クーちゃんは、7か月の内気な男の子。
取材に行った時も、冷蔵庫と壁の間に隠れてしまいました。
「クーちゃん、出ておいで。お父さんもお母さんもいるから、大丈夫だよ」
「クーちゃん、おやつ食べようか?」
正敏さん・裕子(ゆうこ)さん夫妻が、交互にやさしく声を掛けます。
「ほら、いいお顔撮ってもらおう」
あれ?ビビりの愛猫をなだめるこのシチュエーション、どこかとおんなじ。
そう、クーちゃんは、4週前の道ばた猫日記
「カツラくん改めジョナくん」で紹介した、あの内気なジョナくんの兄弟なのでした!
クーちゃんとジョナくんは、高齢の一人暮らしの女性が多頭飼いしていた家から保護されました。
南房総の「ドリームキャット」のシェルターでは、ビビりん坊兄弟でくっついていました。
ジョナくんの譲渡が決まったころ、ネットで譲渡先募集中のクーちゃん(シェルターではグレコと呼ばれていました)の写真を見て、一目ぼれしたのが、このおうちのお父さんの正敏さん。
「それまで出張も多く、猫を飼うと家族旅行にも行きにくくなるので、猫はダメ!と子供たちに言っていたんです。でも、コロナ禍でみんなで家にいる時間が多くなって、猫がいるのもいいな、と」
そんなとき、クーちゃんの写真に、本来の猫好きの血が騒いでしまったのでした。
「顔立ちと言い、目の色といい、こんなに可愛くてかっこいい猫がいるんだ、と」
猫を飼おう、と言い出したお父さんに、子供たちは「えっ、ほんと?」と大喜び。
みんなでシェルターに会いに行って、トライアルを申し込み。
ビビりのクーちゃん、ケージの中で固まったまま。
近寄ると、シャーはするし、引っ掻くし。
ご飯は食べるものの、3晩寝ずに鳴き通し。
「もう可哀そうで。運動させたら、眠くなるのでは」と、すぐ前の公園にリードをつけて連れ出してみました。
すると、突然、渾身の力で、クーちゃん走りだします。
スポッと首輪が抜けました。
クーちゃん、公園から、集合住宅の建物へ一直線。自転車置き場の脇を抜け、裏の森へ逃げ込んでしまいました。
みんなで名を呼ぶと、どこからか「にゃお~~ん」と答えるのですが、そのうち返事がなくなりました・・・。
「ドリームキャット」の千鶴子さんに連絡すると、「市役所か保健所から捕獲器を借りて設置して」とのこと。でも、その日は土曜で、役所は休み。
「絶対に帰ってくるから。玄関に餌を置いてドアを開けといて」と千鶴子さん。
でも、正敏さんたち一家が住んでいるのは、何棟もある大きな集合住宅で、同じような入り口がたくさん並んでいます。おまけにとても入り組んだ複雑な入り口になっていて、自宅は3階なのです。
「3日前に来て、外に出るのは初めてだし、とても帰ってこられるとは思えませんでした」と、裕子さん。
眠れぬ夜を過ごした翌朝、玄関の餌皿は空っぽに。この辺の外猫が食べたとしか思えませんが、また餌を補充しました。
すると、すぐにお皿はからに。
「ひょっとしたら、クーちゃん?」
そういえば、千鶴子さんが送り出すとき、この子はすごい食いしん坊、と言っていましたっけ。
それで、今度は、クーちゃんが入っていた大きなケージを玄関内に置き、餌をドアのすぐ内側に置きました。
靴ベラを挟んでドアを少し開けたままにしておき、靴ベラに長い紐を結んで、居間から、正敏さんはじーっと玄関を見続けること半日。
いっぺん外に出た正敏さんは、クーちゃんと目が合いました。
「あれ、クーちゃん?」
「にゃ~おん」
クーちゃんは逃げたもののまた戻ってきて、餌を食べ、ケージの中でくつろぎました。
そこで、紐を引っ張り、ドアをパタン!
お姉ちゃんに抱っこされたクーちゃん。
お兄ちゃんに抱っこされたクーちゃん。
もうひとりのお姉ちゃんに抱っこされたクーちゃん。
お母さんに抱っこされたクーちゃん。
お父さんに抱っこされたクーちゃん。
あれまあ、ひと月しかたっていないのに、すっかり甘えん坊のお顔ではありませんか。
「そうなんです。脱走事件以来、すごい甘えん坊になってしまって。みんなも甘やかすから、もう『クーさま』状態です」と、裕子さん。
「ひと晩家を探し回ったんでしょう、肉球が真っ黒になっていました。よほど怖い思いをしたんでしょうねえ」と、正敏さん。
じつは、迎えて3晩鳴き続けた時、あまりに可哀そうなので、ご夫妻はシェルターに戻そうと考えたそうです。
子供たちの返事は「何言ってんの!」でした。
学校から帰ってくると、これまではそれぞれ黙々と自分のことをする日常でしたが、今では帰るとすぐクーちゃんを探して「クーちゃん、ただいま」。ご飯やトイレ掃除は子供たちが分担しています。
「脱走事件のおかげでクーちゃんと一気に仲良くなれたし、家族の絆も深まりました。何より、猫がいるだけで家の中が明るいです」と裕子さんはうれしそう。
そして、こんなことを。
「クーがもう少しこの家になじんだら、遊び相手に子猫をもう1匹って考えてます」
クーちゃん、楽しみだね!
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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大きな耳と言い大きな目と言い、更には脱走後の行動からすると、クーちゃんは正に探偵・クシャーロックホームズ!。幸せな家族の間を渡り歩いて、更に新たな甘え方を見つけ出すことでしょう。末永くお幸せに。
by Y.M 2020-12-08 15:55
すごいすごい、クーちゃん、えらい!
