東京でただひとつの「村」、檜原村(ひのはらむら)周辺の山村原風景が大好きで、ときどき足を延ばします。
以前、この地で生まれ育った造形作家の方に、「あの辺りは、魔界との境界線。子どもの頃、いわゆる「逢魔が時」と呼ばれる日没前に、よく不思議なものに出遭った」と聞いて以来、ますます惹きつけられています。
3年前のあの日。
檜原村からの帰り道、「この橋の向こうには何があるのだろう」と、ふと思い、渡ってみたくてたまらなくなった橋がありました。
道が細くなり、パラパラっとあった人家が途切れ、また道が開け、秋川沿いを走ります。
何もない山奥なのに、何だろう、このワクワク感は・・・。と思った時、小窓や外階段がいっぱいある楽しそうな建物を発見。降りたつと、建物の前の坂道に、一匹の茶白の猫が!
猫は、ひとしきり親愛のごろんごろんをした後、「ついておいで」と誘うように私の前を歩きだしました。彼が連れて行ったのは、うっそうとした神社。木々の間を天狗のように飛んで、私の手の届かない場所にたたずみ、じっとわたしを見つめました。
「来るのを待ってたよ」というように。やがて、彼の姿は暮色の中に、夢のように消えました。
そんな不思議な出会いをした猫に、先週、また会いに行きました。
不思議な建物は、「ネオ・エポック」というギャラリーでした。
ドアと2階の小窓が黄色、3階の小窓が青いペンキで塗られていて、長い煙突があります。
デッキでは、ちょっと気難しそうなうす三毛の猫が寝そべっていました。
物語の世界への「迷い込み」感がいっぱいです。
迎え入れてくださったのは、このギャラリーの主、田畠さん。物静かで、さらさらっと温かい雰囲気の女性です。
「まあ、みぃが人前に出てくるなんて」と、田畠さんが見やる先に、3年前に遭った茶白猫さんが。
彼は、私が来るのを知っていたかのように階段の上から見下ろし、カメラを向けると、ちょっとすました顔になりました。
「驚いた。みぃはお客さんの前にはめったに出てこないし、おまけにカメラが大嫌いなのに、逃げないどころか、ポーズまでとってる!」
田畠さんがそういうので、私は白状しました。
「私たち、3年前にもう知りあってるんです。夕暮れ前の神社に連れてってもらいました。そのとき、また会う約束をしてたんです」
「まあ、そうだったんですか、神社はみぃのいちばんお気に入りの場所なんです」
そのあと、みぃは、勇んでギャラリー内を案内してくれました。
まるで、小さなお城の中の迷路のように、次々と展示スペースが現れます。
和布、ガラス、陶器、アクセサリー、トンボだま、絵画、人形、服・・・。ピカソの版画も数点あります!
なんと、ここは、トンボ玉とピカソのコレクションでは、日本では抜きん出たギャラリーだったのです。
田畠さんが「師匠」と呼ぶ顧問のかたは、EUで承認される「美術品の鑑定や評価をするエキスパート」資格を、アジアでただ一人保有する方。
とはいえ、けっして敷居が高いギャラリーではなく、ふらりと立ち寄って見て回るだけでも、とてもていねいに親切に作品説明をしてくださいます。
「迷子になりそう。おもしろい設計ですねえ」
そうつぶやくと、田畠さんが、ちょっと茶目っぽい目になって言いました。
「じつは、この建物全体が、猫のために作られているんですよ」
えっ?
「窓の桟の幅も、椅子の高さも、小階段のステップも、棚の配置も、すべて猫のために作られてるんです。猫が座れば、外の緑や小鳥が観察できるような高さに。ほら、外にも階段や棚があるでしょう。あれもキャットウォーク・キャットタワーで、いろんなところに繋がってるんです。みんな私たちがせっせと作りました。猫たちはそれぞれベッドルームを持っています。人間は相部屋ですけど(笑)」
なんという猫愛溢れた不思議ワールドにさまよい込んだのでしょうか。
田畠さんのご両親は人形劇に関わっていらしたそうですので、遊び心のある舞台設定はご両親譲りですね!
