ここは、茨城県にある、とある老人ホーム「S」。
正確には「小規模多機能型居宅介護施設』。デイサービスやグループホームや高齢者専用マンションまで兼ね備えた場所です。
お昼どき。
おや、通所のかたがひとり、お庭の方から。
「お昼ごはん、ください♪」
塀の上にも。
裏庭経由でも。
通い猫さんは、まだまだ他にもいるそうです。
さて、施設の中では・・・。
去年夏、子猫の時に保護され、スタッフの飼い猫となった今でも、毎日飼い主さんに連れられてきて、夜勤もこなすペーちゃんが、認知症の入所者の方の話し相手をしています。
ぺーちゃんは、誰にもフレンドリー。でも、ちゃんと心得ていて、入所者の方の食事タイムには、けっしてテーブルの上に上がりません。
1階のサロンの一隅には、なんと、こんな猫サロンもあるのです。
あ、そそくさと横切って行ったのは、デップくん。
ぺーちゃんと共に、施設のアイドルを務めるデップくんは、3年前に現れ、去年、けがの手当てを所内でしてもらって養生以来、そのまま中飼いとなりました。通所から、ロングステイ、そしてまんまと入居してしまった猫さんです。
デップくんの名の由来は、けっして、ジョニー・デップではなく、本名は「でぶりん」で、デップは愛称とのこと。いい味してます。
デップくんは、入所者の方々には慣れていますが、お客さんにはとっても人見知り。
館内見回りの途中で、廊下で一休み。
「見回り、おつかれさま」
施設管理者の竜子(りゅうこ)さんから、2匹揃っておやつをもらいます。
デップ君のお気に入り場所は、ここ。
使わなくなった浴場の脱衣場が、いまは猫専用の休憩所。脱衣棚の奥に潜りこんで、お昼寝です。
ここのスタッフは、竜子さんを始めとして、みなさん、猫好き。
理事長や社長の了解を得て、数年前から、近隣の通い猫の手術やお世話を続けています。
捨てられていた仔猫の保護も幾度か。手術代や餌代はみんなで出し合っています。
瀕死の状態を保護し、里親さんのもとへ送り届けた子猫たちもいます。
「ここには、いつでも困った猫を保護できるように、捕獲器や大小ケージなど常備してあります。そんな老人ホームも珍しいでしょ」と、笑う竜子さん。
利用者の方の中には「猫なんて大嫌い」とおっしゃるかたもいらっしゃいましたが、その方が今ではこんなことを。
「猫、嫌いなんて、オレいちども言わねーよー。可愛かっぺよー」
認知症の入居者の方々は、自分の猫と思い込み、「チビ」などと勝手な名前を付ける方も。
ところで、ぺーちゃんは?
あ、こんなところにいました。
ちゃんと、お米番をしていました!
入居代タダだけど、ちゃんと恩返しをしていますね。
いえいえ、恩返しと言えば、猫たちは、大きな恩返しを毎日しているのです。
猫たちがそこにいるだけで、入居者の方たちも、スタッフも、気持ちがゆったりほんわか。笑顔もいっぱい増えます。
ここの理事長さんは、「アニマルセラピー」の効用をよくご存じのようです。
柱の下の机には、1匹の犬の写真が飾ってありました。
聞くと、2階の高齢者用マンションに入居なさった方が連れてきた犬で、スタッフが散歩などのお世話を続け、ここで看取ったそうです。
このホームの理念は、「住み慣れた地域での生活が継続できるよう、利用者一人ひとりの人格を尊重し、家庭的な環境のもとでサービスを提供」すること。
人ばかりでなく、ちいさないのちまで波及して大事にするこの共生の理念が、社会全体に広がったら、どんなにいいでしょう。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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アニマルセラピー大賛成です!母がお世話になっているホームもいずれ猫がいるホームにしたいという施設管理者の方のお話があり、まだまだ構想という準備段階ですが、早くそうなって欲しいと願うばかりです。羨ましいです。母も施設に入る前まではずっと猫のいる生活で面倒を見た最後の子は随分病院にもお世話になりましたが24歳で寿命を全うしました。猫を見るだけで自然と笑顔になるんですよね。もちろん触れることができたらこの上ない喜び♡そんな老人ホームがいっぱいあるといいですね。今回もとても優しい気持ちになれるいいお話でした。有難うございます。
