アタシ、ちゃい子。11歳。
アタシの目って、インパクトあるらしいの。
「すごい目ヂカラ!」とか「ふつうの猫の目の大きさじゃないよね」とか「神秘的なな目だね~」とか、よく言われるの。しょっちゅう海を眺めてるからシーグリーン色がうつっちゃったのかニャ。
(アタシのもう一つの神秘は最後に教えてあげるね!)
これ、アタシの相棒、エッピョン。アタシのきょうだい。
エッピョンもアタシに負けないくらい大きな神秘的な目をしてるの。
エッピョンはね、直美オネーが話しかけると、いちいち返事をするの。アタシたち、オネーの言うこと、たいていわかってるのよ。
「散歩行くよ~」って言われたら、「にゃあ(OK)」って答えるし、「ヅメ(缶詰)食べたい?」って聞かれたら、「にゃっ!(もちろん!)」って即答するし、「もっと食べる?」って聞かれたら「にゃっ、にゃっ!(もちろん、もちろん!)」って、これも即答するわけ。
エッピョンなんて、熟睡してても「ヅメ」の言葉に反応して飛び起きる。まったく食い意地のはったオトコなんだから。
オネーは言うの。
「猫の思ってることが聞けるとしても、聞きたくない。この子たち、『もっとうまいもん食わせろ』とか『オネー、オトコできないね』とか毒舌であれこれ言ってそう」って。わかってるう。猫と人間の関係はミステリアスがいちばんよ。
あ、オネーっていうのはね、アタシたちの飼い主。でも、飼い主とか、ママとかいうのより、人生共にする家族だから、「オネー」って呼んでるの。
アタシたち、東京生まれなの。母さんは下町でノラやってたの。ノラっていっても近所の人に面倒見てもらってたから、地域猫みたいなもんだけど。
父さんも自由猫で、犬の散歩についていく猫として、有名だったんだって。父さんの名は、「チャイコ」。チャイコフスキーからとった名前だって。なんかカッコよすぎ。
で、父さん似の茶トラのアタシは「ちゃい子」になったわけ。
父さんが仲良しだった犬のチビヨを飼ってたのが、オネーの家。母さんがオネーの家に入り込んで産気づき、オネーにお産婆さんしてもらって生まれてきたのが、アタシたち。11年前のことよ。父さんも母さんももう天国だけど、アタシたち、いま、オネーと一緒に東京と南房総の海辺の家を行き来して暮らしているの。
オネーの仕事はね、アワビやサザエやトコブシを素潜りで採ること。
そう、海女(あま)さんなの。
オネーは運動神経バツグンで、とってもガッツがあるの。中学時代は器械体操の名選手だったんだけど、足の事故で高校からアマチュアサーファーに転向。デザインの世界に入ったんだけど、12年前、伊豆七島の海に潜った時、イルカの群れに海の底へと誘われたのがきっかけで、ダイビングの練習を本格的に始めたって言ってた。そしてある日、心に決めたんだって。「大好きな海の仕事がしたい! そうだ、海女になろう」って。
だけど、南房総の漁協に「海女になりたい」って言っても、てんで相手にしてもらえず。ふつうは、3年くらい住んで、地域の人たちに受け入れてもらって、さらにいろんな厳しい審査があるんだって。だけど、そこであきらめるようなオネーじゃない。「本気です」って覚悟を見せるために、9年前、あり金はたいてエイッと海辺に家を買って、アタシたち連れて移り住んじゃった。そうして、先輩海女さんたちとも仲よくなって、移住して一年半という異例の速さで漁業権を認められたんだって。
でも、春夏の海女の仕事だけじゃ食べていけなくて、東京と南房総を行ったり来たりの暮らしなの。
海女さんって、日本でいちばん古い女の職業なんだって。高齢化(平均年齢は70歳だって)が進んで、どんどん減ってきて、絶滅寸前らしいの。そんな世界へザッブーンと飛び込んだオネー、水中パフォーマンスの仕事も地元のPR活動も頑張ってる。そうそう、テレビドラマ「あまちゃん」の海中シーンの吹き替えは、オネーがやったのよ!
タコ採りが得意だったから、屋号は「蛸(たこ)姫」。だけど、タコが可愛くて、最近採ることができなくなっちゃったんだって。オネーってタフで一本気だけど、そんなカワイイひとなの。タコってね、眩しそうな表情とか、手で目をこするしぐさとか、猫みたいなんだって~
さっきからエッピョンが「オネー、早く夕方の散歩に行こうよ~」って催促してる。
風がちょっと強いけど、春の海辺は気持ちがいいんだニャ~。一緒に行く?
