「あれ、ボスがママに抱っこされてる。いいな、いいな」
「あんなに甘えてるよ。ボスだったくせに」
仲間たちからの目線もなんのその、千鶴子さんの膝で大甘えなのは「ボス」。
彼は、つい最近まで12年間、海辺の猫たちのグループに君臨するボスでした。年とともに、体調を崩しやすくなり、風邪をひき込んで、このシェルターで休養中。
寒さに向かうこれからの季節に、、元の海辺に戻すわけにいきません。
「春になったら仲間の待ってる場所に戻す予定ではいるけれど、体調が戻らなかったり、ここが気に入って海辺に戻りたがらなかったら、ここの子になるかしらね~」
どっちにしても安心したのか、ボスはゴロゴロゴロと喉を鳴らし続けています。
ここは、南房総の漁村にある「ドリームキャット」という海辺の猫たちのためのシェルターです。
3年前の猫日記「ゴハン待ち」でご紹介しましたが、千鶴子さんは、亡きお母さまから、海辺の猫たちの世話を引き継ぎました。その数なんと50匹!
以来、雨の日も風の日も、台風の時だって、数か所にも及ぶご飯運びを欠かしたことはありません。
「一日だけ行かなかった日があったっけ」というのは、東日本大震災の日でした。
「台風の時だって、あの子たちは私の来るのを待っているの」
都内に仕事場を持ち、週末に房総に帰ってくる旦那さまと共に、NPOを立ち上げたのは、5年前のこと。
温暖な土地ですし、猫たちを可愛がる漁師さんたちもいるので、海辺で暮らす子は、基本的に「避妊去勢手術をし、ゴハンの心配はさせないで、その一生を見守る」というスタンスです。冬は、小屋に毛布を敷き、あたたかいねぐらも用意します。
シェルターに迎え入れるのは、捨てられた子猫や、年老いた猫、いじめられやすい猫、病気になった猫、けがをした猫たちといった、外では暮らすのが大変な子たちです。
仔猫は里親がみつかる確率が高く、現在、シェルターにいるのは、ワケアリのオトナ猫31匹。朝に夕にケージから出されて、自由に遊びまわります。だから、みんな、いかにもストレスなさそうな屈託のない子ばかり。
ちょっと犬っぽい面長顔の「チロリン」は、釣り人が捨て置いた釣り針を飲み込んで、開腹手術をした後、シェルター暮らしとなりました。
千鶴子ママに大甘えなのは、「すず」ちゃん。
おばあちゃんになり、海辺の生活がきつくなったので、ここでぬくぬくご隠居生活です。
10月に緊急保護した「ジャック」は、まだ幼さの残る男の子。海辺できょうだいたちと仲良く暮らしていましたが、ある日、千鶴子さんがご飯の配達に行くと、ぐるぐるぐるぐる同じところを回転していました。交通事故で、頭を打ったのです。震え続けるジャ
ックを抱いて、千鶴子さんは病院に駆け込みました。
ジャックは、事故で一瞬にして両目の視力を失ってしまいました。お医者様の見立ては、「この先、突然、視力が戻ることもあり得ます」とのこと。
外を走り回っていた時の感覚を取り戻せたくて、天気の良い日は、庭で日向ぼっこをさせます。視力が戻るきっかけになるのではないかと、きょうだいたちのところへ連れていってもやりました。
シェルターの猫たちが、懸命に歩く練習をするジャックを気にかけて近寄ってきます。シェルターの猫たちは、みんな仲良しなのです。
このシェルターがあったからこその、いまのジャックの安全な日々。
どうか、ジャックに視力が戻りますように!
