交差点の先の小さな路地を曲がってぶらぶらいくと、その店はありました。
店先に水色のペンキ塗りの木椅子。メニューが書かれた黒板。ガラス越しに、店内の雑貨の愉しそうな彩りが目に飛び込んできます。
招き寄せられるように店に入ると、ソファーでは気持ちよさそうにキジ猫が寝ていました。
ここはモロッコ、旅の途中です。
そう書きたい気分ですが......実は、お江戸のど真ん中。
小伝馬町交差点のすぐそばの路地裏なのです。
キジ猫さんが目覚めました。
「まる」ちゃんという名のオス猫ですって。スコティッシュフォールド種のようです。
店内のダリアの花がよく似合います。
このお店、その名も「ダリア食堂」。
オーナーシェフの志帆さんが、モロッコの家庭から教えてもらった料理を中心に提供する食堂で、布やホーロー、陶器などアフリカや南インドなど各国の雑貨も置いています。
だから、店内は、とてもカラフル。世界中の色が溢れているのに、懐かしく落ち着けるのは、手仕事の「もの」が集まっているから。
まるちゃんのキジ茶色もいい感じで混じっています。
このまるちゃん、推定3歳とのこと。ちょうど1年前にやってきた保護猫です。
6月のある夜、店の近くの、車がビュンビュン通る江戸通りの道ばたに猫がうずくまっているのを、遠目に見つけた志帆さん。
このあたりで見たこともない猫なので、近くに寄ってみると、ビニールのゴミを漁っている最中でした。近寄っても逃げるどころか、足元で、おなかを出してごっろーん。
その人なつこさから、飼われていた猫が迷ったか、捨てられたばかりと思われました。
連れ帰り、飼っていた人を探し始めましたが、見当がつきません。
たまたま、連れて行った動物病院で、マイクロチップが装着されていること、その動物病院にに来院歴もあることもわかりました。
なのに、2週間、病院側がいくら連絡しても、登録先の電話には誰も出なかったそうです。
捨てられたのか、事情があるのか・・・・。スコティッシュは外では一週間と生きられない猫というのに。
そんなわけで、ワケありスコのまるちゃんは、ダリア食堂の子になりました。
ご存知の通り、スコティッシュは、とても愛らしい容姿をしていますが、人気猫ゆえに業者による耳折れ同士の無理な交配繁殖も多く、
その場合、かなりの確率で骨の形成異常が現れるという宿命を背負っています。そもそも「カワイイ」と人気の耳折れや「スコ座り」
自体が軟骨の柔らかさゆえなのです。そして、足を引きずるなどのはっきりした異常が出た後で飼育放棄する心ない飼い主もいるという現実があります。
まるちゃんも、後ろ足に少し不自由があるそうですが、安住の地を得て、ほんとうによかった!
おっとりまるちゃんにはぴったりの、居心地のよいあったかなお店です。
まるちゃんが自由に歩き回る姿を眺めながら、お客さんは思い思いの席でくつろぎます。暑い日は窓が全開なのですが、まるちゃんは低い窓にさえ飛び乗れないため、外に出てしまうということは絶対にないそうです。
店の奥の階段を上ると、秘密基地みたいなロフト席があって、まるちゃんはそこでものんびり居眠り。
まるちゃん、とてもフレンドリーなのですが、お客さんに囲まれてかまわれすぎることが苦手なのだとか。
閉店近くになると、自ら籠ケージに入って帰宅準備をするまるちゃんです。
この日、私は、レモンと鶏肉のタジン鍋、ブリック(チュニジアの包み揚げ)、モロッコサラダ、
デーツ(ナツメヤシ)ミルクなど注文して、ロフト席でまるちゃんとまったりしましたが、どれもこれもとってもおいしかった!