オネーと一緒に散歩する時間が、アタシたち、大好き。
オネーはね、「結婚なんてしなくても別にいいわ~。猫の家族がいたら十分」なんて言ってるけど、こんなにいいオンナなのにもったいないと思うの。猫好きの彼氏なら、アタシたち、許すのにニャ。
オネーの願いは「海女の仕事一本で食べていけること」。5月1日から9月10日までがアワビやサザエなどの磯漁の解禁時期なんだけど、台風が来たら一週間も潜れないし、潜れる日ってそんなにはないの。食いしん坊のアタシたちも養わなければいけないし、今は副業やむなしっ
てとこ。
東京では、アタシたち、完全室内飼いだから、南房総についた時は、ぴょんぴょんしちゃう。
エッピョンとアタシにとってはね、去年庭にできた海女小屋はシエスタ・ルームで、岩場近くは庭のようなものよ。
夏場になると、アタシは昆虫採集に熱中するの。エッピョンは爬虫類専門。いつだったかソファーに寝ころんでいたオネーの耳元に、アオダイショウのチビのとぐろを巻いたのをポンとプレゼントして、めったなことでは騒がないオネーに悲鳴をあげさせたことがあったっけ。でも、そのあと、オネーはチビヘビを手でもって縁の下に逃がしてやってた。オネーはね、「どんな生き物だって一生懸命生きてるんだよ」って言ってるの。だから、磯漁も、海のいのちを大事に大事に感謝していただくんだって。
オネーと散歩に出ると、いっつもこうして好きな場所でごろんごろんするの。空が眩しくて、潮の匂いの風が吹き渡っていく。お日様が沈むときは何もかも金色に染まるの。
ねえ、オネー、お金なんかなくたって、アタシたちの海辺の暮らしってすっごく贅沢じゃない?
「最高齢の海女さんとしてギネスに載るまでがんばりたい」っていうオネーの夢、叶うといいね。
あれ? エッピョンったら、どこへ行ったかと思ったら・・・・。
ヒジキ採りの籠の中で、あんなにくつろいじゃってる~。
こんな気持ちのいいあったかい日は、アタシも海に潜ってみたいな。
だって、オネーが撮って見せてくれた海の中の写真、すごくきれいでエキサイティングで神秘的なんだもの。
そうだ、最後に、アタシのもうひとつの「神秘」教えてあげる約束だったね。
ふふ、アタシ、生まれた時から、白いビキニの水着、ちゃーんと着てるのよ。
いつでも海に潜れるようにね。
そういえば、エッピョンも首に白いセーラースカーフ巻いてるから、やっぱりアタシたち、オネーと家族になるために生まれてきたんだニャ!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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素敵な家族ですね
どこの猫より一番贅沢な暮らしをしているのではないですか
猫にしてみたら裕福とかそうでないとかわからないので 自由気ままに生活できるって幸せです きっとこのにゃんず達長寿になることでしょう
うらやましい限りです
by サル 2016-04-05 12:13
厳しい海女さんの世界に本気で飛び込んだ
「オネー」さん
きっと、精神力も強いんですね^ ^
強い女性は、優しくもある。。それが随所に伝わってきます
海の近くの遊び場は楽しそうだけど、海には落ちないでね〜^ ^
by 毛玉 2016-04-05 17:39
(オネーさん)も猫さんも何て素晴らしい家族なんでしょう。私の大嫌いな言葉、(飼う)というこの言葉はこの方達からは感じないのがうれしいです。
by ふみちゃん 2016-04-05 18:52
佐竹さん
今週の猫ちゃん達も本当に可愛いです。どんな生き物だってみんな一生懸命生きている!口をきけない動物たちの健気さを思うと泣けてきます。
毎週火曜日の道ばた猫日記を楽しみにしているのですが、本当にどの子も可愛くていじらしく、最後には
いつも涙がこぼれます。
新潟もようやく春になりました。しばらく見えなかったみー太も、朝夕のご飯の時間には姿を見せるようになりました。冬の間は、みー太が雪の上をびっこを引きながら歩いていたり、吹雪の中、足跡が点々と付いているのを見て、悲しい思いをしましたが、お陰様で、北国にもやっと春が来ました〜〜
by 佐藤 眞弓 2016-04-05 19:43
「海辺に猫」ってなんでこんなに似合うんでしょうね! いつも素敵な家族を紹介してくださいますが
どうやって探すのですか? 探さなくても佐竹さんのもとに自然に集まってくる気もしていますが。
ちゃい子さんもエッピョンさんもずっと一緒にいられて幸せだね。最後、ちゃい子さんの秘密の白ビキニにやられちゃいました~!