たとえもし戻らなくても、ここで仲間たちとの穏やかな日々は続きます。
NPO法人になる前は、海辺の猫たちの世話は、千鶴子さん一人の孤独な活動でした。「そんなことして、何か得になることでもあるの」と言われたことも。捨て猫が後を絶たず、心身ともに疲れ果てた日々もありました。
少しずつ、少しずつ、海辺で会う人から「ご苦労様」と言われることが増えていき、NPOになってからは、保健所や市役所とも連携できるため、町の人たちへの認知度が上がり、とても活動しやすくなったそうです。
この日の海辺へのご飯運びでは、大の猫好きのアリッサさんが合流。アメリカから、地元の学校に英語を教えに来ている女性です。
ご飯を食べ終えた猫たちが、アリッサさんに遊んでもらい、日が暮れていきます。このように、サポーターや餌やりスタッフの輪は、地元ですこしずつ広がっています。
朝5時から夜9時まで、猫のお世話で明け暮れるという毎日ですが、千鶴子さんは、明るく言うのです。
「外猫もシェルターの子も、みんな一匹一匹個性的で、大切な我が子なの。お母さんなら誰だって、きょうはご飯をあげるのがめんどくさいからやめとこう、なんて思いませんよね。のびのび元気で暮らしてほしいと思いますよね。だから、大変とはちっとも思わないのよ」と。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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「お母さんなら誰だって、きょうはご飯をあげるのがめんどくさいからやめとこう、なんて思いませんよね。」のセリフに涙が出ました。
ほんとにそう。ありがとうございます。千鶴子さん。
by nona 2015-12-15 12:13
ネコさんたちの、辛いお話を読んで涙が出ました。けれど、こちらの写真のネコさんたち!すごくいい顔をしているように見えます。心があったかくなりました。ありがとうございます。
by さつん 2015-12-15 12:31
千鶴子さんの活動も言葉も素晴らしいです。そして理解あるご主人も素敵です。それにしても海辺に猫を捨てるなんて、魚があるイメージでもあるんでしょうか?もし高波がきたら流される危険がある、なんて捨てるような人間は考えないですね。千鶴子さんのような方がいなかったら、猫達はどうなっていたでしょう。私も、微力でも出来ることを始めるつもりです。天国の(そら)におばあちゃんは頑張ってるよ!と胸を張って言えるように。
by ふみちゃん 2015-12-15 15:33
ボスもチロリンもすずちゃんも、みんな可愛いです!ジャックを気にかけるシェルターの猫ちゃん達、みんな本当に優しいです。そして、千鶴子さんや千鶴子さんのお母さんのような方を心から尊敬します。
佐竹さん、今週も素晴らしい記事をありがとうございました。
新潟も今年の冬は暖かくて、今のところ雪もなく、季節外れの日向ぼっこを楽しみながら、みー太も元気にしています。いつ厳しい雪の日々が始まるかとハラハラしながら、軒下に置いたダンボールハウスに毛布を入れ、ビニールシートを被せ、透明のトタン板を立てかけ、周りを葦簀で覆い、ビニールカーテンを吊るしたりと、少しでも暖かくしようと工夫しているのですが、明後日から、豪雪との予報です…
by 佐藤 眞弓 2015-12-15 19:17
ボスですら甘えたさんになる千鶴子さん。あたたかい素敵な方ですね。だからシェルターにいる猫さんたちも優しく仲良しなんですね。誰か1人が頑張るのでなく皆で自然なこととして外で生きる命を見守っていけたらいいのに。
佐竹さん、昨日うちの猫と庭散歩をしていたらネズミを捕まえたんです…スッと視界から消えちゃって「食べないで~!」って焦って探してたら、さっさっと家に帰ってました。
まさか…と恐る恐る廊下を見ると「どう?」とばかりにネズミさんが置いてありました(汗)
夏にはアシダカグモが何度も置いてありましたし(汗) さすが家猫歴1年じゃ腕はおちませんね(笑)
狩りの腕前を褒めてからネズミさんは埋葬しました。しかしびっくりしました!
