を「大好き」とばかり両手で抱え込んでいるヤマトくんの姿は、
ほんとうに、計算のない無償の愛を見せてくれていますね。ああ、動物って立派だなあ、と思います。
by 道ばた猫 2015-09-30 09:48
優しいパパさんとママさんが居るから、優しい~ぶーちゃんや、やまと君
おしとやかで天真爛漫な~なでしこちゃんに育つんですよね~(≧∇≦)
優しいパパさんとママさんから、
里親紹介して頂き1歳の姉妹にゃんライフしてます。
by ピンクレディ 2015-09-30 13:37
>ピンクレディさん
あっ、ミイちゃんとケイちゃんのお母さんですね! お話、カーミリオンさんで聞きました~ 姉妹でもらってくださってありがとうございます! 姉妹で同じおうち。しあわせですね~
by 道ばた猫 2015-09-30 22:11