木の町として知られる埼玉県ときがわ。都幾川(ときがわ)が流れる山あいに、香織さんが運営する小さな養老牧場「ときがわホースケアガーデン」はあります。
そこには、引退競走馬や福島原発事故による疎開馬にまじって、犬3匹、猫7匹、そしてヤギもウサギもいます。みんなワケアリ同志。寄り添ってのどかに暮らしています。
入口で出迎えてくれたのは、長毛猫の「タクジ」。哲学者のような目の持ち主ですが、お客さんウエルカムの猫で、いそいそと案内してくれました。
タクジは、7歳くらい。公園に住みついていた猫でしたが、市役所に持ち込まれて殺処分寸前のところを引き出され、ここにやってきました。
いまや猫たちのボス的存在です。
いかにもお人好しの顔つきの「野口さん」は、ひと月ほど牧場の近くをさまよっていたものの近寄らなかった猫です。寒さとひもじさに耐えかねたのか、ある日、意を決したように牧場に入ってきて、オーナーの香織さんからご飯と猫ベッドをもらうや、なんと24時間爆睡。よほどつらい思いをした末に、一気に気が緩んだのでしょうね。
野口さんがやってきた翌朝、長いこと牧場で暮らしたおじいちゃん馬が息を引き取りました。香織さんは言います。「きっと、ボクはもう行くけど、代わりにこいつを可愛がってやってねと、いのちの引継ぎをしたのだと思います」
野口さんの名前の由来は、髪型やちょびひげがどこか野口英世を思わせるからだとか。抱かれたままふんにゃりしているので、ここに遊びに来る保育園児や小学生たちの一番人気だそうです。
なぜか犬小屋でデンと座っていたグレーの猫(写真真ん中奥)は「ふわ」。長いこと山あい放浪の末、ここにやってきた猫で、ようやく最近心を開いたところです。小屋の主「ごん」は、近所の人にちょっとしでかしてしまって、飼い主の元では暮らせなくなり、ここに預けられた犬です。
犬のお散歩にいつも、前になり後ろになり大喜びでついてきて、ところかまわずごろんごろんするのは、サバ白の「もも」。愛らしい顔つきの小柄な猫ですが、すでに子育て経験あり。2年前のある日突然現れました。お乳が張っていたので、「子どもも連れておいで~」といったら、さっそく5匹をひき連れてきたのでした。どうやら敷地内で産んでいたようです。5匹の子猫はみんな里親が見つかり、ももは牧場の子になりました。
香織さんは、子どもの頃からの動物好き。食用に売られていたドジョウがかわいそうで、飼ったこともあったとか。
この牧場は、香織さんの愛馬の老後のために探した土地だそうですが、頼まれるうちに、預かり馬が増えていきました。競走馬は引退すると、ほとんどが処分される運命にありますが、心ある馬主さんからここで安らかな余生をと、預った馬も何頭か。
南相馬から震災後すぐにここに避難してきたサラブレットの「コテツ」もいます。
コテツは、震災後の電気も消えた道中をはるばる運ばれてきました。「被災地の動物たちがたくさん取り残されて命を落としたなかで、コテツははかなくも大切な命の代表として、神様から授かった」と、香織さんは考えています。敷地内の馬頭観音には、震災などで亡くなった馬たちのための野の花やお供えを欠かしません。
牧場の維持はさぞ大変なことでしょう。「本当に動物たちが好きでなければできないことですよね」・・・そう話しかけると、香織さんは日に灼けた顔をほころばせました。でも、そう言ってから、私はすぐに思い直しました。動物たちにつらい思いをさせたり、無駄死にさせたりしないということは、好き嫌いを超えたこと。みんなが「手をつなぎ、心を尽くすべきこと」にちがいないのです。
牧場の馬の世話や犬の散歩などは、そうした思いを共有するボランティアの人たちに支えられています。馬糞を有機飼料として美味しい野菜を育てる農家の人もいて、ここを舞台に共生の輪は広がっています。
ヤギの「ホルモン」は、九州から馬を引き受けたとき、一緒に飛行機でやってきました。
ウサギのハナちゃんは、繁殖の用済みで処分される寸前を、救ってもらいました。
馬もロバもヤギもウサギも犬も猫も、いろんな目にあいながらも、なんてやさしい目をして迎えてくれるのでしょう。
みんな大地に生きるおんなじ命だよ。そう言っているようです。
ときがわホースケアガーデンは、小さな小さな牧場ですが、予約なしに訪れることができます。馬にあげるニンジン代100円も、牧場運営費の大切な一部となります。カンパも受け付けています。詳しくはHPをごらんください。