by さりゅ 2015-12-15 22:54
千鶴子さん、沢山の猫達を助けていただいてありがとうございます。
ボスくん可愛らしくて愛らしいですね。
ジャックちゃんの目が治りますように願っています。
どの子も同じようにカワイイとは猫好きじゃないと言えない言葉だと思います。
捨てられる猫がいなくなりますようにどの子も幸せになる権利があります。
コロンボ大きくなりました。
コロンボを託して下さった事とても嬉しいです。
素敵な旦那様とこれからも頑張ってくださいね。
ボスくん達にサンタサンからきっとプレゼント届くと思います。
皆さまの活動には本当に頭が下がりました。
また、お二人にお会いしたいです。
ありがとうございました(^-^)
by 紫音 2015-12-15 23:35
>nonaさん
目の見えなくなったジャックが時折悲しそうに鳴くとき、千鶴子さんは抱きしめてあげます。つらいことがあった時、「大丈夫だよ」と抱きしめて上げるのは、まさに「お母さん」ですよね。31匹のお母さん。すごいなあ。
by 道ばた猫 2015-12-16 00:07
>さつんさん
そうなんです、みんないい顔。みんな仲良くて争い事がないっていうのは、ねこたちも「家族」だってわかっているからなのでしょうね~
by 道ばた猫 2015-12-16 00:10
>ふみちゃんさん
千鶴子さんも言っていたことは、「けっして無理をしない」こと。続けるには、いちばん大切なことだと思います。私たちも、それぞれできることをしていきたいですね!
by 道ばた猫 2015-12-16 00:14
>真弓さん
なんて行き届いた仕様のミー太ハウスなのでしょうか。
どうか雪国の冬を、ミー太くんが元気で過ごしますように!
by 道ばた猫 2015-12-16 00:19
>紫音さん
紫音さんは、ドリームキャットにいらっしゃったんですね!
そして、コロンボちゃん(海辺で保護された子猫のうちのサバ白さんかな)を引き受けてくださったんですね~ 千鶴子さんたちにも、紫音さんにも、こころからありがとうです。
by 道ばた猫 2015-12-16 00:26
>さりゅさん
みんなで見守ることができたら…まったく同感です。きっと、一歩一歩。
うちも、プレゼントを持ち帰った時には、「デカした!」とほめそやして、庭に埋葬します・・・。
by 道ばた猫 2015-12-16 00:29
なんどかドリームキャットの施設にお邪魔したことがあります。
綺麗に掃除されていて猫たちが病気にかからないよう衛生管理されています。 なにより猫たちが幸せにすごしている印象がありました。 ”無償の愛” いい言葉ですね
これからも猫たちを温かな気持ちで見守ってください。
by 黒吉 2015-12-16 08:09
>黒吉さん
ドリームキャットさんでは、見学や、餌やり同行も歓迎なさっているので、「なにか自分にできること」を模索している方は、是非一度訪ねて、猫たちの安心した表情を実際に見ていただきたいですね~
by 道ばた猫 2015-12-17 01:22
私に今出来ること、それは、今家に来てくれている(サザエさん)を全力で守ることです。出会った頃はポロ雑巾のようで耳にはピアスのような大きなダニをつけていました。毛色さえよくわからないような姿で、でも子猫への愛情は、人間など比較にならないほど深くて、私が(そら)を亡くして悲しみに沈んでいるのを分かったようにまた来てくれて、本当に感謝しています。今はあの頃と同一猫とは思えないほど綺麗になりました。毎日(美猫さんだね。いつまでもそばにいてね)と話しかけています。NPOを立ち上げるような大きなことはできないけど、目の前にいる小さなご縁を大切にしたいです。
by ふみちゃん 2015-12-18 08:42
>ふみちゃんさん
目の前にいる小さないのちを大切にすること。ずっと一緒だよと約束すること。
それは、ささやかに見えて、とっても大きくて深いことだと思います。
私も、ふみちゃんさんに負けないよう頑張ります~
by 道ばた猫 2015-12-19 11:18