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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2016年06月28日

旅の途中・・・その②「カフェいもねこ」

「いらっしゃいませ。おや、初めてのお客様ですね?」
きりりと迎えてくれたのは、当店の看板猫「トムリン」くん。13歳半のおじさん猫です。スモーキーな毛色がシブいですね。

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ここは、静岡県浜松市にある雑貨カフェ「いもねこ」。
明るく広いお店の入り口スペースにはわくわくする猫雑貨がたくさん揃っていて、ランチメニューもこんなに豊富。「トムリンランチ」「はるちゃんランチ」というのがとっても気になります。

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新鮮野菜が20種も入っていると思われる盛りだくさんのトムリンランチをおいしくいただいた後、ケーキと珈琲を注文しました。

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なんとケーキも猫!やさしいいいお味です。それに居心地がよくて、旅の途中なのに、ついつい長居をしそうです。
ふとカウンターの小さな貼り紙に目をやると、「自立支援型カフェ」の文字が。

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そう、ここで働くスタッフは、不登校や発達障がいの若者たち。社会を体験する新しいかたちの福祉事務所として5年前にオープンしました。
ここのコンセプトは、「人を優劣や強弱で考えるのではなく、不完全なそれぞれを認め合い、分け隔てなくお互いを思いやり、自然と支え合える場所をめざす」こと。
つまり、人と人が共生をめざす場所に、猫たちも同じく「人と共生する存在」としていい感じで参加しているのです。

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トムリンくんは人が大好きな穏やかで優しい猫です。
3段のとびきり大きなケージハウスを2つ連結してあるので、6つのルームをもつ看板猫専用ハウスの中で、のんびりゆったり。お客さんのいないときにはのんびり店内を散歩することも。

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そもそもいもねこカフェはどうしてできたのでしょうか。代表の大山さんにお話を伺いました。
大山さんは、市内の高校で21年間教師をしていました。一斉画一教育という場から個性的であるがゆえにこぼれていく生徒たちの居場所を作りたいと、退職して、2004年春にフリースクールを立ち上げました。その準備期間中にスタッフが拾ってきたのが、生後間もなく捨てられて怪我をしていた1匹の仔猫。それがトムリンです。
「スクールで飼い始めたのですが、いじめに心傷ついていた子も、自信を無くして元気のなかった子も、気がつけばみんなトムリンに癒されていた。あれ、猫がいるっていいもんだなあ、と」

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フリースクールの生徒はその後増えて行きましたが、学費に対する親の負担をなんとか減らせないものかと、大山さんは市役所に相談。「福祉の施設として『児童デイサービス』にしては」とアドバイスされます。
ところが、児童デイサービスにすると、18歳までの制限がつきます。そこで、フリースクール卒業生の18歳以上の子たちの働ける場所として、カフェを始めたのでした。スタッフは「カフェ班」「工房班」「菜園班」と、適材適所に分かれています。
カフェを開くにあたり、大事にしたこと。それは、「弱い立場の人たちががんばってるから支えてあげなきゃ」と見られる店には絶対にしないこと。魅力的な特色を持ち、おいしくて安全な料理を提供し、誰にも居心地のよい空間にすること。
「スタッフたちには接客で嫌な目に遭わせたくなかったので、やさしい人に来てもらえるよう、猫雑貨コーナーを作り、看板猫も常駐する店にしたのです」と大山さん。それってとってもいい着眼ですよね。猫好きに悪い人はいませんもの。
開業にあたり、トムリンくん一人で毎日勤務では大変なので、市内の「捨て猫ゼロの会」からもらってきた保護猫がはるちゃんです。
はるちゃんは、気まぐれで甘えんぼの長毛サビ三毛の女の子。スタッフの家から通ってきます。(トムリンくんも非番の日はスクールで自由です)

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ここでは、寝ている猫を起こす人はいません。子どもが起こそうとしたら、お母さんは『寝ているときに触られるのは誰でもいやでしょ』とそっと教えます。触りまくる人もいません。猫が話しかけてもらってうれしそうにしていたら『また会えて話しかけてもらってうれしいんだね』と、こちらまでうれしくなります。そんな他者との心地よい距離も自然に教えてくれる場所なのです。

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「食事や猫との触れ合いを楽しんでもらった後で、『あれ、自立支援型カフェって書いてあるけど、福祉って何だろう?障がいって何だろう?』と、いままでの概念をちょっとだけでも考え直すきっかけにしてもらえたら。そして、ここに集う誰もが同じ地平で、それぞれの悩みや困っていることをを相談し合える場にできたら」と、大山さんは願っています。

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おみやげに買ったクッキーも、デザインがとってもかわいく、おいしかった!これも工房班のスタッフが丁寧に焼き上げたものです。
どの班も時給がいいので、ちゃんと自立の足掛かりとなっています。

こんなふうに人も猫も構えず自然体で共に生きる場所があちこちで増えていき、社会全体に浸透していくといいですね!
今度はぜひはるちゃんにも会ってみたい「旅の途中」でした。

※雑貨カフェいもねこ・・・静岡県浜松市南区芳川町320
 年末年始を除いて無休


写真

道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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みにゃさまのコメント

いつも素敵なお話を伺い、それぞれの個性が伝わる猫の写真の数々を拝見して、楽しませて頂いております。

こちらのカフェも人も猫もあるがままで共生して、こんな形のカフェがたくさんで来たら、人も猫も生きやすい幸せな生きやすい社会になれそうですね。

猫がいるからと撫でくりまわさない、相手を尊重すること、丁寧に作られた美味しいご飯とおやつを大事にいただくこと、人として大事なことが凝縮している場所のように思えました。

いつか、そちらの方にドライブすることがありましたら、立ち寄りたいです!!

by さっちゃんママ 2016-06-28 16:19

人も動物も、根っこは同じ。優劣などないはず。私も頭ではわかっていても、変な目で見ているかも。でも、そこに猫がいるだけで、みんな一緒なんだって感覚になれるんですよね(^ ^)

by 毛玉 2016-06-28 20:25

>さっちゃんママさん

そう、猫の生きやすさを考えることが、人の生きやすさを考えることにもつながってるんですよね。
ぜひ、近くまでいらっしゃったら、寄ってください。トムリンくんとはるちゃんは不規則交替勤務ですので、どっちが猫看板してるか、行ってのお楽しみ~

by 道ばた猫 2016-06-29 00:42

素敵なお店ですね ランチもケーキもクッキーもとても美味しそう!とてもかわいい! 
それだけでも充分魅力的なのに看板猫までいるなんて嬉しい 
トムリンくんのグリーンの瞳は何もかもお見通しなのかもしれないですね

by さりゅ 2016-06-29 00:43

>毛玉さん

猫って、ニンゲンに付随する条件に優劣なんてまるでつけないですよね~ つけるとすれば「好きな人」「興味のない人」に分けるくらいかな(笑)。なんてシンプル!

by 道ばた猫 2016-06-29 00:48

>さりゅさん

トムリンくんは勤務中は寝ていることのほうが多いそうですが、初めての客である私を見ると、起き上がって、あのグリーンの瞳でまっすぐ見つめて「ねえ、ねえ、どっから来たの?」って感じで興味津々でした(笑)。

by 道ばた猫 2016-06-29 00:52