夕方近くなり、山の樹々を渡ってくる風が、ちょっと涼しくなってきました。
日中はおうちでひたすらのびていたコゲちゃんが、蝉しぐれの中、ようやくお庭に散策に出てきました。
コゲちゃんは、房総の山村暮らし。
推定年齢8歳のメス猫です。
コゲちゃんちのお母さん、礼子さんは、ひと山ある敷地内で「日毎(ひごと)」というカフェをしています。
コゲちゃんと私は5カ月ぶりの再会なのです。
館山から白浜に抜ける、人家も途絶えたカーブ続きの山道で、「えっ、こんなところにお店?」とびっくりする看板を道ばたに発見したのは、まだ春浅き頃でした。
グレーの小さな看板には「日毎 am11:30-5:00pm 」と書かれています。
斜め上を指す矢印。斜め上って、結構な急坂ですが、よく見れば、コーヒーカップの
絵が。
だけど、残念。その時、時間は夕方の5時ちょっと過ぎ。それでも、この不思議な看板の引力に抗えず、矢印の指し示す急坂の小道を登って行ったのでした。
急坂の上には、思いもかけず、フランスの農家のようなのどかな風景が待っていました。
カフェはもう閉店でしたが、母屋の前の薪のそばに、山猫のような長毛猫さんがいて、じっとこっちを見ていました。
その猫は、ゴロンゴロンとお腹を出して甘えた後、「またいつか出直しておいでよ」と言うような目線をくれた あと、山の木立の中へ消えていきました。
その猫が、山猫なのか、通い猫なのか、母屋の猫なのかはわかりませんでしたが、約束通り、この夏、再び「日毎」へやってきたというわけなのです。
カフェへと続く石畳が、なんだかとても楽しい。
お店の中に置かれている造形作品や絵は、礼子さんの旦那さまの喜多村紀(おさむ)さんの作品だそうです。
ナチュラルで、温かく、どこか牧歌的な作風は、カフェの雰囲気と同じです。
開店して3年に入るこのカフェは、もともと紀さんがアトリエとして使っていた建物だったとか。シンプルで、居心地のいい空間です。
押入れを取り外して作った窓辺の席からは、夏の緑がいっぱい。農具小屋の農具も絵になっています。
紫陽花、芙蓉、さるすべり、夾竹桃、ヤブ椿、バラ、銀杏・・・などは、紀さんのご両親がこの山に越してきて、開墾して植えた樹々だとか。
窓から眺める空の色、雲のかたち、木々の色は、季節ごとばかりでなく日毎、刻々、変化していきます。
前庭は、コゲちゃんの夏の夕方の散策コースです。
そうそう、知りたかったコゲちゃんのお話。
礼子さんからお聞きしました。
コゲちゃんは、6年前の冬に現れてうろつき始めた猫でした。
最初は、近くの飼い猫と思っていたそうです。近くと言っても、どっちのお隣もひと山越えた向こう。
山を越えて遊びに来ているものとばかり思っていたのですが、いつもひもじそうなので、ご飯をやるようになりました。
日毎やってきて、ご飯をもらっては、どこかへ帰って行きます。そして、そのうち、どこへも帰らなくなりました。
「捨てられた猫なのかな、と思ったのですが、猫を飼う気はなかったんです。ちょうど義母の介護のために、ここに移り住んだばかりだったので、猫を飼う気持ちの余裕まではとてもなくて」と、礼子さん。
山の冬の朝番は冷え込みます。アトリエの玄関先から立ち去らない猫がふびんで、毛布とホッカイロ入りの段ボールのねぐらを作ってやりました。
その日は雪がちらついていました。
玄関先でガラス戸を見上げ、昨日も今日もじっと佇んでいるコゲちゃんを見た、紀さんと礼子さん。
顔を見合わせて、どちらからともなく出た言葉は・・・。
「飼う?」
「おうちの子にしてください」と戸口でひたすら訴えたコゲちゃんの粘り勝ちでした。
おうち猫になったコゲちゃんは、温和そのものの子で、とってもおしゃべりなんだそうです。呼べば飛んでくるし、溶け込んでしまう暗闇では「ここにいるよ」とばかり「にゃあ」と鳴きます。ひもじかった頃の名残か、ご飯どきには、「ゴハン、ゴハン、ゴハン!」と鳴きっぱなしなんだとか。
ところで、なぜ、「コゲ」ちゃんなのか。礼子さんが教えてくれました。
