今週の道ばた猫日記はちょうどお盆ですので、私にとっての「忘れえぬ猫」たちについて綴りたいと思います。
永遠に忘れえぬ猫として、真っ先に脳裏に浮かぶのは、「ミュウミュウ」です。
もうずいぶん昔のこと。
家の前の排水溝に浸かってうごめいていた手のひらサイズの仔猫。獣医さんでは「白血病のキャリアで、もって2カ月半」と言われましたが、スポイトでミルクを飲ませ、ストレスを与えないように気を付け、華奢ながら成猫に育ちました。
ひっそりとおとなしく、雲を眺めてるのが好きな、愛らしい子でした。夜は必ず私の右腕を腕枕に寝ました。
12歳半で白血病を発症、2か月ほどを闘病して旅立ちました。年月が経ちましたが、今もあの匂い、軽さ、見上げる表情が忘れられません。もう一度匂いを嗅ぎたいというせつない思いにかられます。当時は写真を撮る習慣がなく、ミュウミュウの写真は数枚しか残っていないのが悔やまれます。
12年前の3月終わり、青空の下、灰白の彼女がじっと見つめているのは、海です。
東日本大震災の3.11の津波は、南房総のこの小さな漁港も襲いました。
彼女がねぐらとしていた漁協は水浸しとなりました。入江の地形も変わりました。
津波が来るほんの1分前、漁港に暮らす猫たちはいっせいに海辺からの坂を駆けあがったそうです。
「それでもここで生きていく」とばかり、海を見つめる強いまなざしに、自分自身は被害もないのに震災後呆然として暮らしていた私は、その後しばらく漁港に通い、猫たちに元気をもらいました。
彼女も海辺で会った猫です。
愛らしい子猫の時に橋のたもとで初めて出会い、張りのある瞳の美少女に育っていくのを、この漁村に行くたびに写真に収めました。海辺のおうちで面倒を見てもらっていましたが、4歳くらいの若さで旅立ってしまいました。漁港の名をとって「竹子」と呼んでいました。
会いに行くと、はにかみながらついて歩いてきた日々をよく思い出します。
この猫たちに海辺で会ったときは母子とばかり思っていました。
通りかかりの漁師さんが教えてくれたのは、漁港に兄妹子猫が2匹捨てられて、その子たちにつききりで面倒を見始めたのが、この漁港生まれのうら若いキジトラのメス猫だったということでした。彼女は、出ないおっぱいまで2匹に吸わせ、寄り添っていました。
半年くらいたった頃、3匹は子離れ・親離れをして、別行動になりました。
その後、バラバラに姿を見かけることはありましたが、コロナもあって漁港が部外者立ち入り禁止となり、ここの漁港猫たちに会いに行けなくなりました。漁港の猫は漁師さんたちに可愛がられているとはいえ、家猫よりぐっと短い猫生ですから、3匹とももう空の上かもしれません。
マリちゃんも、海辺の女です。
もとは、捨てられた子。漁協の人たちに可愛がられ、よそから流れてきて漁港猫たちのボスに君臨した「ボス」と恋をし、ふたりして浜辺を闊歩していました。
ボス亡きあとは、後を引き継ぎ女ボスに。
ふれあい市場内にねぐらも作ってもらっていましたが、寄る年波で海辺のシェルターにお引越し。仲間たちに囲まれて安らかな老後を過ごし、2年前に旅立ちました。なかなかにドラマチックな、しあわせな女の一生だったと思います。
メス猫としては骨太な、丸っこい勇姿が目に焼き付いています。
この三毛は、わが家のナツコです。
釣り堀で魚をかっさらって生きていた「モモ」を迎え、避妊手術をと思っていた矢先に生まれた子猫たちのうちの1匹でした。すべてわが家の子になりました。その中の一番の長生きで、24歳近くまでお達者でした。濃い三毛特有の気の強さと身体能力と野生と情の深さを合わせ持ち、とても魅力的な猫でした。
ナツコ亡き後、その写真に目をとめていただき、大画面から飛び出す「新宿東口の猫」のイメージモデルにもなりました。モデルになった理由が「根拠なく強気な猫」ということでした(笑)。ナツコの面影がたくさんの人を元気にしているのは飼い主冥利につきます。
