[猫ブログ] いろいろな連載と、ときどきお知らせ。

前回のお話（『猫のまもりびと』第11回）はこちら

「奄美の猫の、預かりボランティアに立候補します」

譲渡型猫カフェCAIT SITH（ケット・シー）さんに、そう伝えた我が家。
預かりボランティアというのは、捕獲された猫をカフェデビューさせる前に、数ヶ月間預かること。人間に馴らしつつ、ウイルスや病気を持っていないかを観察し、必要なら医療にかけるのです。

すると、立候補してすぐに、奄美で猫が捕獲されたと連絡がありました。

「この子の預かり、お願いできますでしょうか」

預かりボランティアは、ケージやトイレ、爪とぎやフードなど、必要なものを全て揃え、家の見取り図なども提出する必要があります。「ボランティアがとても不足している」と聞いてはいたけれど、準備完了からたった数日で、LINEが来たことに驚きました。


写真は全て、後日撮影したものです。ゆるちゃんのために用意した、二段ケージ。

届いたのは、写真が1枚だけ。ブレていて顔はきちんと判別できないけれど、怯えた様子の猫が、うずくまって写っています。

「メス　成猫　4.2キロ　ウイルス陰性　耳カット有り　短尾」

写真には、そんな文字情報が入っていました。事前に知ることができるのは、これがすべて。預かりボランティアはどの人も、たったこれだけの情報で、猫を預かるか決めるのです。※
どんな性格の子か、どの程度人に馴れているのかなどは、実際引き取るまで、まったくわかりません。

※CAIT SITH（ケット・シー）さまの預かりボランティアの事例です。

「わかりました。いつでも大丈夫です」

覚悟していたことだったので、迷わずそう返信しました。その後、いくつかやりとりをしたら、あっというまにお迎えの日。いろいろなことが、ものすごいスピードで決まっていきます。

「今回捕獲された猫は2匹。今日の午後、奄美から飛行機で羽田に空輸されてきます。ボランティアスタッフが手続きして受け取り、夜にはそのうちの1匹を連れていきますので、待機していてください」

一体どんな子が来るんだろう。いやそれよりも、猫はストレスに弱い生き物なのに、突然捕獲され、飛行機に乗せられ、車に乗って見知らぬ家へ運ばれるなんて、その子は今、どれだけ不安を抱えていることだろう。まずは、ここが安心できる場所だと分かってもらわなくては。

「奄美から来る猫には、奄美にまつわる仮の名前をつける決まりになっています。考えておいてくださいね」

猫を預かるのは夫の仕事場なので、日々のお世話をするのは主に、夫や、そこで働く人たち。彼らはみんなで奄美のことを調べ、方言や名物、地名などをピックアップして話し合ったそうです。最終的には、女の子だし、響きがかわいい名前がいいよねと、奄美の言葉で「夜」を意味する、「ゆる」ちゃん、という名前に決まりました。


名前を決めて、仕事場の人たちはゆるちゃんが来るのを楽しみにしていてくれました。

「ゆるちゃんが到着したよ」

夫からLINEをもらって、私も仕事終わりで駆けつけました。

そっと部屋を覗くと、用意していた二段ケージに、すっぽりと布がかけてあります。

「奄美から着いたばかりで、今すごく怯えてるから、今日はなるべく静かにしておこう」

夫の言葉に頷きつつ、私はほんの少しだけ、布をめくってみました。するとそこには、写真で見るよりずっと大きな目をしたかわいい猫が、うずくまっていました。


来てしばらくはカメラを怖がりそうだったので、２週間ほど経ってから撮影したゆるちゃん。心を閉ざしてます。

そうか、あなたがゆるちゃんか。ようこそ東京へ。まだ年齢も、性格もわからないけど、これからゆっくり仲良くなっていこうね。

このあと私たちは、とんでもなくお転婆なゆるちゃんに翻弄されることになるのですが、その話はまた次回。とにもかくにもこんなふうに、ゆるちゃんとの生活はスタートしたのです。


ゆるちゃんの好みがわからなかったので、フードも数種類用意しました。

ちなみに。
私たちとほぼ同じタイミングで、かつてこのコラムにも登場した、猫ボランティアえつこさんも、預かりボランティアに立候補していました。

するとある日、こんなLINEが。

「奄美から預かった子が、とんでもなく人懐っこい性格で、初日からすりすりゴロゴロなの。よかったら見にくる？」

えっ、そうなんですか。それはぜひ会わせてください！


奄美の言葉で「夕飯」という意味の「ゆーばん」。人懐っこい男の子。

ということで次回は、警戒心丸出しのお転婆ゆるちゃんと、人懐っこい猫ゆーばん、全く違う2匹の話をお届けしようと思います。


続く


※第13回の更新は6月4日（土）予定です。