2022年8月8日の「世界猫の日」に、猫の本専門書店necoya booksをオープンさせた柳(ゆう)さん。ゼロからお店をはじめてまだ数ヶ月ですが、実際にやってみてどうですか?
「すべてが手探りです。お客さんに何度も足を運んでもらいたくて、1階は書店、2階はギャラリーにして、3週間おきに新しい展示をすると決めたんです。はじめての展示は、井上奈奈さんの『せかいねこのひ』という絵本の原画展をしたい、と思ったのですが......依頼の方法がわからず、作家さんである井上さんに直接ご連絡しました。わからないこと、はじめてのことがあってもどうにか実現できたのは、猫だからかな、と思っています」
というのは?
「猫関係のことなら協力したい、猫のためになることをしたい、と言ってくださる方が大勢いらっしゃるんです。最初の原画展も、依頼したときはまだギャラリーは工事中で、形すらなかったのに、井上さんは快く、アトリエで打ち合わせしてくださいました。ギャラリーを借りる人の中には『自分の作品で得たお金を、猫のために寄付するのが夢だったんです』という方も」
なるほど! 確かに私自身、絵本のパネル展をしたいと柳さんからご連絡いただいたとき、necoya booksの趣旨を知って「それなら」とお返事しました。
穏やかな時間が流れるギャラリー。
そう考えると猫ってすごいですね!
「そうなんです。お客様の中には、毎月1度、その月の生活費の残りを持って『これを猫のために使って』と来てくださる方もいるんです。そうして、お茶を飲みながらゆっくりおしゃべりして帰ったり。他にも、年齢を考えるともう猫は飼えないけど、ここに来て癒されてるの、とおっしゃる方や、亡くなった猫に似た子の絵を見つけて嬉しくなったよ、という方も。まだお店を開いて3ヶ月ですが、猫が好きな人とたくさんの繋がりができ、毎日とっても楽しいです」
それって本当に素敵なことですね。
お店は駅から少し離れた場所にあるけれど、大勢に来てもらうよりも、ここを目当てに来た人がゆっくり癒される、そんな空間を目指しているとのこと。
カフェの飲み物をここで飲むこともできる。
「猫好きの人との繋がりは、どんどん増え続けています」
と柳さん。店内には、猫を愛する人たちが作った、自費出版の絵本が何冊も。「よかったら置いてもらえませんか」と連絡をいただくことも、こちらからすることもあるそうです。大阪の保護団体が実話をもとにして作った絵本など、願いがこもった自費出版作品に出会えるのは、necoya booksならでは。
柳さんは、お店のオリジナルグッズと、書店が開催するイベントは、売上の10%を。チャリティー展示を開催したときは全額を、猫の保護団体に寄付しているそうです。ただでさえ昨今難しいと言われる書店経営。そこまでするのは本当にすごい!
お店のオリジナルトートバッグ。
「実は、寄付先の一つは、立川で保護猫の譲渡会を主催している団体さんなんです。このお店をオープンするとき、『こういう趣旨の書店を開きます。お手伝いできることがあったらお声がけください』ってご挨拶に行ったんです。そしたら......そこで、とってもかわいい黒猫の子猫と出会ってしまいまして」
すでに猫が2匹いた柳さんは、3匹目はまったく考えていませんでした。にもかかわらず、その黒猫くんに心を掴まれてしまったのだそう。
「どうやらもともと飼い猫だったようで、ゴミ捨て場にケージごと捨てられていたところを保護された子なんです。そんな思いをしたのに本当に人懐っこくて、はじめて抱っこしたときからゴロゴロ言ってくれて......不思議な魅力を持った、とってもかわいい子で、お迎えせずにはいられませんでした」
necoya booksをはじめたご縁で、ついに家族まで増えるとは! コロくんと名付けたその子の話をするときは、優しい柳さんのお顔が、さらにニコニコに。あまりのかわいさに「うちにきてくれてありがとう」と毎日思っているそう。
そんな柳さんが、今後やってみたいことはなんですか?
「自分一人では思いつかないようなことを、他の人の力やアイディアを借りながら実現していきたいです。先日もギャラリーで、楽器の演奏に合わせて猫の本の朗読会を開いたんですが、もともとはお客さんが『こんな活動してるんだよ』って、教えてくれたことで実現しました。そんなふうにこれからも、人とのつながりを大切に、猫のためになることをしていきたいと思っています」
猫の本やグッズに囲まれながら柳さんのお話を聞いているだけで、私もとっても癒されました。こだわりと愛がつまったnecoya books、どうか皆さんも、足を運んでみてくださいね。
※第21回の更新は2月11日(土)予定です。
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猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
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