海辺の町で暮らす三毛猫ジャガーちゃんは、年齢不詳。
とはいえ、かなりのおばあちゃんであることは間違いありません。
ジャガーちゃんが、このおうちにやってきたのは6年前の12月。
冷たい雨がしとしと降る朝でした。
娘ふたりを小学校へ送り出したばかりの直子さんのもとに、キッズ携帯で娘たちからこんな電話がかかってきました。
「子猫ちゃんがずぶぬれになってる」
「呼んでみたら、来るかな」
そう聞くと、「呼んだらきて、抱っこできた」という返事。
車で駆けつけると、子どもの腕にずぶぬれの小さな三毛猫が抱かれていました。
「たしかにちっちゃかった・・・・けど、どう見てもおばあちゃん猫でした。子供の目には子猫に見えたのね」と、直子さんは笑います。
その猫を抱きとると、子猫並みに軽く、いかにも健康状態が悪そうで、消えそうな命に見えました。
子どもたちを学校へ向かわせ、猫を家に連れ帰るや、その猫は、先住猫のご飯ガツガツとをものすごい勢いで食べ始めました。相当空腹だったようです。
獣医さんへ連れて行くと、「かなりご高齢です」とのこと。
「食い意地がはっているので、もしかしたら持ち直すかな、と希望が持てたのですが、とにかくひどい下痢で、痴ほう症の気配もありました。もしかしたら、そのために捨てられたのかもしれません」
カーペットやらこたつの中やら、ところ構わず粗相をするので(しかも、下痢!)、オムツをあてがうことに。
健康状態がよくなるにつれ、下痢や痴呆症状が治り、やがてオムツも外すことができました。
「ジャガー」という名は、直子さんが好きなミュージシャンにツイッターで「子猫を保護したけどおばあちゃんだった。名付け親になってほしい」と書き込んだところ、「ジャガー」とひとこと返事が返ってきたそうです。
(なんだか、噛めば噛むほど味が出てくるスルメのような・・・もしかしたら、ぴったりの名前でしたね!)
元気になったジャガーちゃんは、春にはお花見にも連れて行ってもらえたし、直子さんが出店したフリーマーケットで店番も務めました。
直子さんは、東京育ちですが、ご主人が介護職に就くのに合わせ、南房総に移って20年になります。
いま住んでいるおうちは、千倉の海まで3分の、緑豊かな場所。
子育てが一段落した10年前には、白浜に抜ける国道沿いに「hay flower(ヘイフラワー)」という、古着と雑貨を扱うカフェを持ちました。
私と直子さんとのご縁は、3週間前のこと。千倉に他の用で出かけた時、国道沿いになぜか気になる小さな店を見つけ、入って雑貨を見ていると、おや、棚に猫の本が何冊か。
「猫がお好きなんですね?」と思わず話しかけたところ、「ええ、家には3匹います。みんな保護した子たちですけど」とすてきな笑顔が返ってきて、しばし猫話。店がお休みの日におうちに招いてくださったのでした。
「小学生の時、子猫を拾って以来、猫がいない日はなかった」という直子さん。千倉に来てからの18年間も、何匹猫を拾ったり保護したり、見送ったりしてきたことか。
「それも、車の前にふらふらっと出てきてうずくまるような子ばかりに、私、出遭ってしまうんです。元気な子猫なら里親を見つけるんですが。一番つらいのは、やっと元気になったと思った頃に、持っていた病気を発症して旅立ってしまうときですね・・・」
ジャガーちゃんより6年先に、子猫の時に保護されたヘレンくんは、幼稚園の送迎バスを待っていたバス停で保護した子。お腹にぽっかり穴の開いた子猫で、回復まで長いこと網タイツをお腹周りに着せて育てました。今では、穏やかな愛されキャラのおじさん猫に。
2年前にやってきたナッツくんは、農家のビニールハウスに捨てられていた子猫です。
保護主の仕事の都合で、ちょっとだけ預かってと頼まれ、引き受けたところ......。
「ちょうど下の娘の誕生日の前で、『誕生日に何もいらないから、この子を飼って』と娘が言い出して、お誕生祝となりました」
今では、ビビリだけどやんちゃこの上ない末っ子キャラを発揮しています。
畑の向こうに白く輝く海辺。
いろんな思いをした猫たちが、やさしい家族に迎えられ、のんびりと過ごしています。
おうちの裏は、一面の畑。いい風が吹いてきます。
小道で、ゴロンゴロンし始めたのは、ヘレンくんとナッツくん。
ジャガーちゃんは、直子さんの足元で甘えています。
6年前の氷雨にずぶぬれたままだったら、ジャガーちゃんの命はすぐに尽きていたでしょう。
それまで、どんな境遇だったのかも不明ですが、人生も猫(ニャン)生も、後半がしあわせなら、最高!
