ようこそ、山寺へ。
わしの名は、「てつ」。
この寺の飼い猫はわしひとりじゃが、ほかにも6匹の捨て猫あがりの若い食客猫がおっての、仲良く暮らしておる。
わしは、この寺で生まれ、今年で、17歳になる。
まあ、いってみれば、猫住職みたいなもんじゃな。
「てつ」ではなく、「てつ様」と呼ぶ来訪者もおるくらいじゃから。
この辺りは、かつては、海水が湾入した大きな潟湖だったのじゃがな。江戸期に、とある禅師が新田干拓事業に尽力し、広い穀倉地帯となったのだと。
その禅師が、功績をたたえられ、寄進されて晩年を過ごしたのが、この寺じゃ。
わしの名は、その禅師から一文字もらってつけられたのじゃ。
この寺には、代々猫がおったそうじゃ。
今のご住職も、子供のころからの猫好きで、猫がそばにいなかったことがなかったそうな。
わしの若いころは「今よりずっと顔幅が広くて、いかにもワルそうで、それはいいオトコだった」と、ご住職は人によく言っておるがのう、今は、すっかり円満なじい様猫じゃ。
境内の一部は、住民に親しまれる森となっておって、太平洋まで見下ろせる眺望の良さじゃ。
ときたま、森に心無い者が猫を捨てていくが、ご住職は、分け隔てなく、面倒を見てくださっておる。
わしも、家の中におるよりは、仲間と境内にいた方が楽しうてな、たいていは外におるのじゃ。
他の6匹は、母猫が1匹、その母猫が連れてきた子たちが3匹、母猫のきょうだいが1匹、はぐれが1匹じゃ。
わしはとうの昔に去勢されたが、ほかの若い猫たちは、これから順に手術を済ませて、希望者がおったらもらってもらうのじゃと。
朝夕、ご住職がご飯をくれる時間になると、広い境内のあちこちから、わらわらと猫たちが集まってくる。
わしも、一緒に朝飯夕飯をいただくが、年寄りのわしは、あとでこっそりウエットなご飯ももらうのじゃ。
わしたちが食べ終わった後、必ず境内に住み着いておる2匹のカラスがおこぼれを食べにくる。
それを見越して、ご住職は、たっぷりとごはんをくれるのじゃ。
わしたちと仲良く並んで、カラスが一緒に食べるときもある。
そう、ここには、俗世間のような無用な争いはないのじゃ。
大自然の懐で、晴れた日は森林浴をし、鳥の声を聴き、花の匂いをかぎ、雨の日は本堂の軒下で瞑想をしておる。
わしの長生きは、こうした大いなる「共生」の中の、ストレスのない暮らしにあるのかもしれんな。
まあ、人間たちも、嘘をつかず、隣人を慈しみ、足るを知って、そんなにギスギスせずにゆったりと暮らすといいと思うのじゃよ。
そうそう、あるとき、客に「無為徒食の猫たちがこの世に存在することの意味は何でしょうか」と問われたご住職は、こう答えていた。
「猫たちは、何もしなくていいのです。ただそこにいるだけで、私たちに大きな癒しを与えてくれるではありませんか」と。
真理じゃ。
それとな、年を重ねていくにつれ、内面が如実に貌に出る。
あんたさんが「シブいわ、好みだわ」と言ってくれてる、わしのこの風貌は、長い年月の無欲な暮らしぶりが滲み出たもんじゃで。
貌は自分がつくるのじゃ。あんたさんも、大いに気をつけるべし。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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世の物の理を理解し、まっとうしているてつ住職。お花見の季節なので、私もたっぷり自然の空気を満喫したいと思います。
by 友子 2019-03-05 11:14
猫城主が大ブレークしてるだ。
「てつ」
も公式に
「副住職」
に任ぜられてはいかがかの。
もちのろんで
「てつ」
グッズも販売するのじゃ。
寺もこれからは
攻めの時代なりよ。
ご利益願いのニワカ参拝者に
その眼光で物事の真理を悟らせるのじゃ
てつよ
期待してるぞよ!!