by ぺったんの母 2017-11-07 15:18
いいですね。人も猫も安心して暮らせるって、何だか殺伐として嫌な事件が多い中、こんなにのんびりと優しい時間が流れる空間って今、人間に必要なのかもしれません。
先日、ぽんずが実の姉(妹)と再会したそうです。みりんもすっかり女らしくなって、とっても優しい子に育っていたそうです。二人で帰るまで仲良く遊んでいたそうです。あの時、病院の前にいなかったら、今は多分もういない子達味をしめてまた同じことをされないように願いたいです。
by ふみちゃん 2017-11-07 15:27
なんてなんて素敵な施設とスタッフなんでしょう。施設に入る為に動物たちを手放す事例が増えていますが、動物好きな方のにはつらい選択ですよね。利用者さんに笑顔がもどったり生きる張り合いになれば、反対派の人たちも納得ですよね~~~
通いできてみんなを虜にしてしまった猫さんたちの作戦勝ちな気がしてなりません。
by あずにゃん 2017-11-07 15:55
ああ、素晴らしいな。猫も入居者さんもスタッフさんも、みーんな幸せになれる。
猫が嫌い!と言う方はちゃんと接した事が無い方が多い気がします。
猫も犬も接して見れば可愛くなるもんですよ^^アニマルセラピーって本当に大事。
ペット同伴で入居できる施設がもっと増えると良いですね・・・。
私がお世話になる頃には普通になってれば良いなぁ。
by チェレスタ 2017-11-07 16:35
素敵な施設ですね❣️我が家の最後に来た子は父が、高齢で世話ができなくなるからって。デイサービスや訪問看護にオプションでペットのお世話とかあったらもうちょっと一緒に入られたのにって思ったりしてます。
施設に入っても可愛い子達がいたらとても癒されるでしょうね〜添い寝係とかもいたりして
by ふにゃたも 2017-11-07 17:32
素敵ですね。この姿が標準仕様になればいいなぁ。デップくんの名前には秘密がありましたか(笑)
貫禄があって頼りたくなる! ペーちゃんはまさしくアイドルですね、きれいな瞳。
施設のみなさまありがとうございます。
by さりゅ 2017-11-07 20:48
高齢で世話が出来ないからとか、施設に入ったからなどの理由でペットを飼う事を諦める人も多いと思います。そんな人には嬉しい施設ですね。
by 桃太郎 2017-11-07 20:55
猫が自然に傍らにいる生活って、高齢者の皆さんには「当たり前の景色」だったんじゃないかな?と思います。猫と暮らしていた方はもちろん、猫が苦手だったという方も「可愛いかっぺよー」になるなんて最高!
よく動き、ふわふわ柔らかい猫を見たり触れたりすることは、認知症の方には大きな刺激と癒しになることと思います。
猫と暮らせる施設がもっともっと増えたらいいなぁ〜。スタッフの皆さん、たくさんの猫さんのお世話をありがとうございます。
通いと入居(笑)の猫スタッフさんも、利用者さんへのたくさんの働きかけをありがとうね〜♡
by kimiko 2017-11-07 22:24
見慣れている風景が今日はとてもキラキラと誇らしく感じられ、ここに集う猫達だけではなく、人々の中に流れる時間もゆったり暖かく居心地の良い空間になっていたんだなぁ〜と客観的になれた自分に気付きました。動物にも利用者のみなさんにも気持ちに余裕をもって接することをこれからも大切にしていきます。ありがとうございました。
by マム 2017-11-07 22:29
『この共生の理念が、社会全体に広がったら、どんなにいいでしょう。』
本当にそう思います。
不可能ではない!とこの施設が実証してくれていますから。
通い猫さんのふくよかな体格に思わず微笑んでしまいました。お会いしたい(*´艸`*)
by 16にゃんず 2017-11-08 01:12
素晴らしい施設ですね!
通いネコさんや施設ネコさんの表情もいい!
