浦安市に住む6年生の野球少年、よしとくんが、「猫が飼いたい!」と言いだしたのは、この冬のこと。
なぜだかわからないけど、いきなりそう思ったのですって。
ひとりっ子のよしとくんにとって、猫を迎えるのはいいことだと、お父さんとお母さんは願いを聞き入れ、市内の保護猫ラウンジMEへ。
そこで、よしとくんが「おとうとにしたいな」と思ったのが、この子でした。MEでの名前は「おおのくん」。去年夏頃の生まれということでした。
すんなりした体つきで端正な顔立ちですが、まだ人馴れしていなくて、おもちゃでは遊ぶものの、どこかさびしそうな目をしていました。
「おおのくん」には、一緒に保護されたきょうだいがいて、「ちびまるこちゃん」に出てくるはなわくんのような横分けの髪型をしているので「はなわくん」という名がつけられていました。やはり人馴れしておらず、おおのくんと同じ目をしていました。
「おおのくん」をうちの子にと打診した時、MEからのお願いは「できれば、このきょうだいはひき離したくないのです」とのこと。
2匹はとても仲良しで、ラタンベッドの奥でくっついていることが多く、人が近づくとかばいあって(たいていは大野君が前に出て)シャアシャア言っていました。攻撃性はなく、超ビビリだったのです。
じつは、2匹は、母猫を目の前で失ったばかりでした。昨年10月に浦安市内で2週間に5件連続しておきた、「毒入りの餌をまかれた」と思われる外猫・ノラ猫不審死事件の遺児たちなのです。
5匹目の被害猫だった母さん猫は、とても小さな体のノラでした。苦しみのたうつ母さんのそばを幼い2匹は最後まで離れなかったそうです。(3番目の被害猫は、この子たちの父猫でした。警察の捜査はあったものの、非道な犯人はいまも捕まっていません)
母猫は、とある民家の庭先に入りこんで最期を迎えましたが、その家の老夫婦の方が、遺された子たちがあまりにも不憫と、MEに相談。
MEが用意した捕獲器で、2匹を保護。すぐにえさにつられて捕獲できたそうですから、よほどお腹がすいていたのでしょう。
獣医さんの見立てでは、生後3か月。お腹の虫の駆除などを済ませ、しばしご夫妻が預かったのち(ケージ内でずっと固まっていたそうですが食欲は旺盛)、人馴れしていない状態でしたが、大人猫になる前にいいおうちを見つかるようにと、12月はじめに緊急入居。里親募集がスタートしていたのでした。
事情を理解し、「きょうだい一緒に」「馴れるまでかなり時間はかかります」「脱走予防策は厳重に」という条件を受け入れたよしとくんのおうちに、2匹がトライアルで向かったのは2月初め。。
2匹は、捕まってしまった野生動物のごとく、ケージの中からシャアシャア猫パンチは繰り出し(食いしん坊なので、スプーンからしっかり食べていましたが)、「ここから出せー」と鳴き続け・・・よしとくんの部屋でフリーにしたら、布団やクッションにおしっこはするは、シーツはかぎ裂きにするは。
にもかかわらず、そのまま、2月末に正式譲渡の申し込みとなりました。
よしとくんのお母さんはいいます。
「子供だっていろんなタイプの子がいて、わが家に生まれてきた子を、取りかえたいとか、そんなことけっして思わないですよね~。それと同じです。返す気にはなりませんでした。うちよりもっと2匹を幸せにできる家があるかもしれないけれど、これ以上、2匹を引きずりまわすわけにもいかないと思ったのです。2匹を迎えようと、よしとが決めたのですし」
いま、「おおのくん」は「ヤマメ」に、「はなわくん」は「イワナ」という名になり、「ヤマちゃん」「イワちゃん」と呼ばれています。川魚が好きなよしとくんが名づけたそうです。
まだまだ、人とは距離をとる2匹ですが、でも、日々ゆっくりとその距離は縮まってきています。
イワナくんのほうがまず、人に近づくことが多くなってきました。
「まだ気を許すのは早いぞ」とばかり、ヤマメくんがイワナくんを守る形で前に出てきて、シャアシャア言うと、「そんなにヤマメ、頑張らなくたって。この人たち、大丈夫だよ」という顔つきになるイワナくん。
猫じゃらしのおもちゃにも2匹はよく反応し、よく遊びます。何といっても、まだ6~7か月の遊び盛りなのです。
「2匹つるんでいろんなところに飛び乗って、わるさをするんです。ルンバはいきなり掃除を始めるし、パソコンは起動したり、ロックされていたり。夜中にピアノの自動演奏は始まるし。コラッて言うと、同じ顔してビビッて、同じ形で逃げていくんですよ~。よしとは、猫ってもっとおっとりした生き物と思っていたみたいです(笑)。まあ、いたずらな双子のおとうとができた感じかな」とお母さん。
