「ますみちゃんとよく似た経緯で、ボランティアを始めた方がいるよ」
猫ボランティアえつこさんが、あるときそう教えてくれました。
今から3年前、私はえつこさんが経営するヘアサロンの向かいの公園で、ボロボロの猫を見かけました。そのときのことは
こちらに詳しく書きましたが、しっぽと名づけたその子は元飼い猫で、人間の身勝手により、外での暮らしを余儀なくされたと知りました。えつこさんに助けてもらいながらしっぽを捕獲し、7ヶ月かけて里親さんに譲渡した経験が、私が猫ボランティアに興味を持つきっかけになったのです。
えつこさんに送ってもらった、その方について書かれた記事を読むと......ホントだ、似てる! ボロボロの猫と遭遇、元飼い猫、はじめての保護に試行錯誤した経緯も。ケイさんというその方にとてもシンパシーを感じた私は、ぜひお話を伺いたいと、ご縁をたどって取材のお約束をさせていただいたのでした。
ケイさんが営むクロワッサン専門店(写真:ケイさんご提供)
「こんにちはー!」
細い路地に面した、お店兼事務所。ケイさんは初対面の私を、旦那さまと、1歳半の可愛い娘さんと一緒に、にこやかに迎えて下さいました。クロワッサン専門店を営んでいるというケイさんの、事務所の一角には二段ケージ。そのすぐ隣には、緊張した顔でこちらをうかがう猫の姿が。
「この子、ルナです。奄美で捕獲された子で、3ヶ月前からここで預かってます。猫のために、自分にできる範囲でなにかしたいなと思って、はじめてボランティアとして預かったのが、ルナなんです」
じっとこちらを見つめるルナちゃん。
わー、そうなんですね! 我が家でも、奄美から来た猫のユルを預かっていて、人馴れ訓練中です。ますます似ている私とケイさん。まずは、猫ボランティアをしようと思ったきっかけを聞かせていただけますか?
「きっかけは、お店の近くの道で、チャッピーと名づけた猫と出会ったことです。当時私は妊娠8ヶ月。歩くことを推奨されていたので、それまで通ったことがなかった緑道を、運動をかねて散歩することにしたんです。そこにいたのがチャッピー。その道を通る人はみんな知ってるくらい、有名な猫でした」
チャッピーは、血縁と見られるそっくりな模様の猫と2匹でいることが多く、通りを歩く人に大きな声でアピールしては、ご飯をねだっていました。餌やりさんはいるものの、体は痩せてボロボロ。とはいえ、触れるような雰囲気でもなかったのだそうです。
長毛の子がチャッピー(写真:ケイさんご提供)
「何度かご飯をあげたりもしたんですが、私は出産があって、しばらく緑道に行けない時期があって。約4ヶ月後に散歩を再開させたら、2匹がいつもいた場所に、花が手向けられていたんです......。ショックで、心がずんと重たくなりました」
その後ケイさんは、緑道でチャッピーに再会します。亡くなったのは、一緒にいた子の方だったのです。
「あ、生きてた! と少しホッとはしましたが、いつも2匹でいたのに独りぼっちになっちゃって、この子どうするんだろう......と気になり出して。それでネットで、外で暮らす猫のことや、保護猫のことを調べはじめたんです。そしたら、知らなかったことがたくさん出てきて驚きました」
分かります、私もそうでした。さくら耳にカットされた猫のこと、ボランティアさんたちの存在、保護活動の内容や譲渡会のこと......私もケイさんと同じように、1匹の猫を助けたい、と試行錯誤し、あれこれ調べる中で、はじめて知ったことがたくさんありました。それまでも猫と暮らしてはいましたが、猫を守るための活動については、ほとんどなにも知らなかったのです。
「そうですよね。私も、子供の頃から猫と暮らし、チャッピーと出会ったときも2匹の猫が家にいたんです。だけど捕獲の仕方なんてなにも分からなくて。それでも、なにかできることないかな、と思って、緑道の餌やりさんとも話すようになったんです」
そうこうするうちケイさんは、餌やりさんたちから、チャッピーが外猫になった経緯を教えてもらったそう。実はチャッピーは、元飼い猫。娘と息子と一緒に、3匹で飼われていたというのです。けれど飼い主が亡くなると、親族は3匹を外に追い出してしまい、チャッピーたちは突然、外猫として生きていかなくてはならなくなりました。やがて息子が姿を消し、娘の方も、ガリガリに痩せて、先日とうとう亡くなってしまったと言うのです。
以前は3匹で一緒にいたチャッピー(写真:ケイさんご提供)
ひどい......。実は「飼えなくなった猫を外に出す人がいる」というのは、猫ボランティアさんからよく聞く話です。けれど、かつて私が保護したしっぽもそうでしたが、家の中で暮らしていた猫を突然外に出しても、生きていくのは至難の業。
外には野良猫がいるから、この子も野良になって暮らすでしょう、などと安易に考えるのだと思いますが、餌場もわからず、真水にもありつけず、衰弱死するケースの方がずっと多いと、猫ボランティアさんが以前教えてくれました。
「チャッピーを助けたいけど、引っ掻くし馴れてないよと、餌やりさんからは言われていて、しばらくは、決まった時間にご飯だけあげていたんです。でもそのうち冬が近づいてきて、1匹になってはじめての冬を越せるのかしら、って......とはいえ、保護の方法なんて見当もつかない。それで、ネットで見つけたNPO団体さんに連絡してみたんです」
チャッピーの保護は無理でも、保護猫に対してできることがあるかも――ケイさんにはそんな思いもあったのだそうです。
「そしたらその団体の方が、『まずはチャッピーをすぐに保護しましょう。明日行きます』くらいのテンションで、手を貸して下さるとおっしゃって。あとから知ったことですが、その方は、テレビで取材を受けるくらい、有名な猫ボランティアさんだったんです」
つづく
※第17回の更新は10月8日(土)予定です。
写真
猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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