ボクね、母さんとはぐれて、知らないおうちのお庭に迷い込んでしまったの。
とっても寒い日だったよ。
心細くてひもじくて、長いことちょろちょろしてたら、そこのおうちの人にヒョイとつかまえられて、車で遠くの里山に連れていかれたの。
そこのおうちでは飼えないから、犬や猫のいっぱいいる里山カフェの麻里子さんに引き受けてもらうために。
忙しい麻里子ママは、仕事と犬猫でいっぱいいっぱいだったから、頭を抱え込んでた。
でも、ボクの小ささと、泣き出しそうな情けない顔を見て、「いいよ」って引き受けてくれたの。
「もうこの子で、最後の猫!」って。
あんまり小さいから、行方不明になっちゃうと大変だって、最初、ケージに入れられたの。
不安で、ケージのすみっこで、ボクは震えてた。
そうしたら、さっちゃんっていう猫が一緒にケージに入って、ボクの面倒を見てくれたの。
さっちゃんは、ボクから見たら、オジサンなんだけど、生まれつき体が不自由なんだって。
手足が突っ張って、すぐバタンと倒れちゃうの。
だけど、さっちゃんは母さんみたいにやさしくて、一緒にご飯食べたり、くっついて寝たりするうちに、ボクはここにいることにだんだん安心してきた。
しばらくして、ケージから出て、みんなが暮らす猫小屋に入れてもらった。
みんながボクの匂いを嗅ぎにきた。
おそるおそる尋ねたよ。
ボク、ここにいていいですか。
いいんだよ、ちび。オレだって、ついこの前仲間に入れてもらったばかりなんだ。
もう何年もここにいるみたいな貫禄の、でっかいちくわおじさんがそう言ったから、びっくりしちゃった。
「おじさんも新入りなの?」
「そうさ。追い回されて保健所送り寸前だったんだ」
「ふうん」
ゴローお兄ちゃんとヒデキお兄ちゃんも、言ってくれた。「ここにいていいんだよ、ちび」
ゴローお兄ちゃんたちも、ノラ母さんを交通事故で亡くして、ここに持ち込まれたんだって。
三毛猫のみかんおばさんは、ボクのこと、気になるみたい。何となくそばにいてくれる。
夜はね、さっちゃんの特別ベッドにもぐりこむの。
さっちゃんは、ペロペロ、ボクの顔をなめてくれる。
そうして、麻痺した前足で、上手に抱っこしてくれるんだ。
「サチおじさん、ボク、ここにいていいの?」
「いいんだよ。ボクだって、10年前、道で拾われてここに持ち込まれたんだ。その時は全然歩けなかったけど、毎日毎日練習して、歩けるようになったんだよ」
ふうん、って聞きながら、ボクはおじさんの胸の中で安心して寝ちゃう。
ここに来た子猫はね、「洗礼」ってのを受けるって、三毛美人のライムお姉ちゃんが、そっと教えてくれた。
ハッピーおばさんっていう、子猫が大好きの犬がいて、子猫を見つけると、ヨダレでべちょべちょになるほど、舐めまわすんだって。
ボクはまだ猫小屋から外には出てないけど、もうすぐその洗礼を受けることになるのかなあ。
ハッピーおばさんの洗礼を受けたら、いっちょ前の「里山の子」になれるのかな。
あ、ボクがつけてもらった名前、まだ教えてなかったね。
「謙治」っていうの。
麻里子ママが、謙治って名前の歌手の、大ファンなんだって。それで、ボクで、持ち込み猫の最後にしたいから、とっておきの名前をボクにくれたんだ。
「謙ちゃん」って呼ぶときの、ママの顔、うれしそうなんだよ~
ボク、謙治。
もう情けない顔してないでしょ。
元気な里山の子になるね!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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またまた心待ちにしていたお話有難うございます。サチがまるでマリア様のよう・・・謙ちゃんも表情が変化していったのがよくわかりましたよ。謙ちゃん幸せつかんで良かったね!サチも謙ちゃんのおかげでララちゃんが旅立った淋しさがうすれていきますね。里山カフェのママ、ますます大所帯で大変でしょうが陰ながら応援しています♡ 余談ですが、柄は違うけどちくわ君、うちのぺったん君と表情がうりふたつで愛着があります。(笑)
by ぺったんの母 2016-12-20 13:17
涙ぐみながら読み進め、最後の安心した表情の謙ちゃんで涙腺崩壊しました。
素敵なママさん、たくさんの優しい先輩猫さんたちの所に来られて本当に良かったです。
ずっとずっとお幸せに!