デッキで寝そべっていたうす三毛さんは、まろちゃん。
まろちゃんもみぃくんも、ある日、どこからともなく現れた子猫でした。
猫は、あと2匹いるとのこと。みぃくんとまろちゃんのようにお外大好きではなく、怖がりでお部屋からあまり出ないそうです。
道はこの先行き止まりで、HPも作ってないし、道案内の看板もなく、何一つ宣伝はしていないギャラリー。
ですが、作家作品のトンボ玉を求めに海外や大使館から訪れる人もいて、作家ものを求めるなじみ客も多いという、知る人ぞ知るギャラリーなのでした。
そうそう、驚いたことがもう一つ。
作家さんの紹介ボードに写真が載っているのですが、ほとんどの作家さんが愛猫を抱いて写っているのです。何たる猫度!そのせいか、猫モチーフのユニークな作品がたくさんありました。
「行き止まりですし、まず知らない人は渡ってきませんね」という橋を渡った私は、不思議な不思議な猫の館に導かれました。
どうやらみぃが、手招きしたようです。その証拠に、帰りがけに姿を消していたのに、ふと振り返ったら、坂の上から「また来てね」と見送る白い小さな姿が見えましたもの。(黄色いドアの前です)
再訪する楽しみがもう一つ。
はす向かいのレストラン「メリダ」は、ギャラリーと経営を同じくし、おいしい地中海料理をいただけるそうです。(ディナーは、要予約)
そして、そこにも、ちょいミステリアスな三毛猫チャーちゃんが、店裏にすてきなマイハウスを作ってもらって、可愛がられていました。
「魔界」との境界に住む人と猫たちは、なんて魅力的だったことでしょう。
あの橋は、ほんとうにあったのでしょうか。確かめに近々また行かなくては。
━*:。*★ギャラリー ネオ・エポック。
東京都あきる野市戸倉1514
月曜火曜休み。10:30~17:30
駐車スペースは、向かいのレストランメリダと、共有)
━*:。*★お知らせひとつ。
道ばた猫日記「あたたかな場所その3」でご紹介した、道ばたでへばっているところを三浦うみかぜレンタバイクに保護された「うみちゃん」。その記事が、NHK「もふもふモフモフ」番組制作の目に留まり、明後日7日夜10:25~ 現在のうみちゃんが紹介されます。とってもべっぴんさんになって、しっかり看板猫やってます。
ぜひご覧ください。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
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道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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檜原村にこんなに素敵な所があったんですね。姉から美味しいお豆腐やさんがあるよ、とは聞いていたんですが、猫好きにはたまらないですね。
ちゃちゃ子を連れてきたボス猫の詳細を聞きました。彼はミルキーという呼び名で保護主さんの近所を渡り歩き、たくさんの猫の面倒をみていたそうです。なかでも子猫は色々なお宅に、連れて行き、そのお宅に託したそうです。彼のお陰でお家が見つかった子がたくさんいるそうです。ちゃちゃ子も彼のお陰で私の娘に出会いました。保護主さんが作ってくれた動画が感動的です。彼の生きた証が残っています。改めて猫の魅力に気付きました。
by ふみちゃん 2018-06-05 13:40
>ふみちゃんさん
ミルキー・・・なんとも魅力的な伝説の猫ですね~。会ってみたかった!
こうやって惜しむ思いを伝えてくださることも、彼の生きた証になると思います。
by 道ばた猫 2018-06-06 03:47
本当に夢の世界に迷い込んでしまったような素敵な場所にギャラリーがあるなんて!知る人ぞ知るところなんですね。
猫目線のかわいいおうちで、住人の猫さんたちにとってまさに「楽園」みたいだな、と思いました。
みぃくんがちゃんと3年前の約束を覚えてくれてたというのも驚きですが、一度行ったらまた行きたくなる場所ですね。
by はなこママ 2018-06-06 19:40
>はなこママさん
外であった猫と別れる時、私は「またね」と言います。
ずいぶんたって又出会った時、「元気だった? 会いに来たよ」と言うと、ちゃんと覚えている猫もいるし、「誰だったっけ?」と懸命に思い出そうとする猫もいます(笑)。
by 道ばた猫 2018-06-06 23:30
>みなさま
本記事最後に、うみちゃんテレビ登場のお知らせをしましたが、6月7日ではなく、7月5日のもふもふモフモフでした。また近くなりましたら、お知らせいたします~
by 道ばた猫 2018-06-07 22:51
わぁ、なんて素敵な場所なのでしょう。不思議で神秘的な物語にでてくるようですね。みぃくん、覚えていたのですよね♪猫ってなんでもわかっていそうで敵いません(笑)
向かいの地中海料理のレストランもいいですね!ギャラリーとレストランどちらも休みの日に伺いたいです!!
by とも 2018-06-08 07:10
>ともさん
ほんとに猫さんには敵いません!(笑)。これに尽きます。
それにしても、ともさんも、フットワーク軽いですね~~。
by 道ばた猫 2018-06-09 11:32