預かりボランティアに立候補した我が家にやってきた、奄美の猫、ゆるちゃん。そして、同じくらいのタイミングで、えつこさんが預かることになった、ゆーばん。
前回のお話(『猫のまもりびと』第12回)はこちら
奄美で捕獲された猫は、収容施設から早く引き出す必要があります。だから私もえつこさんも、「とにかくいつでも預かります」とだけ伝え、事前にどんな性格の子が来るかなどは、なにも知りませんでした。そういう事情もあって、「びっくりするくらい人懐っこい子が来た」とえつこさんから聞いたとき、会いたい! と思ったのです。
「駆け寄ってくることがあるから、急いで中に入って、ドアを閉めてね」
えつこさんが経営するヘアサロンの、奥の小部屋。
案内されるがまま入ると、こちらをまっすぐ見つめて「なあーん」と鳴く猫。白と茶色の、穏やかな表情をしたその子が、ゆーばんでした。
「ええっ、ゆーばん、いつもこうですか?」
驚いて、ついえつこさんに聞いてしまいました。ゆーばんは、耳カットされた、いわゆる地域猫。こんなにフレンドリーな地域猫を、私は今まで見たことがなかったのです。
初対面の私に擦り寄り、ゴロンとお腹を見せて「なでて」とアピール。アイコンタクトもバッチリ。声をかけると「なあーん」とお返事。「我が家の猫より人懐っこい」と言っていいほどの気さくさなのです。
「そうそう、いつもこうよ。サロンに来た初日から、私に顔を擦りつけてきたの。奄美から飛行機や車で何時間も移動して、怖かったはずなのに......。猫って、慣れない場所に連れて来られるとご飯食べなくなっちゃう子が多いけど、ゆーばんはケージに移したとたんモリモリ食べて、翌日にはお腹を出して寝てたわ」
ゆーばんはいつも、えつこさんをまっすぐ見つめます。
そう話すあいだにも、えつこさんの膝に前足をかけて乗ろうとしたり、ちゅっ! っと顔を近づけたり、とにかく人が大好きなゆーばん。「20年以上ボランティアやってるけど、こんなに人懐っこい子はほとんど知らない」という言葉も、納得です。
「地方では未だに、完全室内飼いじゃなく、出入り自由な環境で猫を飼ってる人も多いから、もしかしたらゆーばんも、そうだったのかもしれないね」
と、えつこさん。そうですね......。
奄美からやってくる猫たちは、耳カットされた地域猫や、ゆーばんのように人によく馴れた子も多いのだとか。
私たち預かりボランティアにできるのは、猫たちの第二の人生を幸せにするため、素敵な里親さんを探す前段階で、信頼関係を築くこと。たくさんの人の尽力で救われた命、我が家にやってきたゆるちゃんも大切にお預かりしようと、私は改めて思ったのです。
そんなゆるちゃんは、と言えば。
最初は怯えているように見えたのですが、預かり開始から数日で、本領を発揮しはじめました。
ケージに入れたトイレを、砂ごと全部ひっくり返す。
爪とぎを、原型をとどめないほどボロボロにする。
ケージの二段目から猫ベッドを蹴って、何度直してもトイレの中に落とす。
ぬいぐるみ系のおもちゃは、破いて綿を引っ張り出す。
そう、ゆるちゃんは、とんでもなく活発でお転婆な子だったのです!
ゆるちゃんの爪とぎ。ちなみにこれ、3代目です。
とはいえゆーばんとは違い、人にはほとんど馴れていない様子。ゆるちゃんがいるのは夫の仕事場なので、そこで働く夫やスタッフさんたちは、猫ボランティアさんたちのお知恵を借りながら、どうすれば仲良くなれるか、試行錯誤を繰り返しました。
部屋が広すぎて落ち着かないのかも、と思えば、パーテーションを設置。
ケージに入れっぱなしがストレスなのかも、と思えば、ケージのドアを開放し、部屋のあちこちに脱走防止対策グッズを取り付けます。
「美味しいものをくれる人」と認識してもらえるよう、置き餌はやめて、決まった時間にフードをあげてみたり、などなど、試してみた方法、数知れず。
ゆるちゃんもゆーばんと同じく、耳カットされた子です。
一見効果があるかわからない、地道な工夫の積み重ね。「このまま馴れてくれないのかも......」と、覚悟を決めたこともありました。けれど、ゆるちゃんは少しずつ、本当に、気づかないくらいすこーしずつ、態度を軟化させていってくれました。
やっとおもちゃで一緒に遊んでくれるようになったとき、預かり開始から4ヶ月が過ぎていました。
チキンペーストも、手から食べてくれます。
一体どんな子が来るのかわからない状態で手を挙げた、預かりボランティア。ゆーばんにはゆーばんの、ゆるちゃんにはゆるちゃんのペースがあって、私たちはそれを尊重しながら、里親さんの元へと送り出す準備をしていこうと思っています。
日常的に会うわけじゃない私と、見慣れないカメラ、どっちも警戒しているゆるちゃん。
2匹のその後については、またこのコラムでお話させてください。ゆるちゃんはまだまだ時間がかかりそうですが、そういうところもまた、今やとっても愛しいのです。
※第14回の更新は7月2日(土)予定です。
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猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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ゆるちゃん、家猫修行がんばっていますか。
早くおうちが見つかるといいですね。
by アンバー 2022-07-02 13:28
ゆるちゃん、家猫修行がんばっていますか。
早くおうちが見つかるといいですね。
by アンバー 2022-07-03 08:17