エドくんは、推定3歳半のキジトラくん。
オオヤマネコ並みのみごとなマズル(鼻口部)の持ち主です。
お髭の根元の濃いブツブツが、マズル好きにはたまりません。
「体は大きくても、甘えんぼでとっても優しい子なんですよ~」
トモヨさんは目を細めます。
「ボクのマズルだって可愛いから、ほら、見てもらおうね~」
ミチハルさんに抱っこされているのは、茶白のアルくん。
アルくんのほうは、野ウサギのような牧歌的な顔立ちで、これもまた愛らしい子ですね。
「お父さん大好きだけど、お顔近すぎ・・・」とでも言いたげなアルくんは、まだ1歳半くらいの天真爛漫な子です。
見るからに性格花マルの2匹ですが、原発事故後に福島県の帰宅困難区域で生まれた猫。寒さ、ひもじさ、野生動物から襲われる恐怖など想像を絶する環境を自力で生きのびるしかなかった子たちなのです。
エドくんは、去年3月に、福島被災動物レスキューグループ「RAIF」により保護。骨格は大きいのにガリガリでした。
真菌ハゲや寄生虫の治療を要し、猫白血病ウィルスのキャリアであることも判明したため、一時預かりを引き受けたRAIF給餌メンバーのSさんの家では、先住保護猫とは別部屋でさびしい思いをしていました。飢えに苦しんだ記憶がそうさせたのか、底なしの食欲を見せ、みるみる大猫に。
そして年が明けた今年2月。吹雪の前日に保護された、幼さの残るアルくんも白血病ウィルスのキャリアでした。預かり主となったSさんの家で出会い、すぐさま兄弟のように仲良くなった2匹は、一緒に里親さんが見つかるのを待つことに。
白血病ウィルスのキャリアでも、発症するとはかぎりません。
ただ、発症してしまうと、治療はなかなかむつかしく、治療費もかかるため、里親探しは困難を極めます。
でも、RAIFの人たちは、希望を捨てませんでした。
2匹とも、人の温もりを知らずに育ったのに人間大好きっ子で、この上なく温厚で無邪気な性格なのですもの。きっと、この子たちと暮らしたいと願う人が現れると信じていました。
そして、今年5月10日、都内で開かれた里親会に、一緒のケージに入って出場。白血病陰性の先住猫のいる家は里親の対象外となるので、かなり狭き門となります。
そこへやってきたのが、ミチハルさんとトモヨさん。猫好きなふたりは結婚を前に、「ペット可」の住まいで暮らし始めたばかり。
こんな猫!というイメージがあったわけではないのですが、保護猫カフェなどに足を運んでも、ピンとくる子にめぐりあえずにいました。
たまたま、ミチハルさんが見た道ばた猫日記「ヘミングウェイ・キャット『このは』ちゃん」の記事の最後に、RAIFの里親会のお知らせがあったので、会場にやってきたのでした。
運命の出会いの瞬間を、トモヨさんは、こう語ります。
「その時、私は別の子を抱っこしてて、あっちでエドは別の人に抱っこされていたんです。ふとみると、エドがまん丸な目で私をじーっと見つめていて...。あっ、探していたのはこの子だ!と」
お互い、一目ぼれでした。エドを抱っこすると、エドは膝の上で安心しきって寝入ってしまいました。もう決まり!!
