ボク、朝吉。
し~っ、ボクがここにいること、母さんにはないしょだよ。
だって、おかゆ母さんは、一日じゅうボクのこと舐めまわし、姿が見えないと探し回るんだ。
そう、母さんはボクのこと、ちょっと愛しすぎなの。
だから、ひとりになりたいときは、こうやって大きな壺の中に隠れてるんだ~。でも、しばらくしたら、大好きな母さんのそばに行きたくなるんだけどね。
ボク、生まれて間もない去年の夏、南房総白浜の根本海岸に面した海辺のカフェ「波音日和」の店先に捨てられてたの。
お店では飼えないものだから困り果てたカフェの主人が、あちこちに電話をかけて懸命に里親探しをしてくれて、やっと「近くの猫好きが飼ってくれそうだから、ひとまずうちに連れてきて」って返事をもらったの。
手のひらに乗せられたボクを見つけてすっとんできたのが、中継地点「ひとまず」のお家で飼われていた「おかゆ」母さん。すぐにボクをペロペロ舐めはじめて、ボクはおかゆ母さんのおっぱいにむしゃぶりついたよ。母さんはまだ生後8か月くらいで、おっぱいなんか出なかったけど、やさしく吸わせ続けてくれた。
それを見た飼い主が「おかゆが『自分が育てる』って言うからには、もうよそにやれないな」って言ってくれたの。
それで、朝連れてこられたから「朝吉」って名をつけてもらったよ。おかゆに「梅干し」じゃなくてよかった。
その日から、ボクとおかゆ母さんは、母と子のつよい絆で結ばれたんだ。
ほら、ね!
ニンゲンの父さんは、とくに犬猫好きでもなかったらしい。スイカ畑のアナグマ被害に困って「犬でも飼うか」と、新聞で里親募集をしていた子犬を、去年の1月に引き取ったんだって。で、とくに意味もなく「おかゆ」って名をつけて、夏に開いた民宿も「おかゆの宿」って名にしたってわけ。
敷地内には、父さんが朝に海で獲ってくるおいしい魚や、畑で作ってる野菜料理を出す、食堂兼居酒屋「おかゆ」(要予約)もあるんだよ。
夜になると、ボクとおかゆ母さんは、店の中の黒いソファーの上でくっついて眠るの。
お客さんたちは「犬と猫がこんなに仲良くなるなんてこと、ほんとにあるんだね~」って、びっくりするんだ。
どうやら、母さんは「いぬ」で、ボクは「ねこ」らしいの。そんなこと、ボクたちには全然関係ないんだけどな。
ニンゲンの父さんとボクたちは、庭でよく魚のバーベキューをするよ。いい匂いにたまらず「早く早く~」って、おかゆ母さんにならってボクも足踏みして、「お前は犬か」って父さんに笑われちゃう。
お庭の池の鯉を狙って、ボクが池に落ちてびしょぬれになったとき、おかゆ母さんはすっとんできて、「バカだね、お前って子は」って、いつまでも舐めてくれた。よその猫が庭に入り込んでボクをいじめたときは、「アタシの可愛い息子に手出ししたら承知しないよ!」ってものすごい剣幕で追い払ってくれた。
ニンゲンの父さんがボクを抱っこしてると、「朝吉を返してよ」って、ボクの肩をそっとくわえて引っ張るの。
犬小屋の前でくつろいでいるボク。えっ、犬っぽいって?
やっぱり、母さんに愛されすぎて、ボク、犬っぽくなっちゃったのかなあ。
ニンゲンの父さんは、岩手県の海辺の大槌(おおつち)町の出身なの。5年前の東日本大震災のとき、大津波に襲われておうちはあとかたもなく濁流に呑み込まれてしまった。友だちも半分が命を落としたんだって。
それで、心機一転、南房総の古い民家を借りて、一年かけて手直しして、民宿を始めたの。
おかゆ母さんもボクも、おうちがあって、一緒に寄り添って暮らす家族があって、無事に日々が過ぎていくという、何でもない一日のしあわせをしみじみ感じているよ。きっと、父さんも、そうなのかな。
父さん、ボクたちを家族にしてくれてありがとう。
松山庭園美術館で展示中の「房総~猫に戻れる場所」写真展にあわせ、房総で暮らす猫たちの物語をシリーズでご紹介しています。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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大変な目に遭われて、慣れない土地でさぞ苦労されたことと思います。だからこそ人や動物の心の痛みが分かるんですね。こんなに愛情たっぷりにおかゆちゃんや朝吉くんは幸せですね。
by ふみちゃん 2016-03-01 17:30
猫も犬も動物は小さな命を守ることしかしないんですね、きっと。
うちに家族が増えました。赤ちゃんを初めて猫に対面させる時、ドキドキでしたが警戒しつつ側に行き赤ちゃんの匂いを嗅ぎその後はじっと見守る役目に徹しています。
別の部屋に居ても泣き声が聞こえると駆けつけてきます。
大人の私たちには、時折猫パンチを浴びせたりするおてんばぶりなのに、赤ちゃんには一切手を出しません。
猫の愛情深さに感心しました。
自分より小さいもの、弱いものを愛するというシンプルなこと。
猫や犬のほうが出来ている。
人間よりも・・・
心温まるお話とお茶目な写真に癒されました。
ありがとうございます。
by よーこ 2016-03-01 19:11
あと一言。
朝吉くんとおかゆちゃんの人間の家族は
愛情いっぱいですね。素晴らしい!