記念すべき3月18日。初めてイワナくんを触ったときの、よしとくんのうれしそうな顔といったら。
続いて、ヤマメくんなでなでにもチャレンジ! 足がちょっと嫌がっていますが、まずは大成功。
最近は、お父さんがソファーでテレビを観ていて、ふと気づくと、すぐそばでイワナくんがくつろいでいたことも。ひざ掛けの下で足を動かすと、じゃれついてきたそうです。お母さんがソファで寝ていたら、からだの上を通り抜けていったことも。
こうして少しずつ、少しずつ、リラックスしてくれるようになってきた2匹でしたが・・・。取材の日は、思いきり侵入者扱いでパニクられてしまいました。ヤマメくんは脱走防止用のネット上に駆け上がり、イワナくんはタワーで固まってしまい、2匹揃って硬直状態。やれやれ、といった表情のよしとくん。かわいそうなので、知らんぷりして、大声を出さないようにお話を聞きました。
その日は、夜になって、やっと落ちつきを取り戻したそうです。(こわい思いをさせてしまってごめんね! でも、「家族」じゃない人が「ボクたちのうち」に来たと認識したんですね~)
きっと、「猫と暮らしたい」と思ったとき、よしとくんの頭の中には、甘えられたり、抱っこしたり、一緒に寝たりという図がひろがっていたことでしょう。縁あってやってきたのは、悲しい体験をしたゆえになかなか手ごわい、ちょっとやそっとのビビリん坊ではないおとうとたち。でも、よしとくんは、「そのうち」と、おおらかに見守っています。
「2匹がなついてくれて、仲良くなれる日が、すごく楽しみ!」と。
そう、一気になつく猫もいれば、じわじわなつく猫もいる。なついてるのに、なかなか表に出せない猫もいる。だけど、いつだって猫たちには、ニンゲンの気持ちは通じているはずです。(うちにも、1年近く触らせなかった菜っ葉ちゃんがいます。それだけ外で気を張って生きていた証拠。いまは、大甘えんぼに変身)
私の予感では、夏までには、この2匹のビビリん坊さんは、すごい甘えん坊さんに変身していると思いますが。
最後に「弟たちのどんなとこがかわいい?」とよしとくんに訊いてみたら、嬉しそうにこう答えてくれました。
「キャットタワーの袋の縁にあごをちょんと乗っけて、寝る直前の顔がすごくかわいい!」
ヤマちゃん、イワちゃん。
あってはならない悲しい事件で命を落とした母さんの最後のメッセージは「ニンゲンにうかつに心を許すな」ということだったかもしれない。
でも、ニンゲンは、ひどいニンゲンばかりじゃないよ。猫とニンゲンはいろんなかたちですてきな家族になれるんだよ。
これからは、よしとおにいちゃんが、ずっと守ってくれて、うんと可愛がってくれるよ。もう大丈夫。
天国のお父さんお母さんの分まで、しあわせになろうね。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
ヤマちゃん、イワちゃん素敵なおうちに引き取られて、本当によかったです! 早くよしとくんに甘えてくれるようになるといいなあ!!
by あるとはは 2016-03-29 11:53
よしとくんに、たくさんのことを教えられて目が覚めました!よしとくんも、よしとくんのお母様もなんて素敵なんでしょう。
猫が持つ色々な性格を大事にして、待って下さってありがとうございます。幸せな2匹の寝顔が全てを物語っていますね。
by K 2016-03-29 16:32
ご家族の方たちの優しさとおおらかさが伝わってきますね。目の前でお母さんが苦しみながら死ぬのを見るなんて、子猫たちにとっては本当に怖くて不安だったでしょう。でもこのご家族ならきっと大丈夫!イワちゃんもヤマちゃんも落ち着いたいい猫になると思います。よしとくん、弟たちの面倒をしっかり見てあげてね!
by ゆーこ 2016-03-29 20:15
辛い、辛すぎます。なんの罪もない猫達に、一体どんな神経の人間がこんな仕打ちができるのでしょうか?この子達が人間不信にならない方がどうかしています。こんな事をする奴らにも目の前で愛する人を亡くしてみたらいいと思うよしとくんのような人が増えてくれる事を願わずにいられません。
by ふみちゃん 2016-03-29 21:01
>あるとははさん
じっくり待つよしとくん、それをそっと見守るご両親。
ほんとうに、2匹にとってはぴったりのおうちでした!
by 道ばた猫 2016-03-30 04:37
>kさん
ビビリの2匹は、外ではさぞ生きづらかったと思います。
揃ってのんびりのびのび長生きしますように!