by レオンのお母ちゃん 2016-12-20 14:32
麻里子ママはじめ里山の皆さんが優しいから、一緒に暮らす子達も優しくなるんでしょうか。ちくわくんも先輩になったんですね。きっといいお兄ちゃんになることでしょう。謙治くんも早くみんなとなじめるといいですね。
by ふみちゃん 2016-12-20 15:48
今回も心温まるお話しありがとうございました。
猫みんなが幸せになるよう願ってます(*^-^*)
by 名無し 2016-12-20 16:01
今回も素敵なお話、ありがとうございます。心がほっこりしました。
謙治くん、たくさんのお兄ちゃんお姉ちゃんに優しく迎えられてよかったね。さっちゃんやちくわくんたちとしあわせに暮らしてね。
万里子ママさん、里山の皆さん、これからも猫たちの幸せのお手伝い頑張ってください。応援してます。
by 2にゃんこは宝物 2016-12-20 17:52
私も最初から涙腺崩壊(T-T)
「この子で最後!」と決めても、また・・・って、よく聞く話。私も、ずっと気になってる野良にゃんの無事を毎日確認しながら、この子で最後にするから、お願いm(__)mって、家人に言えずにいます。
by 桜さくら 2016-12-20 18:27
前回のちくわ君の回の終わりの方で紹介された、さっちゃんがお世話していた子猫ちゃんですね。ちくわ君と共に花はなニャンズの新しい風景が見られましたね。さっちゃんもララちゃんとお別れした悲しさから立ち直ったのではないのでしょうかね。美しい里山の自然と優しい麻里子さんやご主人様の元、花はなニャンズの皆んなにはこれからもずっと幸せに暮らして欲しいです(^-^)
by 山猫 2016-12-20 21:56
佐竹さんの心に染みる、優しい文章が大好きで、毎週楽しみにしてます。
先日の日曜の夕方、友人と二人で「花はなの里」に立ち寄らせて頂きました。
夕暮れだったので、猫ちゃんたちはすでに猫小屋に入ってましたが、カフェではさっちゃんが大人しく撫でさせてくれたし、ハッピーちゃんがお腹見せっぱなしの大サービスをしてくれました。
また、ケージ越しでしたが、ゴローくんやヒデキくんや謙治くんにも会えました。
短い時間でしたが、動物たちが(人間も!)のびのびと暮らすには最高の環境で、オーナーの麻里子さんの温かいお人柄が伺える、楽しいひと時を過ごせました。
大所帯で、大変な事も多いとお察し致しますが、これからも陰ながら応援してます。
またぜひお伺いしたいと思います。ありがとうございました。
by Sea-Road 2016-12-20 23:33
さっちゃんが謙治くんを抱っこしている写真がとても優しいです。さっちゃんと謙治くんのいるベッドを守るようにいるちくわくんもいい。 写真だけでも優しい空気感にあふれていて心がほんわかします。
これからもこの穏やかな日々が続きますように。
by さりゅ 2016-12-21 01:20
>ぺったんのお母さま
はい、謙治君は会うたびに、表情がどんどん変わっていきました!
ちくわくん、ほんとにいい味の猫です。大好き。
by 道ばた猫 2016-12-21 02:07
>レオンのお母さま
ここに来ると、いつも大きな巡りを感じます。自然の巡り、愛情の巡り、命の巡り。
麻里子さん、ありがとう!
by 道ばた猫 2016-12-21 02:11
>ふみちゃんさん
ちくわくんが、早くも先輩に。
外で一緒に遊ぶ姿を来年は撮れるかな…。お楽しみに。
by 道ばた猫 2016-12-21 02:14
>名無しさん
猫みんなが幸せに暮らせるように・・・ほんとうに!
生まれてきた子が命を全うできますように!
by 道ばた猫 2016-12-21 02:20
>にゃんこは宝物
オス猫は、けっこう新入り子猫にやさしいですよね。
グループで生きてた野猫・山猫時代の名残でしょうか・・。
by 道ばた猫 2016-12-21 02:26
>桜さくらさん
自分のことを気にかけてくれている存在がいるだけでも、ノラちゃんにとっては、うれしく心強いと思います。さくらさんの気持ちは通じていますとも!