よく戻れたね! 弟か妹ができるといいね。
by さび猫びいき 2020-12-08 19:48
クーちゃんは、ヅラは被ってないんだね(笑)優しい御家族に沢山甘えて楽しく過ごしてね!
by シーマン 2020-12-08 21:02
わぁー!一枚目二枚目の写真、ちょっとびっくりしたような表情でこれまたイケメン猫さんねー♪色もほんとに素敵。一目惚れしますね♪
クーちゃん、脱走したとは!結末が幸せに暮らしています、とわかっていても脱走物語はハラハラどきどきしましたー。無事に戻ってきて良かった。
ご家族みなさんにたーっぷり可愛がられてクーちゃん、ますます可愛くなりますね(*^-^*)
by とも 2020-12-09 08:37
クーちゃんもですが、猫の帰巣本能って
スゴいですよねー♪
なんでわかるのかなぁ (笑)
by ミンディー 2020-12-09 08:40
>y.mさん
クーちゃん、犬並みの帰巣本能ですよね。公園から建物へ、建物から森へ。そして一晩。
一生分の冒険をしちゃったから、あとは家でぬくぬく。
by 道ばた猫 2020-12-09 10:06
>さび猫びいきさん
なんとなんと、現在子猫ちゃん、トライアル中だそうです。
クーちゃんまだ7か月の遊び盛りだから、いいお兄ちゃんになると思います。
by 道ばた猫 2020-12-09 10:08
>シーマンさん
あはは、クーちゃんはヅラなしですね。兄弟でもずいぶん印象違いますね。クーちゃんは、手足も大きいし、かなり堂々たる猫になりそうな予感がします。
by 道ばた猫 2020-12-09 10:11
>ともさん
餌につられて玄関まで戻ってきて、そのあとケージでくつろぐというのが、食いしん坊のクーちゃんらしいですね(笑)。なかなかの大物!
by 道ばた猫 2020-12-09 10:13
>ミンディーさん
犬猫の聴覚は人の8倍、嗅覚は何倍だったかな、かなり精度が高いそうです。
記憶力だって、かなりあるというのが実感。つまり、猫は優れた生き物ってこと!(笑)
by 道ばた猫 2020-12-09 10:17
昔、実家にいた時、子猫が迷い込んだのを、そのまま、飼っていたけど、やはり、ネコ、可愛いよね
by ケミィ 2020-12-09 12:33
クーちゃん戻れて本当に良かった!よっぽど怖い思いをしたのね。二度と脱走しないでしょう!
昔うちの子も来客の時に玄関を飛び出してしまい、36時間ぶりに帰宅してご飯も食べずに爆睡していたことがありましたよ。その事件があってからは人の出入りには厳重注意!ですが、今の子達は二階のベランダ開放で満足しています。
by ぺったんの母 2020-12-09 14:57
クーちゃんを一目みて胸がざわつきました。今年の夏、交通事故であっけなく逝ってしまったわが家のリュウにうり二つだったからです。毛の色、顔の模様、そっくりな姿に妻と二人、こみあげるものを抑えながら拝見しました。クーちゃん幸せに長生きしてね。
by ムヨク 2020-12-10 09:23
>ケミィさん
迷い込んだ子猫を可愛がってくださったのですね。思い出がいっぱいでしょうね。
ほんと、猫は、どの子もどの子もかわいいです!
by 道ばた猫 2020-12-10 13:12
>ぺったんのお母さま
36時間も! 飼い主さんもですが、脱走した当猫さんも、パニックの長い時間でしたね。
食べるのも忘れて爆睡だなんて・・・猫が言葉を話せばどんな思いをしたのか聞いてみたい!
by 道ばた猫 2020-12-10 13:16
>ムヨクさん
リュウくん、天国まで一直線に駆けていってしまったんですね・・・。7枚目の写真は特にリュウくんを思い出します。たくさんの思い出、ありがとう。天国でも、人気者と思います。
by 道ばた猫 2020-12-10 13:20
猫さまの能力を甘くみてはいけないのにゃん!
ワンちゃんはご主人さまのために一生懸命言うことをきくけど、猫さまはそんなことしないのだ。
今の自分に役立つことしかしにゃいのだよん!
実際、聴く能力はワンちゃんより広い範囲の波長を聞き分けられるし、嗅ぐ能力だって人間より何倍も上なのにゃん!
その能力を駆使すれば戻ってくるなんて朝飯前だよね、クーちゃん。(偉いぞ~)
...
猫探偵さんによれば、思わず脱走した猫さまが家に戻ってこないのは、ほとんどそこを縄張りとする野良猫さんに追い払われたり怖がってる場合だとか。
気をつけたいですねぇ。
by 才蔵 2020-12-11 12:48
>才蔵さん
里山に遊びに行くと、遠くからなじみの猫たちに笑いかけても手を振っても反応なく、「おーい」って言ったら、たちまち駆け寄ってくるんですよね。ということは、猫は視力より聴覚で人を判別してるのかな、といつも思います。
by 道ばた猫 2020-12-12 02:07
そうですか。それは納得です。
猫さまは視力は弱くて0.3ぐらいと言われてますからね。
人間ほど視力に(かたよって)頼って生きてる動物は他にないと言われてますしね。
そのくせ動体視力は猫さまには全くかなわないんですよねぇ~
猫さまがみかねて愛する飼い主に獲物を取ってきてくれるも理解できますにゃん?(笑)
by 才蔵 2020-12-12 15:05