by 道ばた猫 2016-03-30 04:40
>ゆーこさん
「やってきたときはビビリだったのにねえ」って言われるほど、おちついた猫になったりして。
猫は、猫をかぶりますからね(笑)。
by 道ばた猫 2016-03-30 04:46
>ふみちゃんさん
いのちを奪ったり、脅かしたりした罪は、もっともっと厳罰にしてほしいです。
そして、もっともっと本気で捜査してほしいです。もちろん、地域の外猫を見守る対策も、もっと!
by 道ばた猫 2016-03-30 04:50
心の優しい器の広いご両親様、よしと君、子猫達を受け入れてくれてありがとうございます。
私が言うのは筋違いですが悲しい思いをして母の死を見つめ生きてきた兄弟達。
人間から怖い思いを受けて恐怖心一杯だったので安心できるまで時間はかかることと思います。
気持ちは通じていますので気長に大きな気持ちで待ってあげて下さいね。きっと可愛い甘えん坊さんになってくれます。
ふたつの命を救ってくれてありがとうございます
by ぱるかす 2016-03-30 12:23
お久しぶりです。
人慣れした甘えんぼ猫のかわいさもいいけれど
人慣れしないビビりさんのかわいさもまた格別ですよね。
よしと君はほんとうにいい子ですね。
すぐにきっと、ヤマちゃん、イワちゃんと心が通じ合えるようになると思います。
それにしても、どんな猫ちゃんにもちゃーんとぴったりのすてきな家族が見つかること、
うれしいことですね。
茉莉子さんは「しあわせ<猫家族>探し」の名探偵みたいです。
by あずみん 2016-03-30 14:41
>ぱるかすさん
ほんとうに、地域の連携で小さないのちが救われました。
あとは、よしとくん家族にゆっくり心を開いていってもらいましょう~
by 道ばた猫 2016-03-30 23:59
>あずみんさん
なつかない猫がなついた時の嬉しさは、心がとろけちゃう(笑)。
こんなにみんなぴったりのおうちが見つかるということは・・・やっぱり、猫が飼い主を選んでるってことですね!
by 道ばた猫 2016-03-31 00:04
みなさま、コメントありがとうございます
よしとやまめいわなの母です
そして茉莉子さん、ステキな記事、ありがとうございました。こんなに良く書いて頂いて、ひぇー(;^_^Aって思ってます。
お褒めにあずかるほどではない愚息で、毎日(本当に毎日)脱ぎ散らかした靴下で遊ばれて
います。
今、ニャンズはカセットコンロの箱と水遊びがお気に入りです。
箱はボロボロ、床は可愛い足跡でビショビショのです(^^)/
by よしととやまめといわなの母 2016-03-31 08:36
読んでいて、涙が止まりません!!なんの罪の無い猫に、毒餌さなんて
考えられません!!
怒りと、悲しみでいっぱいです。
よしとくん
そしてご家族の皆さま、ヤマチャン、イワチャン幸せにしてくださって、
本当に、良かったです♪
猫がー幸せに暮らせる、事が、私の願いです♪
by みさママ 2016-03-31 20:11
>よしとくんやまめくんいわなくんママさん
急にやんちゃな2匹がやってきて、さぞ毎日が!!!!だと思いますが、ご長男がやさしく思慮深いので、とてもいいきょうだいになるかと。そして、手がかかった分、よしとくんには得がたい経験となると思います~
by 道ばた猫 2016-04-01 08:48
>みさママさん
はい、記事を読んだ方は、みな同じ思いだと思います。
こんな事件が2度と起こらない、そして、どの猫もしあわせを保証される日本にならなければ!
by 道ばた猫 2016-04-01 08:51
初めまして。いつも更新はまだかな、と楽しみに読ませて頂いています(^^)
私も一昨年の秋、職場に捨てられた猫に里親を…と動いたものの、結局人間が離れられなくなり(笑)、昨年息子も産まれ、仲良く4人家族(正式には3人+1匹)となりました(^^)
たまたま今日道端で野良母さんが生まれたばかりの子猫にお乳をあげているところに遭遇!