by 道ばた猫 2016-12-21 02:32
>山猫さん
猫たちのお墓は、山側の、里を見渡せる場所にあるのですが、みんな里に下りてきて今の猫たちに交じって遊んでる気がする、と麻里子さんは言ってました。私もそう思います~
by 道ばた猫 2016-12-21 02:39
>Sea-Roadさん
日曜にいらしたのですか! 寒い季節は猫小屋に戻る時間が早いんですよ。
こんどは、外で、いろんな猫に会えるといいですね~
by 道ばた猫 2016-12-21 02:44
>さりゅさん
猫小屋のベッドにはあったか毛布が敷いてあるので、私もこの日は、猫になって、のんびりしてしまいました。ちくわくん、なかなかに父性がありそうです。
by 道ばた猫 2016-12-21 02:47
またまた心がポカポカに温まりました!!なんて愛くるしい謙治くん、花はなの里の子にすっかりなったようですね♪優しくて温かい仲間がたくさんですものね!麻里子さんの大きな愛情にも尊敬します。心から応援しています。
サチちゃんの溢れる愛情も素晴らしいですね。優しく面倒を見たり一緒に寝ている姿の写真はみるたびに心がポカポカ、笑顔になります。花はなの里の子たちは、麻里子さんもみんなもとっても優しいから引き継いでいるのでしょうね。ハッピーの洗礼(笑)!ちくわくんもすっかり花はなの里の子で良かった!ちくわくん、味のあるお顔は私も好きです(^-^)
by とも 2016-12-21 07:19
いつも心の温かくなるお話をありがとうございます。またまた応援したくなる猫ちゃんの登場ですね。これからのことも楽しみになりました。
毎回、皆さんの感想を読むのも楽しみにしてます。あー、同じ事を感じてるんだなーと嬉しくなり、どの猫さんにも皆さん愛情を感じてて。2度ほっこりさせていただいてます。
by 元シンママ 2016-12-21 18:31
>ともさん
麻里子さんのおおらかな、そしてある程度は猫たちの自治に任せたさらりとした愛情は、気持ちがいいです。ペットではなくて「里山で生きる仲間」という感じです。
by 道ばた猫 2016-12-22 04:19
>元シンママさん
そうなんです。どの猫にも、みなさんあたたかなエールをくださって、当ブログは、コメント欄込みで一つの物語・記事だと思っています。
by 道ばた猫 2016-12-22 04:23
謙ちゃん、可愛いですね。暖かい家族が出来て本当に良かったです。みんな優しくて、今週も涙が止まりません。
道ばた猫さん、みー太も元気にご飯を食べに来ています。うちに来るようになってから、二度目の冬です。今年は新潟はまだ雪も積もらず、時々日が差して暖かなので、このまま雪よ降らないで!と祈っています。
この頃は、みー太が追いかけていた白猫の「姫ちゃん」も、ご飯を食べに来るようになりました。姫ちゃんは脱走兵なのか、捨て子なのか、首に鈴をつけているので、戸口に来るとすぐ分かります。そして、しばらくすると何やら、ウニャニャニャオと猫語は聞こえて、みー太が来たのが分かります。庭に温かなハウスを作っておいても、二人共、ご飯が終わると何処かに行ってしまいます。どこかに安全な温かいねぐらがあるのなら、良いのですが…
by 佐藤 眞弓 2016-12-22 20:27
>眞弓さん
今夜は北国は吹雪のようですが、ミー太や姫ちゃんのことが気にかかります。
遠い春が待ち遠しいですね! きっとどこかにねぐらがあるのだと思いますが。
by 道ばた猫 2016-12-23 03:29
佐竹さんの道ばた猫日記、温かくて楽しくて大好きで、過去のも読ませて頂きました。そしたら美人三毛猫ライムお姉ちゃんのとっても小さい頃のお話もありましたね!!謙ちゃんに「ハッピーおばさんの洗礼」を教えてくれたライムお姉ちゃん、体験談だったのですね(笑)最高に温かくて幸せな気持ちになりました!
by とも 2016-12-25 13:42
謙ちゃん‥本当に良かったですね(๑˃̵ᴗ˂̵) 先日花はなの里を訪ねた時には、奥の猫小屋のベッドの隅にちょこんと座っていました♪ そのあとゴロゥくんとちくわくんがやってきて、クンクンと鼻をくっつけあっていました。するとしばらくして謙ちゃんはお部屋から一歩外に出ていました。猫たちの会話が聞こえたようでした☘️
by ねこたま 2016-12-26 11:24
>ともさん
ライムちゃんの赤ちゃん時代、見てくださったんですね!
何もわからず、ハッピー母さんにべっちょべちょにされてました(笑)。
今や、すっかり美人猫さんです。
by 道ばた猫 2016-12-27 11:06
>ねこたまさん
ゴロー君とちくわくん、謙ちゃんに「そろそろお外に出てごらん」って言われたのかな?
猫たちの会話、そっと聞いていると楽しいですよね~ 謙ちゃん、けっこう慎重派で、お外時代さぞ不安だったのでしょうね。
by 道ばた猫 2016-12-27 11:10
ちゃんと責任もって保護してますか?
by 名無し 2016-12-27 16:33
>名無しさん
責任って、終生愛情をもって、その子の個性を愛し、守ってやるってことですよね?
はい、ちくわくんも、謙ちゃんも、ほかのネコさんも、もちろんですとも! 麻里子さんご夫妻と大自然の大きな愛に包まれています。
by 道ばた猫 2016-12-28 00:45