ここに
「ゴン」
も加われれば
猫仁王になれただによ(^_^;)
by ドラ猫マスター 2019-03-05 11:23
>てつ様
なんて達観したいいお顔でしょう。
顔は自分でつくる。私も、心いたします。
by 花粉症の猫 2019-03-05 11:24
老猫は、本当にしぶくて良い味の子が多いですね。子猫は、文句なしの可愛さですが、老猫の可愛さは、長年のさまざまな苦労や暮らしぶりが滲み出たような子猫とは全く違う可愛さです。私もてつくんのように、年をかさねていきたいです。
by ふみちゃん 2019-03-05 13:33
みんな個性ある顔立ち!自由だからそこなのかしら⁉️みんな可愛いわ〜
by ふにゃたも 2019-03-05 13:41
スゴい!
まるで仲代達矢ですね♪
by ミンディー 2019-03-05 16:40
神様、仏様、てつ様~と、拝みたくなるような良いお顔ですね!人間だけでなく、猫も顔ににゃん生が出るとは…。うちのコが老猫になったら、どんなになるんだろう。楽しみです。
私も良い顔になれるように、頑張ります。
by さび茶風 2019-03-05 19:36
てつ様---!渋いです。私も還暦過ぎた猫好きおばはんですが、てつ様のような人生が顔に出る人になりたいな。
by ちぃ 2019-03-05 20:13
うにゃ~♪
このご尊顔を拝しては
やはりお名前を
呼びすてにするワケには
まいりませぬニャ(^・^)
有り難や、てつ様~♥
とかナンとかゆってる反面、
キャ~♥てっちゃん♥きゃわゆ~い
キャ~キャ~(〃▽〃)
ついミーハーしたくなっちゃうのは
なんでかニャ~(*_*;
by にあ 2019-03-06 00:31
>友子さん
寺では、沈丁花と水仙がま盛りでしたが、山桜と猫も、よく似合うでしょうねえ。
おいしい空気も、長生きの秘訣かな。
by 道ばた猫 2019-03-06 01:21
>どら猫マスターさん
ゴン! ゴンとてつがいれば、猫仁王の競演で、人気を呼ぶこと間違いなし。
でも…最近のゴンちゃん、すっかり優男だからなあ~~
by 道ばた猫 2019-03-06 01:26
>花粉症の猫さん
さすが由緒ある寺の、名前も名僧からいただいた、猫住職。
ただものではないお顔つきでした。
by 道ばた猫 2019-03-06 01:32
>ふみちゃんさん
そう、老猫の味わいを知ってこそ、猫好きたるもの。
ちょっぴり頑固になるのも、またたまらなく愛しいですよね!
by 道ばた猫 2019-03-06 01:38
>ふにゃたもさん
そうなんです、みんないいお顔なんです。
黒白の子はまだ1歳ですが、すでに風格を漂わせる男前でした。
by 道ばた猫 2019-03-06 01:41
>ミンディーさん
仲代達矢さんときましたか! たしかに、仲代さんは、修行僧のような風格の方。以前取材させていただきましたが、目ヂカラと芝居への熱さに圧倒されました。
by 道ばた猫 2019-03-06 01:47
>さび茶風さん
まあ、猫さんは、どんな老い方をしても、それなりにみなかわいい!