「この子がやってきたばかりの時、網でトーストを焼いてたら、焦がしてしまって。ナイフでガリガリと削ったその色が、ふと見ると、そっくりだったので」とのことでした。
日毎の通い猫から、「日毎」のおうち猫になったコゲちゃん。恩返しのつもりか、モグラやネズミ、鳥やヘビなど、夕方の散策で手に入れた「山からのおみやげ」をせっせとプレゼントしてくれるそうですが・・・。
コゲちゃん、礼子さんは「贈り物は、もういいから」って言ってるよ。
◆「日毎」◆・.。*†*。.・
千葉県館山市出野尾(いでのお)768
11:30 ~17:00
火・水休み(お盆休みあり)
(コゲちゃんは、カフェには入りません。夕方、お庭でぱったり会えるかも)
◆お知らせ◆
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8月1日(水)23:55~「もふもふモフモフ」再放送にて、昨年7月18日の道ばた猫日記「アタシの特命」でご紹介した酒蔵のネズミ番「花ちゃん」登場。
8月2日(木)22:25~拡大スペシャルにて、昨年7月11日の道ばた猫日記「スイカ農家の猫たち」でご紹介した、ミーちゃんたち登場。
働き者の花ちゃんやミーちゃんをぜひみてやってくださいね。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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本当にシンプルなお店ですね。なのに個性的で緑も豊かで、一日じゅうのんびりしていたくなりました。こげちゃんがそばにいてくれたら、もう、言うことなしです。
by ふみちゃん 2018-07-31 15:54
こげちゃん、魅力的!!私も見かけたら間違えなく引き寄せられてイチコロです。長毛種がとっても懐かしいです・・・色合いも、言うことなし!!
by ぺったんの母 2018-07-31 16:31
コゲちゃん(^_^;)
由来はと思ったらやっぱりそうだったか!
しっかしここに登場する猫たんは
おでぶたんが多いですねえ(^_^;)
でも
「ゴハン、ゴハン、ゴハン!」
アタックを食らうと、やはりこうなってしまうね(^_^;)
by ドラ猫マスター 2018-07-31 17:12
コゲ!にゃんてすてきな名だ♥
by にあ 2018-08-01 00:18
コゲちゃん。長毛のサビ柄のネコさんなんですね。お名前もその佇まいも魅力的!
カフェの「日毎」という店名も素敵ですね。
千葉や房総へはなかなか足を運ぶ機会がないのですが、今まで茉莉子さんが紹介してくださったカフェツアーを、いつかしてみたいです!
「もふもふモフモフ」もチェックしますね!
by あべんぬ 2018-08-01 09:03
>ふみちゃんさん
コゲちゃんは、昔うちにふらりと迷い込んだ長毛の黒猫「まっくろちゃん」にそっくりなんです。それはそれは賢い子でした。コゲちゃんも、ただものならぬ雰囲気ありますよね~
by 道ばた猫 2018-08-01 10:57
>ぺったんのお母さま
私は、その地の喫茶店・カフェ・食堂が大好きで、店名や看板第一印象主義なのですが、猫との遭遇率すごく高いです。これだけは自慢(笑)。
by 道ばた猫 2018-08-01 11:02
>ドラ猫マスターさん
えっ、おでぶちゃんって・・・・みんなふつうですってば。フ・ツ・ウ!
コゲちゃん…一度聞いたら忘れない、キュートな名前ですよね。昔「ハゲちゃん」という猫に出遭って、その時は「あんまりだ」と思いました…(笑)。
by 道ばた猫 2018-08-01 11:08
>にあさん
はい、「日毎」という店名といい、「コゲちゃん」という名前といい、礼子さんのセンスはバツグンだと思いました。声に出してつぶやくと、あったかーい感じですよね~
by 道ばた猫 2018-08-01 11:12
>あべんぬさん
房州は、真夏の暑さも、都会とはちょっと違って風の吹き抜ける暑さですけれど、夏の賑わいが遠ざかった頃から初冬にかけてが、空いていておすすめです。いつか、一日ゆっくりと。
by 道ばた猫 2018-08-01 11:23