南房総で「ドリームキャット」というNPO法人をたちあげ、たくさんの海辺の猫たちのお世話を続けている斎藤ご夫妻の週末。
都内で仕事をしている重男さんは、土曜に海辺の家に戻り、千鶴子さんと合流します。
甘えん坊のジョンくんが、さっそくパパの膝の上を独占です。
ジョン君は、去年海辺で保護された子で、まだ1歳くらい。首の後ろを掻きむしってしまうので可愛い洋服を着ています。慢性鼻炎状態の子でもあるので、里親探しはせず、この自宅シェルターの子となりました。
キッチンダイニングでくつろぐ夫妻の周りに、いったい何匹いるでしょう?
写真には、8匹いますね。
でも、他の部屋にまだまだ。
いくつもの部屋をすべて猫のために開放しています。その数合わせて30匹。
シェルターの子たちは、海辺では暮らせない、病弱な子や、手術後の子たち。
おやおや、ジョンくんが、バケツに手を突っ込んで味見しています。
それは、海辺組に、ママがこれから持ってく夕食なんだってば!
海辺にいる、手術済みの子たちのために、千鶴子さんは毎日車でご飯を運んで回っているのです。
海辺組グループはいくつかあって、現在の総数は43匹。
千鶴子さんの車を見つけると、駆け寄ってきます。
漁師さんたちにも可愛がられているので、みな温厚な子ばかり。
毎日、みんな元気に姿を見せるかをチェックしますが、千鶴子さんが気にかけていたのは、5歳の雌猫フーちゃん。
この日も食欲バッチリで、ひと安心。
フーちゃんは、この冬、とんだ受難で大手術に耐え、一命をとりとめたのです。
1月末のある日、千鶴子さんが海辺の猫たちにご飯をあげに行くと、フーちゃんが口から釣り糸を垂らして元気をなくしていました。
小魚がついたままの釣り糸を釣り人がその辺に捨てていったのを、フーちゃんが食べてしまったようです。
すぐに動物病院へ。
腹の中に飲みこまれていた釣り針は、胃から飛び出し、肝臓に突き刺さって大量出血していて、たいへん危篤な状態でした。
大手術にがんばったフーちゃん。
何でこんな痛い思いをするのか、フーちゃんにはわからなかったことでしょう。
これが、フーちゃんのお腹から出てきた、にっくき釣り針です。
シェルターに戻り、手厚い看護のあと、元通りの元気を取り戻したフーちゃんは、さかんに海辺へ戻りたがる様子でした。
房総がすっかり暖かくなった3月8日。久しぶりの海辺に着くと、懐かしそうに周りを見渡した後、仲間たちのもとへとフーちゃんは戻っていったのでした。
フーちゃんの釣り針事件は、特異なことと思ったら、海辺で暮らす猫たちは、毎年のように受難にあっていると千鶴子さんから聞き、びっくりでした。
今、シェルターで暮らすチロリンも、大手術経験ずみ。
15歳のシロちゃんも、針が頬の中にひっかかって、病院に担ぎ込まれた経験あり。
気候温暖で、漁師さんたちに可愛がられている猫たちの平和を乱すのは、よそからやってくる釣り師たちのマナーなのです。
釣り糸も釣り針も、ビニール袋も、自然に還る素材ではありません。
漁師さんたちは、けっして海辺を汚すようなことはしません。猫たちのこともよくわかっています。
しろうと釣り師の人たちは、千鶴子さんがいくら「釣り針を捨てないで」と言っても、まるで気にしないそうです。
(立て札や貼り紙は、捨て猫やいたずらなどの心配を招きます)
この話を、房総の食堂で居合わせた、よく釣りを楽しみに来るという男性に話したら、「そこまで想像がつかなかった。これからは絶対に捨てない」と言っていました。
みなさんの周りに釣りをする方がいらっしゃったら、猫たちの受難のことを伝えていただけるとうれしいです。
2年前、漁港で口から釣り糸を垂らしたカモメをみつけ、その地の市役所に電話をしたら、動植物保護の担当のかた二人が飛んできてくださったことがありました。
そのとき、漁師の方たちが「海辺に物を捨てるなんてこと、俺たちは絶対にしない」とおっしゃっていたのが印象的でした。
