ねこにすとEXPOで行われた、宮崎徹先生とのトークイベント。前回のコラムでは、AIMについてご説明いただいたところを紹介しました。
⇒
前回のお話(『猫のまもりびと』第21回)はこちら
後半の今回は、サイトに寄せられた質問について、宮崎先生が答えてくださった部分をお伝えします。
浅野:ではさっそく、皆さん一番気になっているであろう質問を。「腎臓の治療に有効なお薬は、いつごろ実用化されますでしょうか」
宮崎徹先生(以下敬称略):猫のAIMと腎臓病の関係性が分かり、論文にしたのが今から6年ほど前です。そこから薬を作り始めましたが、なにしろ今までにないタイプの薬だったので、本当に、すべてが手探りでした。そこにコロナの流行があって中断を余儀なくされ、けれど皆さんから本当に多くの応援やご寄付をいただいて......そこからのスピードは速かったですね。実はもう、治験薬もほとんど完成形に近く、どの会社が治験薬を作って申請するかということまでほぼ決まっております。あとは治験をスタートすればいいわけですが、その後は、管轄である農水省が、どの程度のスピード感で認可してくれるかにかかっていると思います。
浅野:そうなんですね。ちなみに治験(臨床試験)そのものは、どれくらいの期間かかるのでしょうか。
宮崎:病気によっても、治験のスタイルによっても違いますが、猫の腎臓病は15年ほどかけて進行しますので、最初からやっていると15年待たないといけなくなる。それは不可能ですので、一番早く、短い期間で、最大限効果が出るステージはどこかを探っておりました。それが見つかりましたので、治験そのものは1年かからずに終わるのではと考えています。
浅野:では、治験が終わって、認可が降りるまでは、どの程度かかりますか。
宮崎:今回のような動物薬が、おそらく世界的にも今までなかったので、認可する側としては戸惑うところだと思います。はじめてのものだから、我々の薬を最初の基準にするか、あるいは人の薬に右へならえするか。人の薬にならって、ということになると、薬はできているにもかかわらず、おそらく認可まで何年も時間がかかると予想されます。ですから、私の理想としては、もし来年度から治験がスタートしたら、並行で申請もしていきたい。そして治験データが完成する次の年、もしくはその次の年までには、認可していただけたらありがたいです。これはもう科学というより、役所との交渉ですね。
浅野:先生の研究は、短期間でたくさんの寄付が集まるなど、皆さんの関心が高いと思いますが、そういう世間の声は、認可の後押しになりますか。
宮崎:とてもなると思います。やはり、他に似たような薬がなくて、大勢が期待している、獣医の先生方もそれをサポートしているという事実は、非常に大きいと思います。例えばコロナのワクチンは、通常であれば5年から10年かかるところを、半年かからずに認可が降りています。緊急性が加味されると速いのです。そのために我々は、長い時間をかけてエビデンスを積み重ね、なにを聞かれても答えられる準備はありますので、あとは皆さんの応援が、一番大きいのではないかと個人的には思います。
浅野:待っている猫たちのためにも、早く形になってほしいです。では次の質問を。「AIM製剤はだいたいどれくらいの価格で、どれくらいの頻度で打つことになりそうですか」。
宮崎:まず頻度ですが、実は当初は、打ち続けなくてはいけないだろうと考えていたんです。けれど、さまざま調べてみると、どうもそうではないということがわかってきました。発表前の今の段階では、まだあまり詳しくお話できないのですが、毎日とか、毎週とか、そういう頻度ではまったくありません。
浅野:それは嬉しいですね。腎臓病が進行すると、週に何度も輸液が必要だったりと、オーナーさんにもとても負担がかかりますが、そういう形ではなさそうなのはホッとしました。
会場に展示されていた、AIMを解説するイラスト【イラスト/畑健二郎&STAFF(メガひよこ、ゴメス)、協力/天野里美】
宮崎:はい。次に費用ですが、最初は自分たちだけで薬を作り始め、途中で単価を計算してみたんですが、やはり高いんですよ。原価だけで1回数万円かかりそうだったんです。ですがそのあと、皆さんからの応援の声をきっかけに、製薬会社さんがご協力くださいまして。その道のプロが協力してくれると、今まで我々が想定していた原価の、もしかしたら10分の1くらいで作れるかもしれません。
浅野:そんなに手頃に!
