目がほとんど見えないというハンディを背負った、保護猫セルジュ。里親さんに名乗り出た方がいたとTomokoさんに聞いて、私まで嬉しくなりました。
前回のお話(『猫のまもりびと』第8回)はこちら
「餌やりさんが猫を増やしてしまって、19匹捕獲した場所があったでしょ。そのお家のすぐ隣のお店で、働いていた女性なの。ご両親とお婆さまと、二世帯住宅で暮らしてるんですって」
以前から、猫がいたらいいねと家族で話していたところ、社内で「里親募集のお知らせ」が回ってきたので、立候補して下さったのだそう。何匹かいる猫の中から、ハンディのことも伝えつつTomokoさんがセルジュをお薦めすると、特に質問もなく「OKです」とお返事が来たそうです。
かくして、以前このコラムにも登場した
えつこさんのサロンで、お見合いが行われたのでした。
「こんにちは」
ちょっと遅れてサロンに伺うと、そこには、20代前半くらいの女性と、お父様らしき男性の姿。Tomokoさんの説明に、頷きながら熱心に耳を傾けています。当のセルジュはというと、布で半分覆われた小さめの一段ケージの中で、こちらにお尻を向け、緊張で固まっていました。
が、がんばれセルジュ。里親希望者さん、優しそうな人たちだよ。かわいい姿を見せて。
心の中でついそんなエールを送ってしまう私の前で、セルジュはTomokoさんに抱き上げられ、びっくりした顔のまま、クルンと丸くなりました。
「この子は、好奇心旺盛で穏やかで、こちらの懐に飛び込んでくるような天真爛漫さがあります。目がよく見えない分、かえって他の子猫たちより、怖い思いをせず大きくなったからかも知れません。抱いてみますか?」
Tomokoさんは、女性の腕の中にそっとセルジュを託しました。固まったままのセルジュと、初めての抱っこにちょっと緊張気味の女性。見ている私までドキドキします。どうか、どうかセルジュの魅力が伝わりますように......! するとすぐに、こんな声が聞こえてきました。
「かわいい......」
ホッと力が抜けました。女性は続けて「すごくかわいい」「柔らかい」と、嬉しそうににっこり。よかった。セルジュのハンディに囚われず、愛らしさの方に目を向けてくれる人のようで、本当によかった。
緊張で固まるセルジュ。
後から知ったことですが、里親希望者さんたちは、会う前からほぼ、この子にしようと決めていたのだそうです。だから、目のことについても、特にあれこれ質問しなかったのだとか。
「目が見えなくてかわいそうだから、ではなく、かわいいからセルジュがいい、と言ってもらえて、私もとても嬉しかったんです」
とTomokoさん。それを聞いて、すごいなあとしみじみ思いました。
餌やりさんが無責任に増やしてしまった猫を、何ヶ月もかけて無償で捕獲した、えつこさんやTomokoさん。
子猫たちの里親さんを見つけるため、関連会社やお客さんにまで当たったという、保護場所近隣のお店のスタッフさん。
そして、たくさんの選択肢の中、「かわいいから」と、迷いなくセルジュに決めた、里親さんご一家。
猫に関して、目を覆いたくなるような悲しいニュースがある一方で、こんなにも愛情深く接する人たちもいる。そのことを、改めてすごいと思ったのでした。
その後、里親さんご一家は、セルジュを迎えるため、積極的にお家を「猫仕様」にして下さったそうです。
ケージは、セルジュが戸惑わないよう、それまで使っていたのと同じものを用意。フードやお水なども、Tomokoさんのお家と全く同じ配置にしました。
Tomokoさん撮影。里親さん宅にお届けに行った日、トイレに籠城するセルジュ。
Tomokoさんからのお願いは、「窓際の台などは、なるべく動かさないでほしい」というもの。
セルジュは、部屋の構造や家具の配置を記憶し、それを頼りに動きます。だから、あったはずのものが急になくなると、怪我や事故の恐れがあるのです。
必ず声をかけてから触ってあげてほしい、手は上からではなく下から出してほしい、などのお願いも、里親さんはすぐ受け入れて下さいました。
今セルジュは、里親さんに愛されて、幸せそうに暮らしています。
里親さん撮影。すっかり家族の一員になり、表情も柔らかくなりました。
「これ、大好きなボールで遊んでもらってるところです。ほら」
Tomokoさんが見せてくれた動画には、イキイキとしたセルジュの姿が。
「百福(ももふく)くんっていう新しい名前もつけてもらったんですよ。あの子にぴったりですよね」
Tomokoさん曰く「愛さずにはいられないかわいらしさを、猫神様がくれた気がする」という、セルジュこと百福くん。
天真爛漫に里親さんと遊ぶ姿を見て、私まで、なんとも言えず嬉しい気持ちになったのでした。
里親さん撮影。本当に幸せそうです。
おしまい
※第10回の更新は3月12日(土)予定です。
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猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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百福君、本当に可愛いです。
たくさんの人に守られて、優しい里親さんのもとへ行ったのですね。
よかった、よかった。ほっとしました。
いつも猫のまもりびと楽しみにしています。
次回は、どんな猫さんが登場するのかな。
by こはく 2022-02-14 21:37