「お客さんから聞いた猫の話が、ほんとうに不思議で」
先週の猫日記でご紹介した看板猫がいっぱいいる銚子市のお花屋さんが、ふと話してくれた「元ノラの父猫と子猫のお話」。
その話をお花屋さんにしたお客さんのYさんを紹介してもらい、勤務先のアメ車専門店のガレージジョーカー本社へ。
Yさんが話してくれた物語の主人公は、写真のこの2匹。グレオとジュニアです。
それは、心に染み入る父と娘の物語でした。
父猫グレオは昨年、、闘病の末、旅立ちました。
風格のある、強くて大きな猫でした。
そっくりな娘のジュニアは、いつも一緒だった父亡きあと、さびしさのあまり、毛を舐めすぎて、おなかがハゲてしまいましたが、元気にガレージの看板娘をやっています。
Yさんは、子どもの時、おばあちゃんちの猫にガブッと噛まれて以来、大人になるまで、猫が怖かったそうです。だけど、入社したガレージジョーカーの社長が、ゴミを漁っている猫を見るとほっとけない人で・・・・いろんな猫たちとつきあううちに、いつのまにかトラウマが消えていました。
グレオが界隈に現れたのは、10年ほど前のこと。
ひときわ大猫のグレオは、それまでのボス猫を追い落とし、ノラたちに君臨するボス猫に。
どんな過去があったのか、人間には心を許さず、目が合うだけで、牙をむいて激しい威嚇。誰も近づくことはできませんでした。
そんなグレオが、ある日、空腹に耐えかねたのか、会社の前を行ったり来たりうろついていました。Yさんがそっと餌をおいて見てないふりをしてやると、ぺろりと平らげました。
「その日以来、餌を食べに来るようになって。そのくせ、近づくと威嚇するんです。ずいぶん経った頃でした、気が付くと足元に来ていて、スリンとしたのは」
社長にかけ合うと、すんなり「会社の猫にしていいよ」という返事。
生粋のノラだったので、徐々に室内に馴らし、去勢手術もして、会社猫となりました。
手術をした獣医さんは「こんな大きなタマタマは始めて見た」と驚いていたとか。
会社猫になって、穏やかに過ごし始めて3~4カ月たった頃、「外に出してくれ」と、ドアに体当たりしそうなほどに訴えます。
あまりの必死さに何事だろうと思いつつ、出してやると、どこかへ消えました。
しばらくして帰ってきたのですが、後ろにまだ幼い子猫を従えています。毛色といい、顔立ちといい、グレオにそっくりな子です。
その子を会社の玄関前に座らせて、自分はちょっと離れたところから「自分でここの子にしてくださいと交渉しろ」といった風情で見守っています。
社長の「いいよ」という許可が出て、グレオにそっくりなことから子猫は「ジュニア」という名をもらって、会社猫になりました。
「グレオはジュニアをそれはそれは可愛がり、ジュニアはグレオが大好きで、いつもくっついていて、本当に仲睦まじい2匹でした」と、Yさん。
ジュニアがやってきたすぐあと、Yさんは、近くのお蕎麦やさんの奥さんから、偶然こんな話を聞きました。
4匹の子猫を育てていたノラの母さん猫が交通事故で死んでしまったので、3匹は保護したけれど、1匹は保護できず、そのまま行方が分からない、というのです。
子猫たちは、灰色だったということでした。
母猫が交通事故に遭ったのは、グレオがジュニアを連れて帰ってきた頃のことでした。
Yさんにはわかりました。
子猫たちは、去勢をする前の、グレオの最後の子だったにちがいない。
あの日、グレオは、わが子のかすかな鳴き声を部屋の中から聞きつけたのかもしれない。その声から、母猫がもういないことを知ったのでしょう。
そして、迎えに行った・・・・。
私も、そう確信します。そうだとすれば、なんという父性愛でしょうか。
生前のグレオに一目会いたかった!