6年前に拾った時すでに「かなりのご高齢」と言われたジャガーちゃんですから、今の年齢はいったい幾つなのやら。
「妖怪っぽいというか、ニンゲンっぽいというか、今はやりの顔取り替えアプリでも、人の顔として感知されちゃうんですよ~」と、直子さん。
歯は1本もなくとも、ひと缶食べ終わってお皿までなめてる食べっぷりを見ると、猫又になってもまだまだ長生きできそうなジャガーちゃん。
直子さんの夢は「猫のいる宿かカフェを開きたい」とのことですから、看板猫におさまるのも夢ではありませんね。
「妹の家にも、保護猫が4匹いて、そのうち2匹は盲目でさまよっているところを保護した子なんです」ということで、来週は、直子さんの妹さんちの猫さん紹介と続きます。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
猫は優しい人をちゃんと見抜けるんですね。ジャガーちゃん達もきっと直子さんご家族を選んで、来てくれたんだと思います。
我が家のそらも、短い生涯と分かっていても、会いに来てくれたのだとしたら嬉しいです。本当は、ジャガーちゃんのように長生きして欲しかったけど、それはもう運命で決まっていて、そらのせいではないので、仕方ないですね。生まれ変わりがあるなら、きっとまた会えると信じたいです。
by ふみちゃん 2018-05-22 13:49
我が家のマサムネも迷い込んできたときは、生後3ヶ月?4ヶ月はいってないよね~ってくらいの小ささでしたが、病院で永久歯が生えていることがわかり、生後6ヶ月はたっているとわかりました。
ジャガーちゃんもウチのマサムネも、ノラであまり食べられなかったんでしょうね。
今はお腹いっぱい食べられるのも一緒ですね♪
ウチのマサムネはいまでは立派な尻尾とたてがみをもったイケニャンになってます(*^-')b
by まりお 2018-05-22 19:50
>ふみちゃんさん
寿命の長い短いにかかわらず、誰かに愛されて旅立ち、ずっと惜しまれているのなら、充分にしあわせな猫だったと思います。そらちゃんはしあわせな猫。
by 道ばた猫 2018-05-23 10:18
>まりおさん
まりおさんちに迷い込んで、お腹いっぱい食べて、今では立派なイケにゃん! マサムネくん、よかったね! 「このおうち!」って決めて入っていったんだよね~
by 道ばた猫 2018-05-23 10:22
ジャガーさん、何となくウチのウギャーさんを思い出しました。
おばあちゃん猫に「ジャガー」と名付ける
そのミュージシャンの方のセンスが素敵過ぎますね!(笑)
みんな幸せそうなお顔。見ているこちらまで嬉しくなります!
by あべんぬ 2018-05-23 10:22
また、通学途中にジャガーさんを見つけ、
直子さんに連絡したり、
誕生日に何もいらないから、保護した猫を飼って、とお願いするお嬢さんたちの
小さい命への優しさと思いやりの気持ちにも
本当に涙が出ますね。感動しました!
by あべんぬ 2018-05-23 10:36
>あべんぬさん
そうなんです、ウギャーさんの面影ありますよね。どちらも愛されおばあちゃん。
「ジャガー」という勢いのある名は、正解でしたね(笑)~
ほんとうに素敵な母娘と思います。ほとんどのお母さんが「学校に遅れるでしょ!」「濡れないとこに移して学校に早く行きなさい」といった対応ではないでしょうか。弱いもの困っているものの味方になるという一番大事なことを、お嬢さんたちはこんな小さいうちからしっかり身につけてるんですよね。
by 道ばた猫 2018-05-23 21:36
先週末に父が旅立ち、週明けに夫の母が旅立ち、ある程度の覚悟はできていましたが、ダブルの悲しみで落ち込んでいました。道ばた猫日記開いてみて良かった。ジャガーちゃん、どうぞ父や義母の分まで長生きしてね。癒されました。ありがとう・・・。
by ぺったんの母 2018-05-24 09:39
>ぺったんのお母さま
お父さま、そして旦那さまのお母さまの旅立ちを心よりお悔やみ申し上げます。たくさんのやさしい思い出を遺していかれ、折に触れ、あとに生きるご家族を励ましてくださることでしょう。安らかに。
お悲しみの中に、コメントをありがとうございます。
by 道ばた猫 2018-05-24 20:22
道ばた猫さん
何ヶ月ぶりに、道ばた猫日記を見ました。本当に猫さん達は可愛くて健気です。
年明けに主人が倒れて、母の実家を離れている間に、3年も仲良くしていたみー太くん達(最近はチビこ、シロが加わり3匹になっていました)は誰も居なくなりました。本当に猫っ子一人居なくなりました(涙)
あの大雪の冬の間はどうしていたのかと思うと、可哀想でなりません。何処か新しいところで元気にしているのなら良いのですが…
by 佐藤 眞弓 2018-05-25 11:18
>眞弓さん
そうだったんですか……。大変な年明けだったんですね。旦那さまが快方に向かわれていますように。
みー太くんたちは、きっとたくましく新しい餌場を探し当てたと信じましょう。私も、ぱったりと会えなくなった海辺の猫が餌場を変えて元気にしているのを知った時は、胸をなでおろしました。また3匹に会える日が来ますように!
by 道ばた猫 2018-05-27 01:38