店を出ての夜景もまた、旅気分にさせてくれました。
まるちゃん、またね。今度来た時は、「モロッコのお菓子の盛り合わせ」を頼んで、猫がのびやかに暮らす国・モロッコの「旅の途中」気分を味わいたいと思います。
ダリア食堂・・・・東京都中央区日本橋大伝馬町2-9
日・月・祝日休み(臨時休業あり)
※ご近所さんはじめ、このお店が大好きなお客さんがたくさんいらっしゃるので、要予約です。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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何か事情があったのかはわかりませんが、こんなかわいいまるちゃんを捨てるなんて…とても、信じられません(T_T) 優しい方に保護されて安住の地を得られて本当によかったです!!
うちのあるともスコティッシュフォールドなので、骨の異常が現れたらどうしようとは思いますが、大事なかわいい娘なのでずっとずっと一緒にいたいです!!
by あるとはは 2016-06-21 14:34
仕事で知り合った在日モロッコ人青年に、「本物のモロッコ料理が食べらる店があったら紹介して」と尋ねたら「ダリア」と教えてくれました。それ以来、一度は行かねばと思っていたのですが、まるちゃんがいると知った今は、ますます行きたくなりました。楽しみにしています!
by ジャンピエールの母 2016-06-21 20:05
>あるとははさん
大事な可愛い我が子とずっとずっと一緒。すべての飼い主さんがあるとははさんのように思ってくださるとうれしい。まるちゃんの元飼い主さんにはのっぴきならぬ事情があったと思いたいです。
by 道ばた猫 2016-06-22 08:48
>ジャンピエールの母さん
モロッコの方も太鼓判のお店なのですね! ビールもジュースもいろいろなのがありました。
素材も体にやさしい安心なものを使っています。オーナーのお人柄も素敵でした。
by 道ばた猫 2016-06-22 08:54
猫って信じる事しか出来ないのでしょうね。だから、だた1人の運命の人を探しているのでしょうね。まるちゃんの旅は飼い主さんと続くように…。
by まる 2016-06-22 10:06
まるちゃんは道に迷ったのか、事情があったのか、とにかく最初に志帆さんと出会って、ダリア食堂の子になって、本当に良かったです!
うちの近所でも、今まではぜんぜん気づかなかったのですが、みー太の他にも野良ちゃんをちらほら見かけるようになりました。「あなたも、おいで〜」と呼んでも、足早に木陰に消えて行く後ろ姿が不憫で、心が痛いです…
友人に「あなたね、そー言ってもね、世界中の猫を助ける訳にはいかないのよ…」と言われましたが、みんな運命の人に出会えて、苦しい思いをする子が居なくなると良いと心から思います(._.)
by 佐藤 眞弓 2016-06-22 20:23
>まるさん
ほんとうに。猫はまっすぐに人を信じます。
道ばたにいた時の丸ちゃんも旅の途中だったみたいで、いまよりずっとやせていたそうです。
by 道ばた猫 2016-06-22 23:22
>眞弓さん
ほんとにみんな運命の人に出会うといいのにね。せめて、どの猫も安心できるねぐらがあって、いじめられることなく、飢えることなく、寂しい思いをしませんように。
by 道ばた猫 2016-06-22 23:26
帰宅準備をするまるちゃん、可愛いですね~。
そこに居させられているのではなく、お店に自然となじんでいる感じが素敵です。
ぜひ行ってみたいですね!
商売の為の、無理な交配繁殖。もう人間って本当に愚かで恥ずかしいことをしますね。
by ちぃこ 2016-06-24 13:55
>ちぃこさん
ぜひぜひ。猫、雑貨、おいしい料理、路地、屋根裏部屋・・・と私の好きなものが勢揃いの空間でした。
まるちゃん・・・世界は一つって感じで、この名前ぴったりです!
by 道ばた猫 2016-06-25 11:50
まるちゃん=世界はひとつ!なんと素敵な。大好きなダリア食堂さんとまるちゃんを佐竹さんの写真と文章で読めるなんて、嬉しい。
by ねこま 2016-07-21 10:42
>ねこまさん
町内にあったら、週2くらいで通うのにな。
あのロフトがなんともたまらない空間ですね。あそこで猫話したいですね!
by 道ばた猫 2016-07-22 04:18