思いがけず起こったある事件が、「私たちは双子のきょうだいのような関係」であることを思い知るきっかけとなり、よりいっそう大事に、これからもともに生きていこうと約束したのは2年前のこと――。
気付かされた大切な存在
「あの時は本当に焦りました。」と回想するのはキジ白「きん」(18歳・男の子)の飼い主、濱田暁子さん(京都市在住)。きんが脱走したのは今から2年前の16歳の頃。いつも人の側にいるか、お気に入りの場所にいるはずのきんの姿が見当たりません。「家に一緒にいるはずなのに、2時間くらい見ていない......。」濱田さんは不審に思い家中を探しましたが、やはりきんはどこにもいません。「もしかして!?」玄関を見ると扉にわずかな隙間がっ!!扉は開いているのに「しまった!」とはシャレにもなりません。すぐに外への捜索に切り替えましたが、すでに日が暮れていて辺りは真っ暗。その日はとうとう見つけることは出来ませんでした。濱田さんは次に捜索願いのチラシを作り、すぐに近所へポスティング。その甲斐あって「お宅の猫が庭にいる。」と通報をもらったのは脱走から3日目のことでした。きんは恐らく何も口にしていなかったのでしょう。心身ともに疲れきった様子で、容易に捕獲することが出来ました。
当時、ポスティングしたチラシ。
なるほど。
正面よりも、特徴のある後ろ姿。
あの時はゴメンねー。
はい。外の生活はもうゴメンです。
脱走の原因は扉を勢いよく閉めた反動で隙間ができてしまったことだったようです。以後、玄関の開け閉めには細心の注意を払う濱田さん。きんの大切さを実感するとともに、これまでのドライだった関係も一転。一心同体、まるで双子のようだと思うようになったのでした。
必然的な出会い
ふたりの出会いは今から18年前、濱田さんが大学3回生の頃の話です。ある日、「先輩!子猫を保護しました!」と後輩から連絡が入りました。実は、濱田さんの実家にはいつも猫がいて、親元から離れてみるとその存在の大きさや、こんなにも猫好きだったんだということに気づかされ、常々「猫とまた暮らしたいなぁー。」と公言していたからです。一方、保護された当時のきんは親猫からはぐれた、まだ手乗りサイズの子猫でした。当然、放っておくわけにはいかず、自分が育てると決意、すぐにフードや猫砂といった道具を揃えるためにホームセンターへ駆け込んだのでした。
もともと濱田さんに猫と暮らした経験があったのと、きんの生まれ持った強運や体の丈夫さもあってすくすくと成長し、体重も6kg台に!その後、引っ越しを3回も経験し、もう「家に付く」のも慣れたものです。でもきんは「人に付く」タイプだから、きっと環境の変化はそれほど関係ないんでしょうね。見ていると、ずーっと濱田さんの後を追っています。甘えん坊さんめ!
土間に移動した濱田さんのあとを追い、
スリスリ
ペタペタ
ニャーニャー$
構え構え!と猛アピールです。
体調や好みに合わせたフード選び
昨年の夏に体調を崩し、きんの体重がガクッと落ちることがありました。あまりにもごはんを食べないので心配になって病院へ行くと、すぐに点滴を施されました。しかし、自宅に戻ってからも少しだけ食欲を取り戻した程度で、以前ほどしっかりと食べてくれません。そうなると体重はどんどん右肩下がりに......。獣医さんに相談すると強制給餌を提案されました。普段のドライフード「腎臓サポート」(ロイヤルカナン)を水でふやかしペースト状にし、1日分を作ります。与える時はそれをお湯で常温に戻し、シリンジで給餌。膝にきんをおき、毛布でお包みして与えると嫌がらないなど、やっていくうちに工夫も生まれました。そんな甲斐もあって秋には回復し、今は手助けなく自ら食べるようになりました。朝晩にウエットフードを1袋+ドライフードを少々。今は療法食より市販のフードが好きとのこと。「食べないことが一番ダメ!」だと食い付きが良いものを優先して探し回るあたりは、ご長寿猫の飼い主さんに多く見られる光景です。
引っ越して、縁側とお庭ができたことが何よりもうれしい。
夏場は土間が大活躍。
冬はめちゃくちゃ寒いけど......。
念願の京町屋に大満足なおふたりでした。
これからもずっとふたりで
昨年2月の定期検診で、きんの腎臓がステージ2と診断されました。5段階評価の「2」というのは、まあまあ年齢なりの数字で、これから悪くなるのをどれだけ緩やかにしていくのかが課題となり、腎臓の薬を処方されました。しかし、きんは「20歳を越す素質がある」と獣医さんから心強い言葉をいただいたご長寿の逸材でもあります!取材で過去から現在までを振り返っていただき「ええ猫ですね。」とポツリと呟いた濱田さんの顔がなんとも誇らしく見えました。
終始、濱田さんにベッタリなきんであった。
「猫又トリップ」が書籍になりました。
『
ご長寿猫がくれた、しあわせな日々』
15歳以上のご長寿猫と、その家族が奏でる28の物語をお届けします。
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(ΦωΦ)
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猫又トリップライター紹介
ケニア・ドイ
1972年兵庫県生まれ。ほとんど犬猫カメラマン。著者に「ぽちゃ猫ワンダー」(河出書房新社)、「じゃまねこ」(マイナビ出版)がある。新刊「ご長寿猫がくれたしあわせな日々~28の奇跡の物語~」祥伝社より絶賛発売中。現在、黒背景で行うペット撮影会「ドイブラック」を全国で展開中。
http://kenyadoi.com
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脱走…うちも経験有りです。仕事から帰って玄関戸を開けたら、足元をするりと。幸い5mほど行った所で捕獲出来ましたが、焦りました。あれ以来、帰宅時はそ〰っと戸を開けてます。
うちの猫は、きんくんみたいに特徴のある毛柄でないので(さびです)、探すとなったら難しいだろうなぁ…。
居て当たり前、と思っていたら危険ですね。
by さび茶風 2019-01-27 10:28
さび茶風さん
脱走の話を聞くとこちらも「ヒャッ」ってなります。
玄関が二重扉だとさらに安全ですよ。
by ケニア・ドイ 2019-02-07 08:35