家猫よりは寿命の短い海辺の猫たちが、地域の人に見守られ、安心して一生を全うできますように。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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ひどい話ですね。こんなこと、人間がきちんと心掛けていれば、おきないこと。ちょっとくらい、面倒だから、そんな行動の陰に命の危険にさらされている動物がいることを忘れないで欲しいです。動物に釣り針がなんなのかはわかりません。お魚ゲット!感覚で食べてしまいます釣りを楽しむのも良いですが、後始末はきちんとして欲しいです。ふーちゃんのように治療して貰える子ばかりではありません。
by ふみちゃん 2017-04-25 15:40
そもそもどうして釣り針を捨てるのでしょう? 子どものころ釣りに行った堤防で、捨てられていた針つきの長い釣り糸にひっかかりけがをしたことがあります。「なんで捨てるの!?」ととても腹が立ちました。
ましてや飲み込んでしまった猫たちは何が起きたか分からずどんなに痛く怖かったでしょう。
海辺の猫たちが穏やかに暮らせますように。
by さりゅ 2017-04-25 18:17
>ふみちゃんさん
そうなんです。フーちゃんのように治療を受けられる子ばかりではありません。水辺の鳥たちも、釣り糸が足の絡まって動けなくなったり足がもげたりして亡くなるケースが多発しているそうです。本当に、心ないニンゲンのやることと言ったら!
by 道ばた猫 2017-04-26 02:47
>さりゅさん
釣り糸を捨てる。猫を捨てる。根っこは同じことのような気がしますね。あとのことは知らない、という・・・。
by 道ばた猫 2017-04-26 02:52
釣り針を捨てて平気で帰る……最低限のマナーも持ち帰ってほしいですね。釣り針を捨てた人には釣り針を飲み込んでしまった猫たちと同じ思いをしてほしいです。目には目を…です!(怒!)飲み込んでしまったフーちゃん、チロリン、しろちゃんなどなどみなさんのおかげで元気になっているということでよかったです。みなさんの大きな愛情と力に尊敬しっぱなしです。漁師のみなさんも素晴らしいですね!よそからやってくる釣り人のひとたち、常識的な行動をしてほしいです!
by とも 2017-04-26 07:37
マナーの悪い釣り人の話はよく聞きます。いつも弱い立場の動物達がひどい目にあっているんですよね。
もっと思いやりをもってほしい!!!ニンゲン達よ!!!と いつも思います。
by ぺったんの母 2017-04-26 13:19
>ともさん
フーちゃんの手術には、カンパを寄せた人が何人もいたそうです。
無事仲間の元へ戻れてよかったね、ふーちゃん!
by 道ばた猫 2017-04-27 00:31
>ぺったんのお母さま
もちろん、きちんと後始末をする釣り師の方はたくさんいらっしゃるでしょうが・・・残念な人も多いのが現状です。釣り針の危険さがもっと告知されますように。
by 道ばた猫 2017-04-27 00:39
私の知っているボランティアの方々がお世話している河原に住んでいる猫ちゃんですが、昨年の6月に釣り人が捨てた釣り針を飲み込んでしまいました。お世話されていた方が病院に運び、大手術の末その時は何とか命を取り留めましたが、一ヶ月半後に亡くなってしまいました。河原で皆さんに可愛がられていた猫ちゃんだったので、本当に悲しい出来事でした。こんな事は絶対あってはならない事です。これから釣りのシーズンです。釣り人にはマナーをしっかり守って欲しいです。
by 山猫 2017-04-27 12:18
>山猫さん
なんということ・・・。本当にいたわしいです。
ごめんね、ニンゲンがそんなひどいことをして。安らかに。
by 道ばた猫 2017-04-28 08:04