宮崎:やはりプロはすごいです。それだけいいものができた、ということでもあります。ですから薬価は、可能であればかなり下の方の数万円か、もしくは1万円切るくらいまでもっていければいいなと思っています。しかも、毎日打ち続けなければいけないわけではないので、そこまで大きな負担にはならないのではと考えております。
浅野:期待しています。では次の質問を。「一般から治験の応募は受けているでしょうか」。
宮崎:今はまだ治験がはじまっていない段階ですので、募集はしていないんです。ただ、治験薬の最終形はもう完成していて、限られた獣医師の先生方にご協力いただき、学術的な試験投与はすでにスタートしています。治験がはじまるとなると、おそらく治験会社の方から、多くのオーナーさんにご協力をお願いする形になるのではないかと思います。
浅野:猫を飼われている方の中には、薬として成立するまで待てない、だから治験に参加したい、と希望される方もいるのかなと。
宮崎:そうかも知れません。ただ治験というのは結構残酷でして、AIMを打つグループと打たないグループに分けるんです。同じ水溶液を注射するわけですが、片方にはAIMが入っていて、片方には入っていない、けれどどっちを打っているかは、医師も、患者本人も知らないという状態にするんです。
浅野:なるほど、知っていたら、バイアスをかけて結果を見てしまうからなんですね。
宮崎:そうです。ダブルブラインドといいます。ただ先ほどお見せした結果からしますと、AIMを打っている子たちの方が圧倒的に結果がいいという形になるので、自分の子にはAIMは打たれなかったのだなと分かってしまうことになりかねません。生きるか死ぬかがくっきり分かれてしまうからです。だからできることなら、私としては治験参加者全員にAIMを打ちたい。じゃあ打たないときのデータをどうするのか、ということを、すでに製薬会社さんと話し合っているところです。
浅野:確かに、治験に猫を参加させる人は全員、AIMを打ってほしいと切望されていらっしゃると思うので......。では、次の質問です。「AIM製剤は猫によって、効き方に差があったり、効かない子がいたりするでしょうか。また、シニアの猫に負担はありませんか」
【イラスト/畑健二郎&STAFF(メガひよこ、ゴメス)、協力/天野里美】
宮崎:猫に腎臓病が起こる原因が、先天的にAIMが働いていないからだと考えれば、100%の猫に効くはずです。AIMが足りていないからゴミが掃除できなくて腎臓に溜まる、それを取ってやる、というシンプルな原理ですので。老齢の猫に負担があるか、ということについてですが、AIMはタンパク製剤なんですね。腎臓が悪いと、あまりタンパク質を摂らないように獣医師の先生から言われると思いますが、1回に打つのが2mgとごく少量ですので、それで腎臓を悪くすることにはならないだろうと考えています。ただ一点、我々が試験投与のときに気をつけているのが、AIMに限らず、タンパク質に対してアレルギー性ショックを起こす猫が一定数いる、ということです。見分ける方法はすでにありますので、その点に留意しながら治験の対象になる猫を選別することが重要だと考えています。
浅野:ありがとうございます。では次の質問を。「猫の腎臓病を早期で発見するには、どのくらいの頻度で健康診断を受けたらいいでしょうか」。
宮﨑:猫の腎臓は、15年ほどかけてじわじわ悪くなります。ですから、例えばまだ年齢が5歳くらいで、見るからに元気という時期なら、年に1度検査をしていれば大丈夫かと。ただ、10歳を超える年齢なら、半年に1度など、もう少し頻繁に採血をし、腎臓の機能のデータをちゃんと取って、今どのステージにいるのかを把握しておくことは大切だと思います。そうすれば、そろそろAIMをちゃんと打っておいた方がいい、など判断の基準になりますので。
浅野:猫の具合が明らかに悪い、病院に連れていったら腎臓病でした、という場合って、おそらくすでにかなりステージが進んでいますよね。
宮崎:そうですね。人間でいうと、透析しないと亡くなってしまう状態まで悪化していることが多いです。腎臓病というのは不思議な病気で、クレアチニンが高くなり、症状が進行しても意外と元気なままなんです。ただ、ある時期を超えると突然ガクッと悪くなります。
浅野:やはり、私たち飼い主が、具合が悪くなる前からステージを把握する必要がありますね。これはうちの猫の個人的な話ですが、うちの子は健康診断でステージ2で見つかり、一番高いときでクレアチニン値が3.4あったんですが、AIMが配合されたフードやおやつをあげていたら、ゆるやかに値が下がりはじめました。今までの常識では、腎臓は一度悪くなったら絶対元にはもどらない、と言われていたので、驚きました。
