早春のある日、鎌倉市郊外にお住いの園江さんのお宅を訪ねました。
ホットカーペットの上でくつろいでいるのは、茶白の武蔵くん。
サビ猫のモモちゃんは、人見知りでビビりなので、初めての来客に十分の距離をとっています。
そして、こんな大きな犬もいます。小次郎君、11歳です。
みんな、保護猫保護犬の、ワケアリ同士です。
この家は、園江さんが育った実家なのですが、お母様が大の猫好きで、多い時には30匹もこのあたりの猫たちの面倒を見ていらしたのだとか。当時の鎌倉には、まだまだ家のない猫がたくさんいたのでした。
家の中にも常時5~6匹猫がいて、園江さんがお布団に入ると、我先に潜り込んできたそうな。
「人間より、動物が好きな少女でした。いまでもそうかな」と、園江さんは、笑います。
結婚してお子さんを育てる間も、いつも犬や猫はそばに。
11年前、飼っていた黒犬が亡くなった後、千葉県内で、保護されたという、まだ子犬の小次郎をもらい受けました。
その後、「保護猫も迎えてやりたい」と、「犬が大丈夫な子」を望んでトライアルをしたのが、武蔵でした。
当時の武蔵は、7か月。
たしかに犬は怖がらなかったけれど、かなりの乱暴猫で、甘噛みを超える噛みつきよう。机に乗って、物も落とします。
1週間のトライアル期間を終えて「手に負えないから返そう」というその日に、ご主人が会社から電話をかけてきました。
「やっぱりかわいそうだから、うちで飼おう」
悪さをして叱るたび、いい服におしっこシャワーという、不届き猫でしたが、家族みんなに愛されます。
やってきて2年目に口内炎がなかなか治らず、猫エイズウィルスのキャリアと判明。
猫エイズは、健康管理に気をつけてやれば、発症せずに寿命を全うする猫もたくさんいます。また、血の出るほどの噛み合いなどしない限り、ほかの猫にうつることはまずありません。
悪童武蔵も、年を重ね少しずつ丸くなり、いまでは気のいい初老猫に。
新参モモもワケアリです。
知り合いから「とてもなつきの悪い保護猫がいて、何軒かトライアルに行ったが戻される。もらっていただけないか」という話を聞き、園江さんと、お嬢さんの双葉さんとで会いに行ったところ、
「全然なつかない」と言われたその子が、双葉さんの足元にやってきて座ったのです。
「この子、うちで飼う」という双葉さんのひとことで、モモは、終の住処を手に入れました。
きっと、モモちゃんが家族を選んだんですね。
おばあちゃん、お母さん譲りで動物好きな双葉さんは、とても個性的な絵を描く絵描きさん。
去年秋には、鎌倉妙本寺山門内のギャラリーで、個展を開きました。
こんな目ヂカラのある素敵な猫の絵も。
2年前、お母さんを見送った後、園江さんは、ご近所の古民家風猫カフェ「鎌倉ねこの間」に、こう申し出ます。
「自分にできることが何かあったら、ボランティアをします」と。
3年前、ねこの間ができたときのお客さん第1号は双葉さんでしたし、園江さん宅で保護した猫の譲渡先をねこの間のオーナーが見つけてくださったことがあるという、ご縁でした。
そこで、黒白の兄妹子猫の預かりを打診され、引き受けます。
2匹は、よそで保護された子たちでしたが、2匹とも猫エイズキャリアでした。そのため、諸検査をクリアした子猫たちを迎えて譲渡しているねこの間では、ほかの猫たちと一緒に預かることができずにいたのでした。
預かって2か月後の昨年12月。息子さん3人がいるご近所のご一家が会いにきて、一目で気に入られた兄妹は、即決でおうちが決まりました。
お兄ちゃん猫が片目だろうが、2匹共猫エイズだろうが、「そんなことはいいです。大事にします」という一家でした。
そして、現在も、園江さんのおうちには預かり兄弟が2匹。
オッドアイの愛之助。
愛之助より警戒心の強い、誠。
愛之助も誠も、猫エイズキャリアです。おまけに、超ビビりで慣れるまで時間がかかりそうな兄弟ですから、おうち探しは、すんなりとはいかないでしょう。
「じっくり、いいおうちを探します。そのうち、この子たちも人馴れしてくるでしょうから。兄弟でもらってもらえれば一番うれしい」と、おおらかに構える園江さん。
ワケあり保護猫の預かりボランティアは、健康な子猫と違って譲渡先が決まりにくく、健康管理などに気も抜けない地道な活動です。
それでも、園江さんは、猫たちのしあわせ探しをけっしてあきらめません。
そう、今はこんな上目遣いの誠くんが愛され猫の丸い目になる日を夢見て。
どの猫も、しあわせになる権利は同じだから。
どの猫も、かわいさは同じだから。(もしかしたら、つらい思いをした分だけ、ワケアリの分だけ、かわいいかも)
来週の道ばた猫日記は、12月にここから巣立った兄妹猫のしあわせな今をお届けします。お楽しみに。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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訳あり猫!