ミチハルさんも賛同したあとで、ケージに貼られた説明書きをよくよく見ると、「白血病(+)」の表記が。でも、それは、心変わりの要因になどならなかったのです。
RAIFの係の人はミチハルさんたちに、白血病キャリアである子を迎え入れる心構えを説明すると共に、「ふたりはセットなので、この子には、もれなくこちらの子もついてまいります」と、ユーモラスに、ケージの奥にいたアルくんを紹介。トモヨさんたちは、アルくんのこともすっかり気に入って、「仲良しの2匹を離れさせるのは可哀そう」と、2匹の里親になることを申し出たのでした。
2匹は、トライアルでやってきたとたん、さっそく「ぼくたちのおうち」の探検を始める馴染みっぷり。6月、めでたく正式譲渡となりました。
家族揃っての写真を撮らせてもらいました。エドくんもアルくんもちょっと照れています。
保護当時はタラちゃんイクラちゃんという名で呼ばれていた2匹。エドとアルの名は、絆のつよい兄弟が主人公の人気漫画からとったそうです。
きょうはちょっとはにかんでいるアルくんですが、じつはふたりの日常風景は、こんなふうなのです。
やってきて3か月ちょっとというのに、まるで生まれた時からこのうちにいるような感じではありませんか。
2匹でさんざんじゃれ合って、そのままもつれ合って寝てしまうというのが、毎日のパターンなんですって。
「白血病の発症の可能性などについては、RAIFのかたにとても丁寧に説明を受けましたし、自分でもよく調べ、すべて納得の上で迎えました。気をつけることは、そんなに格別のことはなく、普通の猫と変わりません。ふだんと違う様子だったら、早め早めに獣医さんに診せることくらいかな。RAIFのかたも何かにつけて相談に乗ってくださって強力にサポートしてくださるので、心強いです。もし発症したとしたら、その時はできる限りのことをするだけです」と、ミチハルさん。
「一緒に暮らしたいと思った子が、たまたま白血病キャリアだったということ。こんなに可愛い子たちはいません。やんちゃで天真爛漫で甘えん坊で、ほんとうに猫らしい猫。迎えてあげられてうれしい」と、トモヨさん。
おふたりの話からは、縁あったからには2匹をずっと「守り抜く」という気持ちがしっかりと伝わってきました。けっして悲観的ではなく、希望のほうを見つめて。
そうか、エドくんやアルくんのぷっくりマズルには、「愛されるシアワセ」がギュッと詰まっているんですね。
RAIFの第2回里親会は、今度の日曜日に世田谷区の猫喫茶「青の奇蹟」で開かれます。
運命の出会いがこの日もたくさんありますように。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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いつも本当に可愛い子達に癒されています。今回の内容とは直接関係なくてすみませんが、最近頻繁に猫の虐殺が起きています。ここでひとつ疑問に思うのは犯人はどこで猫を調達してくるんでしょうか。野良猫がそんなに簡単に捕まるとは思えないよね。だとすると、善人面した犯人が譲渡会で連れて帰っているのかと思ってしまいます。もうこれ以上猫が犠牲になるのは本当に耐えられません。譲渡会では審査を今より厳しくして欲しいです。一日も早く犯人が逮捕されることを祈ります。
by ふみちゃん 2015-10-06 19:05
どんな猫でもしあわせになる権利がありますね!!!
どんな猫でも周りを幸せにしてくれます!!!
by しましま 2015-10-06 19:06
きっとこの子達は、ミチハルさんとトモヨさんのところへ2匹揃って来るために、過酷な環境を生き延びてきたんじゃないかって思います。
猫白血病キャリアや猫エイズキャリアの子にとって一番怖いのはストレスだと思うから、大好きな『兄弟』と一緒にのびのびと暮らせる今の環境は、本猫にとって最高のおうちのはず!
by むぅきち 2015-10-06 20:02
>ふみちゃん
審査を厳しくすると、里親探しはより狭き門になってしまうし、ほんとうに保護団体のかたは、思い悩んでいらっしゃると思います。RAIFのように、譲渡後のサポートや連絡を密になさっているのはすばらしいですね。
by 道ばた猫 2015-10-06 23:53
>しましまさん
まったく同感です!