不運な出来事から保護され、巡り合ったイワナヤマメ兄弟と姿を重ね、思わずコメントしてしまいました。
どんな巡り合わせでも人も猫も幸せに過ごせるといいな、と思いました(^^)
by くーまま 2016-04-01 14:46
よしとくん、エライ! こんな可愛い子猫ちゃんたちがいたら、大人でもつい、無理に触ったり抱っこしてしまいたくなるのに、ちゃんと猫ちゃんの気持ちを優先してあげられる優しさ。
将来、モテモテ男子になるんじゃないかしら!!笑
by ららねね 2016-04-01 17:04
>くーままさん
一年ごとに家族が増えて、しあわせなご家族ですね。
道ばたでお乳をあげていたノラ母さん一家もどうかしあわせになりますように!
by 道ばた猫 2016-04-02 00:33
>ららねねさん
じっくり待つって、なかなか子供には難しいことだけど、その経験は、すごーくよしとくんの心を成長させるはず。お父さんお母さんもエライ!
by 道ばた猫 2016-04-02 00:46
人にも、猫嫌いの方っていますよね。
最初の数週間のヤマメは、本当に野生動物。ケージの毛布を上げるだけでその指を狙って引っ掻いてきました。そし威嚇。ごはんの皿を下げても出しても威嚇。トイレ掃除もケージ掃除も威嚇。引っ搔く。噛む。
おやつはスプーンから食べますが、油断すると、パンチを繰り出してきます。
可愛い、と思って撫でようとした小さな子どもが、これほどまでに人を恐れた猫に威嚇されたら嫌いになるかもしれませんね。
よしとから、『猫ちゃん達、僕のことが嫌いなのかな?』と聞かれたことも有ります。
私自身も、保護猫MEさんの献身的なアドバイスや励ましが有っても、この子達はもっと他のおうちが良かったのかもと言う考えは数度よぎり、インタビューも一度はお断りしようとしました。
ですが、ある日出してきたパンチが猫パンチだったんです。爪が出ていなくて、ポンって。
『お母さん!イワちゃんが1メートルくらいの所にいるよ。。。声出したら行っちゃったけど。。。』
そして去勢手術、少し縮まった距離がもう一度開き、、、1歩進んで2歩下がる。
でも、病院の先生や看護婦さんの優しいお言葉、ケージインを手伝いに来てくれたMEさんの優しい励まし。
インタビューをお受けして、茉莉子さんはきっと茉莉子さんちの2ヶ月押入から出て来なかった木の葉ちゃんの事を重ね合わせて、私たちを励ましたかったのかな?と感じました。
by よしととやまめといわなの母 2016-04-04 11:17
>よしとくんやまめくんいわなくんのお母さま
まだなついていない状態の2匹の取材をあえてさせていただいたのは、いくつかの思いがありました。あの2匹(一筋縄ではいかないいうことはMEで見て知っていましたから)を迎え入れてくださったことへの感謝。いまなお現在進行中の「なかなかなつかなさ」と「ほんの少しずつの心の通い合い」を猫日記でお伝えすることは、きっと誰かの励ましになると思ったこと。手こずるタイプの猫との向き合いは、いつか
よしとくんの大きな糧になると思ったこと。我が家の菜っ葉ちゃんの例をよしと君に伝えたかったこと。最後は、天国の父さん母さん猫に、今の子どもたちのしあわせに向かう姿を見せたかったことです。
私自身、環境の激変で頑張っている2匹のあっぱれな生きるエネルギーと、焦らず「待つ」ことを学ぼうとしているよしと君に、元気をいっぱいもらいました。
ありがとうございます。
ゼッタイに2匹は甘えん坊になって、日々笑いをいっぱいくれますよ!
by 道ばた猫 2016-04-04 22:30
最近、イワナが猫マッサージを受け始めました(^^)/
ソファで膝かけに乗ってきたり、今朝はよしとの布団の上で寝ていました。
よしとは、起きられなーいと喜んでいました。
ヤマメはそんなイワナをジッと見つめています。最初はタワーの上から、次はしたから
by 名無し 2016-04-13 20:08
ごめんなさい、途中でコメントするを押してしまったようです。
ソファーの陰から、そしてすぐ近くから。
ここからが長そうですが、イワナが気持ち良さそうにゴロゴロ言っていますので、ヤマメも猫マッサージを受ける日も来るのではないかという気がしてきました。
これから先も、よしとの悩みを聞いてくれたり、気持ちを落ち着かせてくれたり、ふたりには沢山助けて貰えると思います。
今も一つ一つの出来事に、むっちゃ嬉しい!すっげーかわいい!可笑しい!えーっ!なんでぇ?と騒いでいます。
ヤマ、イワ、沢山やんちゃして、よしとを困らせてね
by よしととやまめといわなの母 2016-04-13 20:30
>よしとくんとやまめくんといわなくんのお母さま
うっわ~、コメントいま発見して、むっちゃ嬉しい! すっげーかわいい! 可笑しい! やっぱりね~
って、拍手してます。やったね、よしとお兄ちゃん。一匹が釣れたら、もう一匹も絶対釣れるよ(笑)。楽しみだね!
by 道ばた猫 2016-04-23 01:50