ジュニアの心の中には、グレオと過ごした日々が大切にしまわれていることでしょう。幸せな娘です。
「ノラだった子って、強さが違いますね。そんな子が、心を開いてくれた時は、ほんとうにうれしい」と、Yさん。
「ちょっと離れてますが、ショールームの方にも、看板猫がいるんですよ。これも元ノラの保護猫で、モジャと言います。社長とモジャにこれから会いに行きますか?」
「行きます、行きます!」
「うちの社長、金髪のロン毛で、プロレスラーみたいな体格で、一見コワモテですけど、やさしい人なんです」
というわけで、来週は、モジャちゃんと社長のご紹介です。お楽しみに。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
不思議な、でも心が暖かくなるお話ですね。最近の痛ましい事件の犯人に爪の垢でも飲ませたいです。ちゃちゃ子も、ボスねこに連れてこられたのですが、もしかすると、お父さんだったのかもしれません。そのボスねこは保護主さんによると、ちゃちゃ子を連れてきて、まもなく居なくなってしまったそうです。どこにいるか分からないけど、元気でいてほしいです。
by ふみちゃん 2017-05-30 15:14
本当に心温まるいいお話ですね。父性、母性、隣人、愛があるから丸く収まるのですね。うちのチー子も愛情深かったです。だから一年も窓越しで会っていたぺったんのことをちゃんと受け入れてくれました。
チー子がいなかったら、ぺったんと他の子達とはうまくいってなかったかも・・・。
もじゃちゃんのお話も楽しみです♡
by ぺったんの母 2017-05-30 15:49
人間が動物を好きか嫌いかを見分ける動物の能力は
外で暮らす過酷な生活から自然に身に付いたものなのでしょうね
優しい社長さんの経営する会社界隈は安全な場所と本能的に感じたのでしょうね
母猫には残念な思いですが、4匹の3匹が保護され
そして、残りは父猫に救助され、幸せになった
心温まるお話にググッと目頭が熱くなりました。
グレオとジュニア、優しい社長さんの会社の猫になって、
猫生後半は幸せ一杯の猫生になりましたね♡
現代社会の環境が、昔と大きく変わり
外で暮す事の難しさ・過酷さが増す昨今ですね
不幸な小さな命を増やさない
避妊去勢手術の実施を呼びかけたいと強く思う今日この頃です
ほっこり温かなお話、いつもながらにありがと♡
by イクラ 2017-05-30 22:42
グレオさん、堂々としているんだけど、なんとなく困り顔に見えるような? なんとも魅力的なボスですね。
我が子の一大事に駆けつけるお父さん、かっこいい。ノラ生活は大変だったけど、会社猫になってからは
娘とゆったり暮らせて幸せな猫生だったね。来週のお話も楽しみにしています。
by さりゅ 2017-05-30 23:30
>ふみちゃんさん
(わが子だけでなく)弱いものをかばってこそ、真のボス。ニンゲンも、猫に見習わなくてはね。
ちゃちゃ子ちゃんを連れてきたボスくんも、どこかで元気にしてることを祈ります!
by 道ばた猫 2017-05-31 04:09
>ぺったんのお母さま
小さないのちを繋いでいるのは、人間だけではなく、猫たち同士にも、じつはあるんですよね。
無償の愛を感じます。
by 道ばた猫 2017-05-31 04:15
>イクラさん
猫は人間に寄り添って生きる動物ですから、寄り添う人がいないまま生きるのは、ほんとうに過酷と思います。イクラさんのおっしゃる通り、そんな一生を過ごさせないのが、私たちの責任だと思います。
by 道ばた猫 2017-05-31 04:23
>さりゅさん
そうなんです、グレオパパ、カッコいいのに、ちょっと困り顔(笑)。
現役時代は、かなりケンカに強かったそうですよ!
by 道ばた猫 2017-05-31 04:26
グレオ、風格あるかっこいい猫でしたね。ジュニアとの話はすごいですね。父性愛あふれて生きざまもかっこいい!!ジュニアは目元も似ているような。ユウコさんも社長もかっこいいなぁ!
by とも 2017-05-31 06:56
>ともさん
若い時はケンカに強くメスにもてたボス猫、後半生は娘と共に穏やかな暮らし。
いい猫生でしたね!
by 道ばた猫 2017-05-31 22:31