辛いことは忘れられないと思いますが、これからも穏やかなしあわせな毎日をどうぞお過ごしください。
by よーこ 2016-03-01 19:20
>ふみちゃんさん
おかゆ母さんは朝吉をくわえて運ぶのですが、朝吉くんが大きくなってきて、運ぶのが大変そうでした~
そのうち、反抗期もやってくるのかな(笑)?
by 道ばた猫 2016-03-01 23:29
>よーこさん
ほんとうに! 自分より小さく弱いものを庇護するというシンプルな愛のかたち。人間は犬や猫に学ばねば・・・。
by 道ばた猫 2016-03-01 23:37
どの写真も良いんですが、お父さんとおかゆちゃんと朝吉くんのスリーショットがとくに良いなぁ。
朝吉くんとけてますね(笑)
by さりゅ 2016-03-02 01:25
佐竹さん
道ばた猫日記、毎週、楽しみにしています。房総って本当に良いところですね。房総の皆さんの暖かいお心と、猫ちゃん達の健気に生きる姿に、毎週胸がいっぱいになり、涙が溢れます。何時か行ってみたいです。
ここ北国の冬は本当に過酷で、厳寒になってからは、みー太は我が家の庭のハウスで寝ている様子はなく、雪の上に足跡がてんてんと残っていて悲しいです。朝と夕方に、器を温めながらご飯とお水を入れて置くと、綺麗に無くなっているので、ご飯は食べに来ているようです。いつか連れて来た弟か妹分の他にも、二人くらい見かけましたから、もしかしたら、他の子が食べているのかもしれないのですが、その子もお腹が空いているなら、それでも良いと思っています。こないだ、たまたま見かけた時は、びっこを引いていたので、「みー太、足どうしたの?足痛いの? ここにいなさーい。」と声をかけたのですが、びっこを引きながら行ってしまいました。可哀そうで随分心配したのですが、昨日見かけた時は、もう、びっこを引いてなかったのでホッとしたところです。みー太は、きっと何処かに本宅があるのでしょう。そこに家族がいるのでしょうか。又、暖かくなったら、我が家の庭で、みー太が気持ち良さそうにお昼寝する姿を見る事が出来るのでしょうか。
by 佐藤 眞弓 2016-03-02 20:48
>さりゅさん
お粥の宿のご主人➡おかゆ➡朝吉と、愛情が巡り巡っていますね~
早春の陽ざしのなかで、いつまでも見ていたい光景でした!
by 道ばた猫 2016-03-03 09:37
>眞弓さん
厳寒の中、ミー太の姿が見えないと、さぞご心配でしょう。未手術だと、猫は1~2月がいちばん活動的。早く、暖かくなって、くつろぎに来てくれるといいですね~
by 道ばた猫 2016-03-03 09:42
おかゆ母さんはどんな猫かなっとワクワクしていたら、なんと犬だったんですね~。
優しくて可愛いおかゆ母さん。肩をひっぱる写真には笑ってしまいました。
動物のもつ愛情の深さにはほんと、かないませんね。
最後の写真、犬も猫も人間も関係ない、幸せがギュッと詰まっているような家族写真に
胸が熱くなりました。
by ちぃこ 2016-03-05 19:58
>ちぃこさん
はい、あの3ショットの光景は、お日さまに下で、同じいのち、同じ魂が寄り添っている姿だと思いました。「めぐりあい」の象徴のようでもありました。
by 道ばた猫 2016-03-06 07:53
実は、朝吉が朝子だったことが判明し、ほんでもって本日、4匹(うち1匹死産)産まれました!
家族が増えました(^o^)ご報告までに。
by おかゆ朝吉 2016-06-18 17:23
>おかゆ朝吉さん
えええええええーーーーっ! 今、コメントにきづきました。
朝吉くん、やさしい顔だなあ~とは思ったけど、まさか女の子だったとは!!!
近々、会いに行きます~(お電話してから)
お父ちゃん、大家族になりましたね~
by 道ばた猫 2016-08-21 12:29