アクティブに動き回るし、自然と目もあうからそんな風には思えなかったけど、18歳、茶トラの「ラク」は目が見えていない。だからいつもより慎重に、ゆっくりとお声がけする。
「こんにちは、君に会いにきたよ」
子猫と同伴出勤
歴代の猫たちが君臨してきたクッションの上に、ラク(男の子)は嬉しそうに座っていました。1年前に21歳で虹の橋を渡った「キチ」と入れ替わるように「やっとラクの番が回ってきた」、そう答えるのは飼い主の内山美枝子(うちやま・みえこ)さん。
かつて家には4匹の猫(すべて保護ネコ)がいたというにぎやかな暮らしも、いまはラク1匹との生活に。2年前にラクが視力を失ったこともあり、しばらく猫の増員はストレスなどを考慮して控えているそうです。
ラクさん、はじめましてー。きょうはよろしくお願いします!
ラクとの出会いは、会社近くの公園でした。
ある日、公園で親子の猫を目撃します。その中で、とびきり体の小さい子猫が、きょうだいたちに遅れをとってトボトボ歩いていたのでした。
「あれは置いていかれるかもなあ......。」
気になったものの、その日はその場を後にします。そして翌日、通勤中の道ばたで、昨日の子猫が目の前に、ぽつんとあらわれたのです。
「もうはぐれちゃったのか......。」
こうなればもう仕方がないと子猫を抱きかかえ、一緒に通勤! 定時まで働き(その日仕事が手につかなかったのはいうまでもありません)、帰宅してすぐに動物病院へ。しかし、手のひらサイズの子猫は「4時間おきの授乳」が必要と告げられ、フルタイムで働く内山さんは困ってしまいます。
「子猫の授乳をどうすればいい?」
「......いっそ会社に連れて行けばいいかな??」
「そうだ、そうしよう!」
いささか冷静さを失った判断でしたが、豊かな時代も手伝って(?)同伴通勤を拒否する人はいませんでした。
バッグにミルクのセットとラクを入れての会社勤めは、いまでも忘れることのできない二人の大切な思い出です。ラクの人を見る目が良よかったということ、これは長生きのポイントとして外せませんね。
写真は内山家歴代の猫たち。
今日もいいうんちだ
ラクの食事は、年上猫のキチがいたころは「消化器サポート」(ロイヤルカナン)のカリカリを一緒に食べ、ラクが15歳を過ぎたころから腎臓病に備えて食事療法食に切り替えました。ただ急に味が変わると食べないわけで......、市販のパウチやらおやつなどで機嫌を損ねないように、まずは「食べさせること」を念頭に置き、食事だけで補えない分は、整腸剤や消化器系の薬で体調をコントロールしています。よし、今日もいいうんちだ!
おやつー!に夢中。
二人の呼吸
高齢猫で、目が見えないことに対応した工夫も随所にみられます。ベッドには上がるための台を備え、食事の台はやや高め、食器は高く響くような物を選び、「音」を出してラクを誘います。
目が見えなくなってからは、特に「声かけ」が増えました。内山さんは元々猫と話す方ではなかったのですが、声の出どころ、壁を反響する音で存在を知らせて安心させるため、積極的に声かけするようになりました。また「そこぶつかるから!」と注意すれば衝突を避けることもあるようで、二人のあうんではない呼吸は完成しつつあるようです。
大事なのは、音と呼吸と息づかい。そうか、だからラクの耳は大きいんだな。
くりっくりの目、大きな耳。
曲がったしっぽもチャームポイントです。
もしゃもしゃ。
内山さんにとって17歳はまだまだ若い方。なんと実家の猫は23歳、長男のキチは21歳まで生きたそうです。15歳以上を「シニア」とひとくくりにまとめるのはどうか?というスタンスで、「歳だから仕方がない」という考えは捨てて、猫をよく見て接することが大事だよ、とアドバイスをいただきました。
なんだか、最後にすごいお土産をいただいてしまったなあ。今後の取材に活かします!
ちょっとグイってやり過ぎ!
ちゃんと男前に撮ってもらわないと。
ゴロゴロ。
猫はじぶんで決められない。飼い主が考えて決めること。
内山美枝子
じつは内山さんは編集のプロ。一度フェリシモ猫部に訪れて取材されたことがあるそうです。
フェリシモ猫部が人気を集める理由。カタログ通販大手が生んだ「顧客に愛される部活」
猫で繋がるご縁にいつも感謝です。
「
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猫又トリップライター紹介
ケニア・ドイ
1972年兵庫県生まれ。ほとんど犬猫カメラマン。著者に「ぽちゃ猫ワンダー」(河出書房新社)、「じゃまねこ」(マイナビ出版)がある。新刊「ご長寿猫がくれたしあわせな日々~28の奇跡の物語~」祥伝社より絶賛発売中。現在、黒背景で行うペット撮影会「ドイブラック」を全国で展開中。
http://kenyadoi.com
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