生後数日という、小さすぎる赤ちゃん猫たちを育てることになった、えつこさん。
「母猫って出産後数日間は、ほぼ飲まず食わずで、赤ちゃんから片時も離れず授乳するの。その代わりをするわけだから、覚悟が必要だよね」
赤ちゃん猫たちは母猫の初乳を飲んでおらず、普通より免疫力が弱め。体も平均より小さい。段ボールを覗くと、3匹でいつも団子になって眠っています。今は1日20時間以上寝るのだそうで、まだ目は見えず、耳もほぼ聞こえていないそう。
なんて無防備なんだろう。どうか生き延びて、と祈らずにはいられません。
「子猫のうちは肝臓に栄養を貯めておけないから、すぐ低血糖になるの。下痢で脱水っていうのも起きやすい。体重600gを超えるまでは薬も使えないし、大きな理由もないのに、急変して亡くなってしまう子もいるの」
えつこさんは猫たちが来てからというもの、仕事のあいまに週1~2回は動物病院に通い、入念に体調チェックをしていました。
低体重で生まれた赤ちゃん猫たちは吸う力が弱く、一度にたくさんのミルクは飲めません。かと言ってシリンジで授乳すると、誤嚥のリスクが上がってしまいます。ということで、場合によっては1時間おきにミルクをあげる毎日。
「赤ちゃんを育てるときはいつも、ロイヤルカナンの猫用ミルクを使うんだけど、コロナの影響で全国的に品薄で......。猫仲間が方々問い合わせて、どうにか一缶送ってくれたの」
えつこさんは猫たちのダンボールのとなりに毛布を敷き、そこで仮眠を取りながら、必死で命を繋いでいました。
けれど。
生後20日目に、3匹のうち1匹が急変。24時間体制の動物病院に駆けこんだものの、結局虹の橋を渡ってしまいました。
「一番体が小さな子だった。お腹を下して、あっというまだった......」
つきっきりでお世話しても、こんなことがあるんだ。小さすぎる骨壺を前に、私は言葉が出ませんでした。
その後、ありがたいことに他の2匹はスクスクと成長。めでたく生後4週を迎えました。会いに行くと......あっ、今までほふく前進しかできなかったのに、自分の足で立ってる、歩いてる!
「そうなの。まだヨタヨタするけどね。離乳食もはじめたんだよ。ミルクに少しだけ混ぜて、哺乳瓶であげるの。便の様子を見ながら、毎日少しずつ比率を上げてね。この子たち、歯茎を触ると、ちーっちゃな歯のかけらがあるんだよ」
なんと、歯が! 最初はエイリアンみたいだった赤ちゃん猫たちも、少しずつ猫らしい形になってきています。
「トイレのレッスンもスタートしたよ。ミルクのたびにお砂に乗せて、こうやって掘るんだよ、って前足でかく真似をさせたり。どの砂が好みか分からないから、5種類くらい並べてお気に入りを探したりね」
なんて話を伺っていると......ん? 赤ちゃん猫のうち1匹が、ヨタヨタ砂に乗ってふんばって......あっ、うんちをしましたよ!
「わあ、ホントだ! この子、今はじめて自力でしたわ! ついにひとりでできるようになったのね~!」
うわあ、よかった。なんだか私まで胸がいっぱい。
ヨタヨタ歩いて、よっこらしょ、とトイレに入って、迷いながらも腰を下ろし、細い足を一生懸命踏ん張って――。
大人の猫と暮らしていると、排泄なんて当たり前になってしまうけど、どの猫にもこんなふうに、はじめての瞬間があったんだ。いろんなことを一つずつ、必死に身につけていったんだ。そう思うと、ジーンとしてしまうのでした。
かくして2匹は、毎日できることが増え、どんどんパワフルに。
いろんな人に触れさせていろんな経験をさせたい、ということで、我が家に遊びに来たこともありました。さすが兄弟猫、微笑ましいほどの仲の良さ。
こうして何事もなく8週が過ぎ、2匹は無事に、最初のワクチンを打ちました。獣医さんに「健康です」とお墨付きをもらったところで、えつこさんは言いました。
「この子たちの、里親さんを探そうと思うの」
続く
※第5回の更新は10月2日(土)予定です。
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猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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