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[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

道ばた猫日記

2018年11月06日

形見の猫

ベルちゃんは16歳。
キジ白のメス猫さんです。

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なかなかに意志のある顔つきの美女ですね。

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「そうでしょう、勝気この上ない猫だけど美人でしょう。美人だって、あと百回ぐらいベルの前で言ってやってください」
そう言って相好を崩すのは、税理士の落合さん。
亡きお母さまから、ベルちゃんの余生を託されました。

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ベルちゃんは、16年前、落合さんのご両親がお住まいの雑司ヶ谷のご実家にやってきた子猫でした。
その前にも初代ベルというキジトラの猫さんがいて、可愛がられていましたが、そのベル亡きあと、ご近所からもらわれてきたのです。

「父が亡くなってからの年月を、、母とベルは寄り添い、支え合って暮らしていました。母が風呂に入っているときは風呂場の外で待ち、トイレにもついていく。『どこにいくにも後をついてくるの』と、母はいつも嬉しそうに話していました。夜も、『ベル、寝よう』と母が言うと、枕元に来て尻尾をパタパタ振って母が寝入るまで寄り添い、足元で朝まで寝ていたそうです」

そのお母さまが、脳梗塞に倒れて介護施設に入居なさったとき、病床でベルを探すようなそぶりをなさっていたことが、落合さんの目に焼きついています。お母さまは4年前にベルちゃんを遺して他界されました。

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「ベルは、母がいなくなっても一見変わりなくは見えたけど、さびしかったと思いますよ。現在、私は実家を税理事務所にしていますので、毎日ここに通っていますし、しょっちゅう泊まってます」と、落合さん。

つまり、ベルちゃんは、今は、事務所猫に。
「私たち夫婦はマンション暮らし。ベルは、庭に出てのんびりするのが大好きだし、生活の変化でストレスを与えるより、これまで通りに静かに過ごさせてやりたい。ですから、ベルの家に私が通うという形を続けています」

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たしかに、落合さんが撮ったお庭のベルちゃん、まったりのんびり気持ちよさそう
です。
2階の部屋に至るまで全室、ベルちゃんは自由に使えるのですが、お気に入りは、
1階のこたつのある4畳半。亡きお母さまの膝の上でいつも一緒にテレビを見ていた部屋です。
そこに、ベルちゃんは入りびたり。
寒い季節は、こたつの中で、まったり過ごします。

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「もともと勝気なベルは母が甘やかしたので、わがまま勝手。それでも、私との距離はだんだん縮まって、最近は『撫でて』という要求もしてくるようになりました。カワイイもんです」

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落合さんは、縁あって、犬や猫の保護を長いこと続けているNPO団体「アリスの会」の税務も担当しています。
代表の金木さんと初めて会ったとき、動物実験の話題になりました。
「医学の進歩などのためには、まあ仕方のない側面もあるのかなあ」
落合さんがそう言うと、金木さんは静かにこうおっしゃったそうです。
「でもね、動物にも、感情があるんです」

「その言葉が、今も私の耳から離れません。そして、実際にアリスの会の税務を担当して、「不幸な犬猫をなくしたい」との一心で、メンバーがそれぞれ持ち出しをしてまで続けている実情を知りました。その「『無償の愛』に、心から頭がさがる思いでいます」

ベルちゃんの気持ちを最優先して、お母さまとの思い出が詰まったこの家で、お母様の気配に包まれて暮らすのが、ベルちゃんにとっていちばん安心できる穏やかな老後だと、落合さんは選択しました。

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「母が私に託したベルの一生を、しあわせに全うさせてやりたい。ベルと過ごす時間は、ごく普通の日常で、ごく普通にときが過ぎていきます。獣医さんでの検診や予防接種のとき以外は、たぶんベルにはストレスはないはず(笑)。猫は達観していて『寝て、食べて、それで満足。人間たちって、何をそんなにモノに執着したり、欲張ったりするの』って思っていることでしょう。私もね、つくづく思いますよ。お金をいくら持っていても、穏やかにふつうに暮らせるしあわせを知らないさびしい人生はつまらない、って」

ちょっとどぎまぎすることや焦ったりすることにぶつかったとき、落合さんは、ベルに話しかけるそうです。
もちろん、ベルは「そんなこと知ったことじゃない」という顔です。
「でも、猫の背中って不思議ですよねえ。なんとかなりそうな気がしてくるんです(笑)」

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形見の猫は、今も、母と息子の心をつないでいます。



「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。

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道ばた猫日記ライター紹介

佐竹 茉莉子(さたけまりこ)

フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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カテゴリ: 道ばた猫日記
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みにゃさまのコメント