愛らしい猫、やんちゃ猫、オヤジ猫、病気がちの猫、おバカ猫、あばずれ猫・・・・みんなみんな心通いあい、私をしあわせにしてくれました。
by 道ばた猫 2015-10-07 00:01
>むぅきちさん
そうですよね~ アルくんのあの大股開きを見れば、ストレスなんてあるはずもなく、2匹揃って長生きしてほしいものです。
by 道ばた猫 2015-10-07 00:04
今日のカレンダーのゆちは、うちの子です。ゆちも白血病のキャリアで、じつはこの8月21日、天国へ旅立ってしまいました。本当に本当に強い子で、生きる、ということの意味を身をもって教えてくれました。アルくんとエドくんの幸せを心から祈ります。
by ふーちゃん 2015-10-07 00:32
仲良しアルくんとエドくん!寄り添って爆睡している姿を見て笑いながら涙が出てきました。
素敵なご縁があってよかったね。
愛情いっぱいなお宅で長生きしてね。
by よーこ 2015-10-07 00:36
>ふーちゃんさん
茶白のツートンカラーのマズルがカッコいい猫さんだったんですね。天国でやすらかに。
7年前旅立った我が家のミュウミュウも白血病で、雲を眺めるのが好きで、よく一緒に眺めました。
by 道ばた猫 2015-10-07 08:27
>よーこさん
爆睡猫たちの飼い主さんも、先入観のないおおらかなおふたりで、とてもいい感じでした。
なるべくしてなった家族という気がします。
by 道ばた猫 2015-10-07 08:32
世の中捨てたもんじゃない、と道ばた猫日記を読みながら、いつも思います。
猫の紹介をしているようで、実はたくさんの「いい人探し」「いいことさがし」をしているのが
道ばた猫さんですね。大通りだけじゃなくって、細い路地の道ばたのひだまりには
ほのぼのしたことがいっぱい。茉莉子さんのぴかぴか光るいい目線で
いいことさがし、頑張ってくださいね。
アルとエド、ミチハルさん、トモヨさん、お幸せに。
by あずみん 2015-10-07 10:15
我が家の愛猫も母子感染によるキャリアでやって来ました。まだ生後3週間の手のひらサイズでした。生後二ヶ月になり、ワクチン接種の前に受けた血液検査の結果を見るまで、夢にも思いませんでした。そして、なんでこの子が?と運命を呪い泣きました。でも泣いても治ることはないと、気持ちを入れ替えてとにかく明るく笑って過ごそうとつとめました。残念ながら九月に二歳ちょうどで旅立ってしまいましたが、本当に可愛い子でした。愛していれば、病気があろうとなかろうとそんな事はどうでもいいんです。闘病中も暗くなりがちな心をいつも可愛いさで明るくしてくれました。そんな子でした
by ふみちゃん 2015-10-07 19:34
>あずみんさん
うれしいエール、ありがとうございます!
大通りより裏道、早道より道草、そして出会う変な人(じつはいい人)、いいこと(変なこと)が、昔から好きなんです(笑)。
by 道ばた猫 2015-10-08 01:50
>ふみちゃん
いつも明るく笑っていてくれたお母さんのもとで、たっぷり愛されて、ふみちゃんさんとこの猫さんは、さぞ幸せだったと思います。2年だけど、凝縮したしあわせをお互いにもらいあったのですね。出逢えてよかったですね!
by 道ばた猫 2015-10-08 01:57
ありがとうございます。とても励まされました家の子(そら、男の子)が名前と同じ(空)へと旅立ってあっという間に1ヶ月が過ぎました。家の子が旅立つ少し前に、のらちゃんの親子がご飯を食べに来ていたんですが、それは盛大に威嚇してばかりの子でした。そして、そらが旅立つ頃姿を見せなくなっていたその子が、子猫を自立させて、また来てくれたんです。可愛い声で鳴いてくれたんです。まるで(元気出して)と言ってくれてるように。今は避妊もして、相変わらず可愛い子です。娘はご飯が欲しいだけだと笑いますが、私には泣いてばかりじゃ、そらが心配するからと、励ましてくれているようにしか見えません。
by ふみちゃん 2015-10-08 05:40
>ふみちゃんさん
猫を亡くした人を慰めるのは猫。それが猫の世界の約束と、私は確信しています。
ノラ母さんはきっと、その約束を守って現れたんだと思います。手術もしてくださってありがとうございます!