宮崎:私は当初、ある程度腎臓にゴミが溜まり、クレアチニンが高くなった状態では、注射という形で外からAIMをたくさん借りてこないと、量として足りないのではないかと考えていました。フードの場合、もともと猫が持っているAIMの、せいぜい5~10%を活性化させているだけなんです。ですから科学者としては、ある程度溜まったゴミを全部掃除するほどは、AIMは活性化されないんじゃないかと思っていたのですが、実は今浅野さんがおっしゃったようなことは、たくさんの方から聞いているんです。ちょっと考え直さないといけないかもしれません。
浅野:フードでたくさんのゴミが掃除されるなら、こんなに嬉しいことはありませんね。ちょうど、フードについても質問が。「AIM30(株式会社マルカン)以外のフードは、与えないほうがいいでしょうか」。
会場に展示された、AIM関連フード。
宮崎:腎臓を病んだ子は、獣医の先生から、療法食を処方されていると思います。それをやめてこっちを与えた方がいいのかというのは、なんとも言えないところがあります。AIM 30に害があるとかいう意味ではなく、やはり獣医の先生方は、腎臓のことを考えて療法食を処方していらっしゃいますので、それを尊重した上で、この成分をうまく摂っていただけたらと思います。療法食は、腎臓を治すものではありませんが、腎臓に悪い成分を極力省いた、とても優しい食べ物になっているはずです。ですからそこをベースに、少し混ぜてみる、あるいはおやつとして食べさせるというやり方がベストかもしれません。
浅野:ちなみに我が家は、まさにそういう形であげています。療法食はやめずに、for AIMのちゅ~る(いなばペットフード株式会社)をお湯でといて混ぜたり、フードの上に、AIMのサプリメントをふりかけたり。実はそんな私から、もう一つ質問があるんです。「AIMのちゅ~るに『加熱によって成分が変質します。加熱してお与えすることはおやめください』と書いてありますが、具体的には何度から変質するんでしょうか」。腎臓を患っていると病院から「たくさん水分をあげてください」と言われるので、ちゅ~るをお湯と一緒にあげたい人、結構いると思うんです。
宮崎:なるほど。実はこの成分は、これまで相当たくさんの人間用サプリに使われてきたものなんです。減菌していく過程で、非常に高温にすると変質したりしてよくないことがわかりましたが、それはかなり高い温度です。例えば電子レンジで何十分もぐつぐつ煮立たせる、などは問題があるかもしれませんが、少なくとも猫舌の猫が食べられる温度であれば、特に問題はないでしょう。
浅野:よかった、ホッとしました。では、最後の質問です。「AIMの成分が入った療法食や、新しい製品が、今後リリースされる予定はありますか」
宮崎:今の療法食を続けながら、どうやってAIM活性化成分の入ったフードを与えたらいいかということを、皆さん一番悩まれると思います。いっそこれを療法食にしてしまえばいいわけですが、療法食というのは臨床試験をしなければいけませんので、薬ほどではありませんが、時間がかかってしまうんです。しかも、長期でデータを取る必要があると思いますので、そうなると薬の方が先にできてしまうかもしれませんね。ただ、療法食にしようという動きは、あると思います。
浅野:形になる日を待っています。そろそろお時間ですが、最後に一言お願いいたします。
宮崎:今回、こういう機会がいただけてよかったです。我々は研究者なので、ちゃんとした実験データがあって論文にしない限りは、例えばSNSなどで「こんなことがわかりました」などと、あまり出すことができないんです。AIMを応援してくださっている方々の中には、期待を込めて「AIMは奇跡の薬でなんでも治します」とおっしゃる方もおりますが、私は、患者さんやオーナーさんの期待を、過度に煽ることはしたくないんです。それは医者として、絶対にやってはいけないと考えています。我々が頻繁に発信しないということもあり、それに近いことが起きつつあるのを感じることもありましたので、今回、エビデンスに基づいて思うことを、直接お伝えできて本当によかったです。
会場に展示された、フェリシモ猫部AIMチャリティーグッズ。
フェリシモ「猫部」内でも、宮崎先生を応援する、AIMチャリティーグッズを販売しています。この機会に、多くの人に興味を持っていただけたら嬉しいです。
※第23回の更新は4月8日(土)予定です。
宮崎先生のAIM医学研究を支援する、猫部の基金付きのチャリティーグッズが販売中。こちらも是非ご覧ください。
⇒
AIMチャリティーグッズ特設サイトはこちら
【猫部からのお知らせ】
「猫のまもりびと」は次回2023年4月8日(土)の更新をもちまして、連載を終了させていただきます。最終回までどうぞよろしくお願いいたします。
写真
猫のまもりびとライター紹介
あさのますみ
声優、作家。さまざまな経緯で出会った保護猫4匹と暮らしている。2019年、生まれて初めて野良猫を保護したことをきっかけに、地域猫活動や、TNRに興味をもつ。猫に関する著書に、「日々猫だらけ ときどき小鳥」(ポプラ社)、「ねがいごと」(学研)。趣味はカメラ。
X
HP
Instagram