一枚目 意志のある顔つき

二枚目 眠気マックスの顔つき

三枚目 早くご飯よこせや! の顔つき

四枚目 婆ちゃん想いだして憂う顔つき

五枚目 石がひんやり気持ちよしの顔つき

六枚目 こたつで寛いでるのに布団めくるな!の顔つき

七枚目 まあまあ撫で方が婆ちゃんに近づいてきたな!の顔つき

八枚目 ビク! よ、予防接種とか言ってたぞ の顔つき

九枚目 落合さんのケアも大変なんじゃわい の顔つき


ベルの心が読めたで(^_^;)

by ドラ猫マスター 2018-11-06 13:13

16年を生きてきた猫さん。
おばあちゃんとの生活でたくさんの愛をもらって、いまはその息子さんから愛をもらってあたたかい思い出とともに生きているんですね。
長生きしてね~~

by あずにゃん 2018-11-06 13:45

深い愛情と強い絆は、人間と猫の種の違いなんて簡単に越えますね。おばあちゃんとベルちゃんの絆は誰にも邪魔されないと思います。そして、猫にも感情はあります。嬉しい時、悲しい時、怒った時、全て表情が違います。態度も違います。ベルちゃん、うんと長生きして、今度は息子さんとの強い絆を結んでほしいです。

by ふみちゃん 2018-11-06 14:49

心を打たれました。
寝て食べてそれで満足。
本当ですね。
猫から教わる事は多いですね。

by ありがとう 2018-11-06 18:53

わぁ!今回の猫さんはまた良いお顔~(*^_^*)たまりません♪なんと味のある表情!!猫生を感じます♪そして表情豊かな美人さんですね☆お母様の愛情たっぷり受けて幸せに過ごしてそして息子さんに引き継がれて……って素敵ですね。甘やかされてわがまま(笑)というのもお母様がとても可愛がっていたのがよくわかりますね(^-^)ベルちゃん、ほんとにベルちゃんから人間が学ぶことたくさんありそうですね!

by とも 2018-11-06 19:46

いいニャ~、ニャンコは♥
身ひとつで完結しててニャ~(^^)

by にあ 2018-11-07 00:08

>ドラ猫マスターさん

ベルちゃんの心の解読、ほぼ当たり‼
2枚目は眠いんじゃなくて、たぶん「『ベルちゃん、こんにちは~』って、なれなれしくあたしンちに入ってきたこのヒト、誰なのさ」って、品定めしてる図です(笑)。

by 道ばた猫 2018-11-07 01:19

>あずにゃんさん

そうですね、親子2代にわたって大事にされて、しあわせな猫さんですね。
平穏なベルちゃんのお顔を見ると、今もベルちゃんは母様と共に暮らしているのかもしれません。

by 道ばた猫 2018-11-07 01:24

>ふみちゃんさん

ほんとに、このベルちゃんの表情をみれば、豊かな喜怒哀楽をもちながら、それでもジタバタせず淡々と生きている健気さがみごとです。

by 道ばた猫 2018-11-07 01:27

>ありがとうさん

食べて寝てくつろぐのが、猫の暮らしの基本とすれば、貨幣社会に生きてる人間は、食べて寝て働いてくつろぐ。これが基本でまあいいのかと。

by 道ばた猫 2018-11-07 01:35

>ともさん

いやあ、ほんとに、猫と暮らすことは、いろんなことを気づかせ、教えてくれます。
あと、私の場合は、「町を歩くこと」も。

by 道ばた猫 2018-11-07 01:39

>にあさん

ほんとうに!
身一つで、生きていける猫は、人間の永遠の憧れで、永遠に敵わない存在ですね~

by 道ばた猫 2018-11-07 01:42

亡きお母さまの大切な形見猫。
税理士先生にとってお金は大切で人や団体企業にとっても然り。
そんな中、真の幸せとは何かを、一匹の猫から感じていく。。。ストーリー。

とても読みやすくてわくわくしながらも、落合さんの心の動きを淡々と書かれていて
いつもながら佐竹さんの文章は素敵です。
猫のことはもちろんですが、このコラムで佐竹さんの文章を読むことが本当に楽しみになっています。

by みり 2018-11-07 10:35

>みりさん

雑司ヶ谷は猫にやさしい町だと落合さんはおっしゃってました。猫の物語を紹介するとき、その猫に寄り添う町や人の生き方の断片もそっと伝えられたら、と思いながら道ばた猫日記を続けていますので、みりさんの言葉はとてもうれしく励みになります。ありがとうございます。

by 道ばた猫 2018-11-08 01:07