ほとんど目が見えない子猫、セルジュを保護したTomokoさん。詳しくお話を伺いたいとお願いすると、ご自宅に案内して下さいました。
前回のお話(『猫のまもりびと』第7回)はこちら
「我が家は、一室を保護猫部屋にしていて、今、7匹の猫がいるんです。そのうちの一匹がセルジュです」
通されたお部屋は、8畳弱ほどの大きさ。綺麗に掃除された室内には、大きな2段ケージが3つ並んでいました。
静かな環境。ケージの大きさにもゆとりがある。
ケージの中でくつろぐ、保護猫ちゃんたち。
中にいるのは、さまざまな大きさ、さまざまな模様の猫たち。ケージの中から私をじっと見つめる子もいれば、部屋を自由に歩き回る子もいます。その中の一匹、まんまるな目を見開いてうずくまる、白い毛に黒いハチワレの子猫が、セルジュでした。
わあ、と思わず声がもれました。
まだ幼さの残る顔立ち、ピンク色の肉球、そしてなにより、大きくてかわいい、綺麗な目。Tomokoさんに抱き上げられると、セルジュはキョトンとした顔で、おとなしくしています。
セルジュ。初めて聞く私の声に、ちょっと緊張ぎみ。
「とっても穏やかで、優しい子なの。最初から、シャーしたり噛みついたりが一切なくて。お外にいるときは、セルジュだけ道の真ん中に取り残されたり、母猫たちと雨宿りしていた場所に一匹でポツンと座っていたり......視力のことを知らなかったから、ちょっと鈍臭い子なのかなって思っていたの。ほとんど見えてないと分かったのは、保護してから」
一生懸命、様子を伺っている。
こんなに温厚そうな子が、過酷な外の世界で、ハンディを抱えて4ヶ月半も生き抜いたなんて。子猫のか弱さを知ったばかりの私には、ほとんど奇跡のようにも思えます。セルジュは、具体的にはどれくらい見えているんでしょうか。
「獣医さん曰く、超弱視。すごく近くにあるものは、ぼんやりとは認識できるみたい。それから、明るさは分かるようね。猫じゃらしとか紐みたいに、動きが早いものは追いかけられないけど、ボール遊びは大好きなんですよ。ほら」
Tomokoさんが見せてくれたのは、ボールで遊ぶセルジュの動画。覗き込んで驚きました。だって、まるで見えてるみたい。前足でボールを転がしたり弾いたり、夢中になって遊んでる! その動きは、我が家の猫たちとほとんど変わりません。
部屋のすみには、ボールがこんなにたくさん。
「猫ってね、運動神経や反射神経がとてもいいから、見えないことがそこまでハンディにはならないんですよ。ボールも、遠くに転がってしまったものは追いかけられないけど、こうして遊べるんです」
セルジュは、最初は部屋の中やケージの中を動き回れなかったものの、どこになにがあるか一つずつ確認して、今では上手に歩けるようになったんだとか。段差のところは、そーっと体を伸ばして自ら高さをチェック。どんな形状かわかれば、もう大丈夫。来たばかりの頃は失敗していたトイレも、ちゃんとマスターしたのだそうです。
Tomokoさんとセルジュ。慣れた部屋ならスイスイ歩けます。
「声をかけずに突然抱き上げたり、勢いよく近づいたりすると驚いてしまうけど、こちらが少しだけ気をつかえば、なにも不自由なく一緒に暮らせますよ」
猫ってすごいなあ。話を聞いて、そう思わずにはいられませんでした。小さな体で、考えたり工夫したりしながら、一生懸命生きているセルジュ。目が見えないと聞いて、どれだけ大変なんだろうと勝手に想像していたけれど、セルジュは私が思っていたよりずっと、たくましく、淡々と状況に向き合っているようでした。
セルジュと兄妹の、ホアナちゃん。2匹は仲良し。
セルジュは今、里親さん募集中。とってもかわいいし穏やかな子だけれど、ハンディがあると、やっぱり里親さんを見つけるのは難しいものなんでしょうか。
「そんなことないんですよ。私は今まで、預かりボランティアとして、80匹近くの猫を里親さんにお引き渡ししてきたけど、こういうことは本当にご縁なんだなあと感じます。不思議なくらい、その子にぴったりの方が現れるというか......。だからきっとセルジュも、素晴らしいご縁があるって信じてるんです」
セルジュの赤い糸は、一体誰と繋がっているんだろう。少しだけ、他の猫より気をつけることが多いセルジュ。健気で穏やかな、かわいいセルジュ。どうか、どうか素敵な人が現れてほしい!
取材する私をじっと観察する猫たち。
ちなみに手前の子が、第3回、4回、6回に登場した子猫たちのお母さん。
これまでのお話はこちらから読めます
すると、取材から2週間後、Tomokoさんが連絡を下さいました。
「セルジュに、里親希望の方が現れました。近々、お引き合わせがあります。もしよければ、ますみさんもいらっしゃいますか」
なんですって。もちろん行きます!
続く
※第9回の更新は2月12日(土)予定です。
写真
猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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