どんな事があったのかどんな暮らしをしてきたのか?話してくれたら良いのに…猫語を習いたいって常々思う。でも、毎日愛情注いでいたらきっと通じ合うはず!あの子たちはテレパシーを使うんだわ〜こちらが試されてる。きっと通じる家族と巡り会いますね!!
by ふにゃたも 2019-03-26 15:23
確かに、人間不信の子は目が鋭くて、形が三角に見えますね。保護されるまでの間に何がこの子をこんな目にしてしまったんだろうと思うと悲しくなります。娘達が小学生の頃、前足が片方ない子が、いると学校から手紙がきました。おそらく、植木ばさみのような鋭い刃物で切断されたようで、ひどく攻撃的になっているから見かけても近寄らないでください、と書かれてありました。その子は人間不信のまま、行方がわからなくなったそうです。こんな事をする人間が居なくなりますように。まん丸の可愛い目の子が増えますように。
by ふみちゃん 2019-03-26 17:02
訳あり猫さん、我が家にもWキャリアさんが居ますがとってもかわいいですよ!
エイズキャリアさんでもずっとのお家が見つかるといいですね!兄弟で一緒のお家に行けますように(*^^*)
by こはく 2019-03-26 19:13
おいらのネコも訳ありなんだに。
ネコボランティアの人が
「このネコちゃんは大人しいんですよお~」
とか発言してただにが、おいらはネコ歴長いから
そんなはずねえだ
こいつは成長したら。。。
案の定
”ドラキー”
だったに(^_^;)
そもそもおいらだって色々と訳ありニンゲンなんだから
訳あり上等でいいねんよ(^_^;)
先代ドラキーもニンゲンというより全恐怖症だったが
なんとかおいらには心開いたに。
20歳で亡くなるまで
”ドラキー”
だったけど(^_^;)
by ドラ猫マスター 2019-03-26 19:34
武蔵くん、モモちゃん、小次郎くん、みんな穏やかな顔してますね。
うちのコも、気に入らないことがあるとすぐ噛みますが(甘噛みなんてもんじゃないです)、お婆ちゃんになったら丸くなるかな~。
ぐっすり眠っている武蔵くん、なんて平和なお顔!見ているこちらも、幸せな気持ちになれます。
愛之助くんと誠くんに良いご縁がありますように!
by さび茶風 2019-03-26 22:24
>ふにゃたもさん
まあ、お互いに過去のことなど詮索しない、何考えてるかわからない、そんな関係だからこそ、心地よい部分もあるかな、と(笑)。
by 道ばた猫 2019-03-27 01:34
>ふみちゃんさん
堂かその子が、誰かに保護されていなくなったのでありますように。たしかに、気を許すと、ノラさんでも猫の目はどんどん角が取れてきますね。
by 道ばた猫 2019-03-27 01:37
>こはくさん
Wキャリアのねこさん、こはくさんのもとで、これからもいい猫生を送れますよう。うちにも、かつて白血病やら、猫エイズやらいろいろいましたが、みんな最高にかわいく、けっこう長生きしました。
by 道ばた猫 2019-03-27 01:41
>ドラ猫マスターさん
先代ドラキーのお話も聞かせてくださり、ありがとうございました。会ったこともないのに、とってもいとおしく感じました。そして、猫には、ワケアリ男がよく似合います(笑)。
by 道ばた猫 2019-03-27 01:45
>さび茶風さん
うちにはかつて、モモちゃんという、年と共にどんどん過激になっていく猫がいましたが(笑)、とってもとっても大好きでした!
by 道ばた猫 2019-03-27 01:48
みんなみんな個性的で可愛いいな!園江さんのお家がまた素晴らしいお家ですね♪ワケあり犬猫さんたちに大きな愛情を注がれてみーんなとっても幸せですね(^-^)
私は最寄り駅にある保護猫カフェ(カフェというよりシェルターです。一階はトリミングサロンです)に休みの日はできる限り行っていますがビビりな子、猫が嫌いで人間が好きな子(笑)、近寄ってきてくれる子などなど色々な子がみてみんなそれぞれ違っていてそれがいい!って思います(^-^)みんながそれぞれのしあわせを感じて暮らして行けるとうれしいですね♪
by とも 2019-03-27 18:51
偶然ですが、2年前に16歳で旅立ったうちの猫の名前は小次郎、家にご飯を食べに来ていた猫の名前は武蔵でした。同じ名前だと親近感がわきますね。愛之助くんと誠くんにも優しい家族に会えるといいですね。
by シーマン 2019-03-27 21:09
>ともさん
みんな違って、みんないい、の世界が、人間にも猫にも、当たり前になりますように。
保護猫カフェにも、ほんと、いろんな猫がいますよね~。それぞれに可愛い。
by 道ばた猫 2019-03-27 23:47
>シーマンさん
シーマンさんのおうちにも、小次郎・武蔵がいましたか!
きっといい面構えだったんでしょうね。
by 道ばた猫 2019-03-27 23:51
ウニャ~30匹!
すごいニャ~♪壮観ニャ~♪
思わずアタマの中に、
香箱座りの30匹が~♪
このニャンコたちはDNAニャ♥
それは園江さん双葉さんに受けつがれ、
そのお二人のやさしさが
やさしい人たちと共鳴して
いくつもの輪をつくってゆく。。。
大っきな大っきな愛の物語にゃネ~♥
だから愛之助くんも誠くんも
だいじょうぶ♥
愛の光の中にいるんにゃもの~(^・^)
by にあ 2019-03-28 22:16
>にあさん
大きな愛の光の中にいるから、大丈夫♥・・・すてきなエールを愛之助君きょうだいにありがとうございます! ふたりのおうちが決まったときは、またご紹介したいです。
by 道ばた猫 2019-03-29 14:16