少しさかのぼって、空がとても青かった5月末のある日のことを。
美しい村で、こんな猫さんに会いました。
グレーの、賢そうな猫さんです。
鈴のついた首輪をつけているので、飼い猫だとわかりました。
猫は、木で爪を研ぎ始めます。
私を気にしています。
それもそのはず。めったに見ないよそ者がいるのですから。
でも、私は、もう7~8年前になるでしょうか、千葉県横芝光にあるこの村を一度訪れていました。
旧盆の8月16日に、この地の由緒あるお寺の境内で行われる「鬼来迎(きらいごう)」を見に来たのです。
これは、鬼の面をつけて因果応報を伝える仏教舞で、今は全国で他にない古典的地獄劇として、国の重要無形民俗文化財となっています。
そういえば、あのお寺は、この辺だったなあ。
この日は、美術館に向かっていたのですが、高速道を降りる手前で見た田んぼの景色があまりにも美しかったので、「横芝光」で高速を降りてから、美術館とは逆の方向に進み、この村に迷い込んだのでした。
田んぼ脇の小道を進んだ、10数戸ほどの、小さな美しい村です。
猫がいるのは、遊具のある広場の大きな桜の木の下。
猫がこっちを見ます。
ついてくる?と誘っているような目で。
目の前を猫が走り出しました。
不思議の国の慌て床屋のよう。ワクワクしながら、私も走ります。
初夏の花々が咲くおうちのすぐわきを通り抜けます。
猫が走り終わってくつろいだのは、お寺の境内。
あっ、そこは、鬼来迎を見せていただいた、あのお寺でした!
本堂の石段では、黒白の若い猫がまったりしています。
お寺と地続きの花盛りのおうちに帰ってきたのは、さっき道ばたの畑で作業をなさっていた老婦人。
「こんにちは」と声をかけたら、とてもいい笑顔を返してくださったのでした。
どうやら、この家は、この寺の庫裡(くり)、ご住職一家のお住いのようです。
「猫さんがいるんですね」と尋ねたら、「はい、3匹いるんですよ。1匹は家の中にいますから、つれてきましょうか」と、とてもご親切。
連れてこられたのは、薄茶の大きな雄猫さん。
名前は、くぅちゃん。
畑仕事をなさっていたのは、現住職の祖母にあたるかた。
前住職がなくなられた後、孫が住職になったそうです。
くうちゃんは、今の住職様のお母さまが、10年前、町に捨てられていた子猫を持ち帰ってきたそう。
とてもちっちゃくて、スポイトでミルクを飲ませて育てましたが、当時いた老犬が、子育てを手伝ってくれたととか。
私をここにいざなってくれたのは、ラムちゃん。
数年前、境内に迷い込んで、大きな声で鳴いていた子でした。
黒白の子は、1年半前、住職様がお勤めに行っている成田山で保護された子猫たちの1匹を、住職様が連れかえってきました。
やんちゃんな茶々丸くんは、先輩ラムちゃんと遊んでほしいのですが、ラムちゃんはうざったいようす。
でも、いつもは3匹ほどよく仲よしなんだそうです。
お寺のツイッターには、こんな写真も。
こころよくブログに載せることを了解してくださった、広済寺さま。
Twitterトップには、2年前のこんな写真が。
大きな扇風機が2台。暑い盛りに、施餓鬼供養のための塔婆文字を書かれる若き住職様の前に、転がるくぅちゃん。
こんな言葉が添えられています。
「猫の手を(非常に)借りたいときの猫とは 実際こんなものです」
大いにバズって、6.5万もリツイートされています。
広済寺のツイッターでは、村の四季や3匹の日常も紹介されています。
@ko_saiji
美しい村に、村に伝わる伝統や、猫や花、樹木など生きとし生けるものの命を大切になさるお寺。
とても気持ちのいい1日でした。
※去年に続き、今年もコロナ禍のため、鬼来迎は中止だそうです。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
卒塔婆の前で極楽とはこんなもの、と体現して見せる猫さん。メッセージ十分のお手伝いぶりではありませんか。南無阿弥陀仏。
by ムヨク 2021-07-13 17:00