by 道ばた猫 2015-10-09 01:07
>ふみちゃんさん
猫を亡くした人を慰めるのは猫。順繰りにね。それが猫の世界の約束事みたいですよ。
ノラ母さんに手術をしてご飯をあげてくださってありがとうごじます~ 可愛い声が聞こえるようです。
by 道ばた猫 2015-10-09 01:12
エドくん達、ウイルスの発症は勿論ですが、リンパ腫にも気をつけてあげて欲しいです。キャリアの子はリンパ腫にかかる確率が非常に高く発症に気をとられている間に末期になっていて余命も半年ぐらいです。家のそらは奇跡的に一年持ちましたが、看護師をしている娘の病院に来る猫はほとんどが半年程度で旅立つているそうです。ウイルスの発症は体力が落ちた頃にとどめでもさすように発症することが多いです。エドくん達がこんな苦しみをしないで欲しいです。でも万が一発症した時は、短い間と分かっていても自分を選んで来てくれたと思って、どうかたっぷりと愛情をそそいであげて欲しいです。
by ふみちゃん 2015-10-09 08:32
>ふみちゃんさん
RAIF,獣医さんと、ブレーンは二重についているし、ふたりから注がれる愛情については、もう言わんや・・ですよ~ アドバイスありがとうございます!
by 道ばた猫 2015-10-10 00:07
佐竹さま、皆さま、あたたかいお言葉ありがとうございます。
いざ飼い始めてみると、周りにもキャリアの子を飼っている(飼っていた)方が多いことに気付きました。
猫たちは、私の狭い視野を日々広げてくれます。
1日、1分、1秒でも多くこの子たちが幸せを感じられるように見守っていきたいと思います!
by トモヨ 2015-10-10 09:31
>トモヨさん
白血病や猫エイズのキャリア、そして様々な持病や個性のある保護猫たちが、エドアルのしあわせの後に、続々つづきますように!
by 道ばた猫 2015-10-12 01:24
トモヨさま。家の子(そら)も生後二ヶ月の時にキャリアと判明して、一歳直前にウイルスが原因のリンパ腫になり、二歳ちょうどで旅立ってしまいました。一緒に過ごした時間は確かに短い間でしたが、私には十年にも感じるほど、幸せで楽しい時間が過ごせました。よく周囲の人から、(可哀想ね)とか(健康なら良かったのに)と言われましたが、私はそらと出会えたことを少しも後悔なんてしていません。むしろ誇りに思っています。確かに抗がん剤やら医療費は、ばかにならないし、生活面もあれこれ制限しなくちゃならないし、大変じゃなかったと言えばうそになるけれど、そらは何倍もの幸せを与えてくれました。エドくん達も心配ではあるけどどうかたっぷりと愛情をそそいであげて下さい
by ふみちゃん 2015-10-12 10:39
普段と違ったら病院へ?それじゃ遅いという説明が足りないです。発症前にインターキャットなどやれることがたくさんあるのに。
安易に譲渡し、安易に医療費募る神経が分かりません。経済力がある人しか、キャリア猫ちゃんをみることはできないよ。美談にし過ぎです。すぐにアルくんは亡くなり、医療費募金で儲かっちゃってますから。医療費募るような人に、飼う資格はない。
by 看とりボラ 2016-02-12 17:33
>みなさま
かわいいアルくんは、今年1月、急変し、天国へ旅立ちました。リンパ腫でした。
エドくんとアルくんを、白血病のキャリアという運命ごと引き受け、まるごと愛し、家族として暖かで和やかな日々を共に過ごしてくださったミチハルさんとトモヨさんに心からの「ありがとう」を伝えたいです。
アルくん、トモヨさんたちのおうちの子になってよかったね。短かったけど、エドくんと仲良く過ごせてよかったね。
エドくんのしあわせな日々が続くことを心から祈ります。
by 道ばた猫 2016-06-12 17:11
うちの猫も白血病でした。先日 三年の短い生涯を終えてしまいました。天国でしあわせになって欲しいです。お目目くりくりの可愛い猫でした。
by クロちゃん 2019-11-13 07:05