というのが、私の実感なんですけどね。人間はそうはいかない(笑)。
by 道ばた猫 2019-03-06 01:52
>ちぃさん
年を取ってからいい顔になる人もいますからね。
私も頑張ろうっと(笑)。
by 道ばた猫 2019-03-06 01:56
>にあさん
「見慣れない顔じゃの」と一瞥された時の「てつ様」。
撫でたら、ゴロゴロ甘えてきた「てっちゃん」。いやあ、どっちもたまらん(笑)。
by 道ばた猫 2019-03-06 01:59
てつ様と住職の関係がとても良好だというのが、寄ってくる他の猫たちの様子で想像出来、嬉しくなりました。
by みり 2019-03-06 10:28
>みりさん
はい、猫たち、ピンとしっぽを立てて嬉しそうに寄っていきます。
鷹揚な住職様もてつ様も、猫たちに慕われているようでした。
by 道ばた猫 2019-03-07 01:06
てつ様♪渋くて味があってとーっても素敵です(*^_^*)貫禄のある姿はさすが17歳の猫住職ですね!ほかの猫たちもいいですね。自分の立場をわきまえているみたい。ご飯を食べたあとのテツ様かな?とってもいい表情ですね♪はなの匂いを嗅いでいるしろねこさんのお顔もとーってもいいなぁ♪私もここで俗世間から離れてのびのびゆったり過ごしたいです(^-^)
by とも 2019-03-07 07:28
ひさびさに登場しましたね。茉莉子さん好みの雄猫が。
by ムヨク 2019-03-07 12:36
畜生道に堕ちた人の姿ですね。
罪人も畜生の生を繰り返せば人間になれるかもしれないと慈悲の心で見守ってる訳ですね。
あ、変なアフレコは気持ち悪いです!
by 不浄の畜生に慈悲を与える 2019-03-07 13:00
>ともさん
みんなと一緒にご飯を食べて、毛づくろいしているてつ様の姿は、
安らかで穏やかで、平和そのものでした。
猫も花の匂いをかいで目を細めるんですね~
by 道ばた猫 2019-03-07 23:18
>ムヨクさん
ふふ、全部お見通しですね~
心が通じ合ったようなひとときを持った猫さんは、思わずというか、ごく自然にその猫の語りで書いてしまいます。
by 道ばた猫 2019-03-07 23:23
>不浄の畜生に慈悲を与える、さん
私は無宗教ですが、名僧の説話などを読むのは好きです。六道(りくどう)の一つ、畜生道は、現世ではなく、魂の修行上の世界で、動物や自然や食べ物を大切にしなかった者は、危険な世界で独り生き抜かなければならない動物となって修行しなさいとする教えであり、つまりは今の生を心していきるべしということと理解しています。また、仏教に言う「不垢不浄(ふじょうふく)」は、物事の本来の姿にはきれい汚いという境界のあるものではないという教えです。
ですから、仏教の本来の教えには、現世で動物が不浄という考えなどなく、命は等しく大切ということだと思います。
それから、猫のアフレコは、遊び心で、私が勝手にやっているものなので、「変な」といわれると「我が意を得たり!」とも思うのですが(笑)、気持ち悪いようでしたら、どうかスルーなさってくださいまし。
by 道ばた猫 2019-03-07 23:39
うわぁ、勝手な解釈気持ち悪い
いつから動物を大切にしないと畜生道に堕ちるなんてことになったの(笑)
仏教道学びもせずに手前勝手に自分が気持ち良いように思ってるだけですね
これぞまさに快楽主義
by うわぁ〜 2019-03-08 05:35
おお✨
茉莉子さん、
お見事ですニャ~♥
by にあ 2019-03-08 11:42
>うわぁ~さん
おっしゃる通り、不勉強極まりないのですが、それでも、誰しもいろいろと見聞きしたり、読んだりしたことを、自分なりに取り入れて、よりよく生きようとすることにこそ、「学ぶ」意味があるのではないでしょうか。仏教などの解釈は人それぞれですが、「腑に落ちる」解釈こそが一番糧になってくれると私は思っています。
このブログは、「人と猫とともに幸せに」がテーマですので、一日一日に喜びを見つけ、「すべての猫が幸せに」という思いの人とつながっていく場になれば、という意味では、おっしゃる通り、ギリシャ哲学でいう快楽主義・幸福主義に通じているのかもしれませんね。
by 道ばた猫 2019-03-09 00:46
>にあさん
猫語りは、面白い!と言ってくださる方が多いし、自分でも楽しいので、これからも、続けますよ!
気持ち悪い方には申し訳ないけど、パスしていただいて。
by 道ばた猫 2019-03-09 00:53