緑が美しい田園の中に、お寺さんがあって、静かに時が流れている。ネコちゃんたちもその中で、ごく普通に生きている。広済寺のツイッターもネコや自然が一杯で、平穏な日々が伝わってくる。鬼来迎が復活する日が一刻も早く来ることを願うのみ。
by Y.M 2021-07-13 17:49
コロナ禍の街に暮らし、ひととき別世界に私も猫さんにいざなってもらいました。
美しい村、いつか訪ねてみたいです。
by ひじきママ 2021-07-13 17:59
すてきな場所ですね❗️猫の案内人で、お寺に誘われて、佐竹さんにコッチだよ❗️教えてくれたのですね‼️お寺にいる、🐈️さん、幸せに暮らしていて、ほっとしますね❗️
by ばつ丸 2021-07-13 18:44
わっ、いいですね、時間がゆったり流れていそうですね。こっち来る?とほんとに言っている目ですね(^-^)いいお顔ですね。
「猫の手も借りたいときの猫とは…」笑いました!お寺とそこで暮らす3匹の猫
by とも 2021-07-13 19:05
途中で送信となってしまいました。
お寺とそこで暮らす3匹の猫、風情があってそして猫にぴったりな暮らしのように感じます。お寺と猫って本当合いますね(*^-^*)
by とも 2021-07-13 19:07
お寺と猫って、どうしてこんなに似合うのでしょうか?お寺のゆったりと流れる時間と猫さんの時間がぴったりするのか、優しいご住職さんをわかって、集まるのか?
何でもお見通しな猫さん達は、お釈迦様のお使いでしょう。
by ちぃ 2021-07-13 20:29
最後のお写真が最高ですね!(笑)猫さんなりに応援しているつもりなのかな?猫はかわいいのがお仕事ですから、一緒にいてくれるだけでありがたいです♪
by あべんぬ 2021-07-13 21:53
綺麗な風景ですね。梅雨時の鬱陶しい気持ちが晴れて行くようです。忙しくしている人間の側でノンビリくつろぐ猫さんの様子が微笑ましいですね!
by シーマン 2021-07-13 23:47
>ムヨクさん
ホントに、メッセージ性十分な図ですね(笑)。ところで、こういうおっぴろげな猫は、おじさん猫に多いような気がするんですが…。
by 道ばた猫 2021-07-14 08:45
>Y.Hさん
鬼来迎は、鬼に抱っこしてもらうと元気に育つということで、地元の赤ちゃんが次々抱っこされるんですが、
暑い盛り、どの子もギャン泣きでした(笑)。みんなで子供の成長を見守っている村と感じました。
by 道ばた猫 2021-07-14 08:49
>ひじきママさん
たぶん、朝焼けも夕焼けもきれいで、晴れた夜は満天の星なのだと思います。「日本一美しい水田風景」という人もいるようです。
by 道ばた猫 2021-07-14 08:51
>ばつ丸さん
そうなんです。まさに案内猫。檀家さんたちにも可愛がられているから、フレンドリーなのだと思います。
こんな村で暮らしたいな、と思いました。
by 道ばた猫 2021-07-14 08:56
>ともさん
お寺と猫。昔から変わらず、とてもよく似合いますよね~。人にも猫にも開かれ集う場所…それが本来のお寺なのだと思います。
by 道ばた猫 2021-07-14 08:59
>ちぃさん
このお寺では、代々猫がいたそうです。犬もいた頃はにぎやかだったでしょうね~。猫に会いに来て境内に見あたらなかったら、庫裡をピンポンしてくださいと、ツイッターには書きてあります。
by 道ばた猫 2021-07-14 09:02
>あべんぬさん
Twitterには、3匹はゴミ出しにも付き合い、いただきものチェックもしてくれるようで。そこにいるだけで可愛いのに、エライ(笑)。
by 道ばた猫 2021-07-14 09:06
>シーマンさん
猫たちは、あくせくしている人間に、動物本来のリズムを思い出させてくれますね。ここには、大自然のリズムと、猫のリズムが、調和して巡っていました。
by 道ばた猫 2021-07-14 09:09