我が家のネコーズをもちろん自分で看取るつもりではいますが、
これから先、もし自分が自活が困難になって、
施設にお世話になることになった時に、
ペットと一緒に入所できる施設があると、
安心できるし、ありがたいです。
神奈川県に1件、ペットとの入所可能な施設があると聞きましたが、
この共生の輪がもっと広がっていくと
素敵だなあ、と思います。
by あべんぬ 2017-11-08 09:57
家族の様にかぁ~
イイっすね!
人間と猫って
そんな感じで進化してきた気がします。
by ちゃこ 2017-11-08 21:32
>ぺったんのお母さま
構想があるのなら、一気に実現してほしいですね~ そして他の施設から見学に来るくらい、アニマルセラピーの効果を証明してもらいたい。それにしても24歳とはお見事でしたね!
by 道ばた猫 2017-11-08 23:13
>ふみちゃんさん
ぽんず・みりん姉妹の再会、よかったですね。しばらく離れていても、仲良く遊べるんですね~
きっと、ニコニコしてしまう光景だったことでしょう。
by 道ばた猫 2017-11-08 23:19
>あずにゃんさん
どんな慰問よりも、犬猫の慰問が、施設にいらっしゃる方の笑顔を取り戻すと、以前施設の方に聞きました。まして、毎日の慰問なら笑顔いっぱいですよね~
by 道ばた猫 2017-11-08 23:26
>チェレスタさん
私もそう思います。子どもの頃に、動物と仲良くして、相手の気持ちを想像することができていればきっと友達にもやさしくできるし、変な大人にはならないはず。
by 道ばた猫 2017-11-08 23:30
>ふにゃたもさん
添い寝係! いいですねえ~
きっと引く手あまたで、予約が大変だろうな(笑)
by 道ばた猫 2017-11-08 23:34
>さりゅさん
デップくんは、写真より実物のほうがずっとカッコイイです。
ぺーちゃんは、ほんとにきれいな黄緑の瞳でした!
by 道ばた猫 2017-11-08 23:43
>桃太郎さん
誰だって、大切なものと、最後までいっしょにいたいですよね。
この当たり前のことが大切にされる社会になってほしいです。
by 道ばた猫 2017-11-08 23:46
>kimikoさん
同感です。あの「自由」という名が一番似合う生き物と日々接することは、認知症の方を刺激するだけでなく、まだ発症していない方の認知症予防にも大いになるはず、と思います。
by 道ばた猫 2017-11-08 23:52
>マムさん
マムさんは、とっても素敵な職場をお持ちです。
ひとにやさしいと、猫にやさしいは、同じことなのだと、先日の取材で再認識しました。ありがとうございます。
by 道ばた猫 2017-11-08 23:56
>16にゃんずさん
イバラキの子はみな可愛かっぺよ~ チバの子も埼玉の子も可愛いけんど。
いつか会えるといいですね!
by 道ばた猫 2017-11-09 00:00
>あべんぬさん
神奈川のホームは、かなり大規模で、犬と同居のフロアと猫と同居のフロアがあると聞きました。
大規模から小規模まで、いろいろ選べるようになるといいですね!
by 道ばた猫 2017-11-09 00:04
>ちゃこさん
猫をまったく人間扱いするのは、猫にとっても迷惑と思うので、家族の「ように」くらいがちょうどいいかな、と思った次第です(笑)。
by 道ばた猫 2017-11-09 00:09
ここを予約したい。
by アキ 2017-11-09 00:40
いいなぁ、ぺーくんやデップくんのいるホーム
by とも 2017-11-09 06:55
>アキさん
私も同じことを言いましたら、施設管理者の竜子さんに「わたしがボケないうちに来てくださいね」と言われました(笑)。それなら、遥か先です。
by 道ばた猫 2017-11-09 12:22
>ともさん
通い猫さんにも、個性派がまだまだいるんですって。
ちなみに、デップくんはおっさん猫ですが、ぺーちゃんは、花も恥じらううら若き乙女です(笑)。
by 道ばた猫 2017-11-09 12:25
ほっこり、ほんわか、いいお話でした。私も将来はこんなところですごしたいなー。
by ムヨク 2017-11-10 13:02
>ムヨクさん
やっぱり、幼い時から年をとるまで、生き物や大地と無縁な生活はしたくないですね~
無縁化が進んで、おかしな世の中になった気がします。
by 道ばた猫 2017-11-11 01:21