すぐ近くの都幾川べりでは、春は桜、夏はホタルを楽しむことができます。来る途中で立ち寄った古民家カフェでは、庭で猫がのんびり居眠りをしていました。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
タクジ君も野口さんも、安住の地が見つかって本当に良かった…お馬さんもやぎさんも優しい目をしています。みんな大地に生きる同じ命!その通りです。私はそんな大切なこともわからず、この歳まで来てしまったというのに、香織さんもボランティアさんも佐竹さんも素晴らしいです。
by 佐藤 眞弓 2015-12-01 19:21
どの子もみんな、想像もつかないような苦労をしてきてるんだと思うと、涙がでます。でも、みんな本当にやさしい目をしてますね。事情があったとはいえ、置き去りにされたり、人間から虐待されたりした過去を背負ってるんですねこれから先はみんなたーくさん幸せになれますように。
by ふみちゃん 2015-12-01 22:06
タクジ君も野口さんも、安心出来る場所が見つかって良かったですね♪
佐竹さんのブログは、何時も涙なしでは見れません。うちの3猫軍団も色々あって我が家に来ました。
去年の冬に入院でゲージ生活していた白猫が、不思議な事に病気を患って治ったら・・・超甘えん坊になって毎日大変です(笑)
白猫が膝の上に居ると、よろしくない顔をする同じ8歳の茶猫と喧嘩したり、喧嘩が終わったらくっついて寝てたり・・・猫は不思議ですね。
やぎさんもお馬さんも、皆さん優しい顔して安心出来るんでしょうね。
この頃、寒くなり布団の中にもぐりこむ3猫のぬくもりが、此の時期の醍醐味ですよね!
by キリ 2015-12-01 23:08
佐竹さん心温まるレポートいつもありがとうございます。今度ニャンズに会いに行ってみようと思います♪
by まろすけ 2015-12-02 00:06
みんな優しい顔ですね。きっと優しい時間が流れているんですね。タクジさんのワイルドな風貌、タイプです(^^ゞ
by さりゅ 2015-12-02 00:48
>佐藤真弓さん
みんなおんなじ命って、子どものときはしてた気がするのだけれど、大人になるにつれ、人間社会目線が身につき、忘れてしまうのでしょうね。そういう意味では、地域で可愛がられる猫の存在って、大事と思います。
by 道ばた猫 2015-12-02 02:11
>ふみちゃんさん
つらい思いをすると、ニンゲンは人を恨むのに、動物って人を恨みませんよね。
動物のほうがレベル高いなあ、っていつも思わされます。
by 道ばた猫 2015-12-02 02:14
>キリさん
そうそう! 寒くなって毛布に潜ってくるんです、うちの猫たちも。でも、朝まで潜りっぱなしや、夜中にプファーって出てくる子や、枕で寝る子や・・・いろいろで、寝返りが打てません。でも、至福です(笑)。
by 道ばた猫 2015-12-02 02:20
>まろすけさん
ぜひぜひ! まろすけさんがもしもコーヒーがお好きなら、すぐ手前の「ときがわの小物やさん」の水出し珈琲を都幾川べりの椅子で飲むのが、お勧めです。
by 道ばた猫 2015-12-02 02:26
>さりゅさん
タクジくん、眼光鋭くヤマネコみたいなのに、フレンドリーで、いいオトコでした。前に猫日記「森で生きぬいた猫」で紹介したグレースによく似てました。
by 道ばた猫 2015-12-02 02:31
ときがわホースケアガーデンのホームページより、こちらを見つけ拝見させていただきました。今、オーナーの香織さんが体調をくずされて、牧場がピンチになっています…
うちにもニャンコがいます、ご飯も食べて幸せそうにぬくぬくしていますが、そんな普通な小さな幸せを、この牧場の子達みんなに続けさせてあげたいです。わたしにも何か出来ること、探してみます。
by ひろりん 2017-03-02 22:02
>ひろりんさん
コメントに気づくのが遅くなりました。お知らせいただき、ありがとうございます。
近いうちに応援物資を持って牧場に行ってみます。香織さんの体調がよくなっていますように!
by 道ばた猫 2017-05-29 11:03