by さりゅ 2016-04-05 22:44
>サルさん
観光客も車も入ってこない海辺なので、のびのび遊びまわれて、
ほんとうにしあわせな猫たちです。きっと長生きしますね~
by 道ばた猫 2016-04-06 00:46
>毛玉さん
単身見知らぬ土地へ飛び込むことは、いろんな苦労もあったと思います。2匹の存在は大きな支えだったのでは。猫って余計なこと言わずにそばにいてくれますものね~
by 道ばた猫 2016-04-06 00:53
>ふみちゃんさん
はい、この一家の関係は、「飼い主とペット」ではなく、「生きる仲間」「家族」そのものでした。
はたから見ても、心が通じ合ってましたよ~
by 道ばた猫 2016-04-06 01:00
>眞弓さん
ようやく北国にも待ちに待った春がやってきたのですね!
ミー太君たち外猫にとっては暑い夏までは、しばらく過ごしやすい季節だと思うと、すこしほっとしますね~
by 道ばた猫 2016-04-06 01:05
>さりゅさん
直美さん一家は、「海辺の家の猫たち」でご紹介したダイビングサービスのご夫婦が紹介してくださったのです。出会ったり、紹介されたり、猫ばなしから猫の輪が広がったり…。不思議な縁が切れ目なく続きます。そうそう、ダイビングサービスのご夫妻は、漁港の猫が紹介してくれました(笑)!
by 道ばた猫 2016-04-06 01:11
>サルさんw
アタシ長生き出来るかにゃ〜?♬
オネーと一緒にギネス挑戦にゃ☆♬
by ちゃい子 2016-04-07 11:26
>毛玉さん
オネーに伝えておくにゃ♡
オネー喜ぶにゃ♬
by ちゃい子 2016-04-07 11:44
>毛玉さん
海に落ちないから心配しないでにゃ♬
by ちゃい子 2016-04-07 11:46
>ふみちゃんさん
アタシ達動物にも心あるのよね〜♬
飼われるというよりも一緒に暮らす家族、仲間、親友って感じの方がぴったりにゃ〜♬
運命の命と出会いは必然にゃ♡
by ちゃい子 2016-04-07 11:49
>佐藤 眞弓さま
新潟の猫さん達は深い雪の中の暮らし大変だにゃ〜。
みー太さんタフで強いにゃ!!♡
これからもみー太さんを見守ってあげてにゃ♬
アタシもタフな猫目指すにゃ!☆
by ちゃい子 2016-04-07 11:53
>さりゅさん
アタシのビキニ最高にゃの♬
実物見せてあげたいにゃw♡
猫好きには通じるモノがあるみたいにゃ〜♬
皆気持ちは一緒にゃ♡
ヒトとネコが皆ハッピーでありますように☆
天国のチャイコパパもそう願っています☆
by ちゃい子 2016-04-07 11:56
ちゃい子ちゃんへ
暖かいメッセージをありがとうございました。気づかずお返事が遅くなり失礼しました。
みー太と名付けた野良ちゃんは昨年の秋口から我が家の庭に来るようになりました。気持ち良さそうにお昼寝していても、物音がすると逃げて行く後ろ姿が不憫で心に引っ掛かり、それから寝ても覚めても猫ちゃんばかり気にして生きています笑。
もう八ヶ月になりますが、物凄く用心深い誇り高い野良ちゃんで、ご飯を置いても、私が家の中に入って戸を閉めてからでないと、茂みから出て来ません。冬の間は本当に心配で暖かいハウスを作ったりしました。最近はだいぶ慣れてお代わりが欲しい時は、窓の下にお座りをして待っているし、みったん!と呼ぶと、にゃ〜とお返事もします。でも、やはり自由が良いのか、他に本宅があるのか、うちの子になる?と聞いても、何処かへ行ってしまいます( ; ; )
ちゃい子ちゃんとこのオネーが羨ましいです。素晴らしい方です。そして素晴らしい人生です。
by 佐藤 眞弓 2016-04-12 20:22
ちゃい子ちゃん亡くなっていたんですね。
今日わんにゃんの録画を見てしりました。
オネーとエッピョンも悲しいよね><
ちゃい子、天国で見守ってね。
by ちゃちゃ 2016-10-24 19:01