サチとゴローは、花はなの里の猫。それぞれよそから持ち込まれた保護猫でした。
ノラ母さんを交通事故で亡くしてやってきたゴローは、優しく穏やかな全身まひのサチおじさんを慕って大きくなりました。
原っぱでサチがバタンと転びそうになるのを、まだ大人になりきっていない体でさりげなく支えていたゴロー。
成長すると、サチのナイトとなり、いつもそばにいたゴロー。
全身まひの子としては長生きとなる13年近くを、里山の仲間たちに慕われて生きたサチが旅立ってしまうと、ゴローはすっかり元気をなくし、後を追うように旅立っていきました。獣医さんでは病気は見つからず、「大切ななものを失った精神的なショック」という見立てだったとのこと。
今も、里山を訪れると、サチとゴローが風の中を一緒に走り回っている気配がします。
チャイは、珈琲豆店の猫です。
夏の暑い盛りに、ゴミの山で脱水症状となって虫の息のところを救われました。
先住の後ろ足が不自由なコタロウお兄ちゃんと大の仲良しで暮らしていました。
ウルウルの大きな瞳が、宇宙から来た不思議な生き物みたいな不思議な、いくつになってもあどけない子でした。
この見上げる写真で、猫本の表紙にもなってくれました。
ある日突然の心臓発作で宙に還ってしまったチャイくん。。
さびしくなったコタロウ兄ちゃんは、新たにやってきたワケアリ元ノラのアンちゃんと仲良くやってるから、安心してね。
クマくんは、海辺のシェルターで、老若男女の仲間たちから慕われるボスでした。
威張るわけでもなく、その賢さと風格と慈愛で、みんなをとりこにしていたのです。何かあれば、一瞥でことを収めました。誰もがボスの隣に座りたがっていました。
何もかも見抜いているような深々とした目を持つ、ほれぼれとするいいオトコだったのです。
どこからやってきたのか、ある日、海辺のえさ場に現れてメス猫たちをとりこにし、彼女たちをひきつれて、はるばるシェルターを訪ね当てて自ら入所してきたクマくん。
昨年末に旅立ち、私の中では不世出の「忘れえぬ猫」となりました。
この黒猫は、現在15歳でまだまだ元気な我が家の菜っぱさんです。
いずれこの子も、「忘れえぬ猫」となるのは、今から覚悟しなければなりません。
1匹の猫と巡り合い、共有する年月の短さよ。それだからこそ、1日1日、1しぐさ1しぐさが愛おしいのです。
そして、じつは、わたしにとっての「忘れえぬ猫」は、出会った猫すべてです。猫好きの多くがそうであるように。
地上のどんな猫も、誰かの「忘れえぬ猫」として、穏やかにその生涯を全うし、空に還っていけますように。お盆を迎えて、つくづく願うことです。
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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佐竹さんが大切な忘れえぬネコさん達をブログや本で紹介してくださったおかげで、私たち読者にとっても忘れえぬネコさんになりました。さっちゃんやゴローくん、漁港のキジトラ親子にマリちゃ
by ぴっころ 2023-08-15 13:11
茉莉子さん、お盆らしいお話し、ありがとうございます。時に思い出し、懐かしんだり、偲んだりするのが、何よりの供養になるそうです。
私は、犬さんは見送りましたが、猫さんは未だです。16歳のおじいさん猫がいるので、覚悟はしているのですが…
人も動物も、生命は同じ。すべての生命が大切にされますように。
by ちぃ 2023-08-15 13:24
すみません、途中で送ってしまいましたm(__)m
続きです。
マリちゃんもクマくんも、みんなみんな、愛しい大切な大切な宝物として、たくさんの人の心に刻まれていますよ(*^-^*)
佐竹さん、片隅に埋もれてしまいそうなネコさん達のステキな物語を語り続けてくださって、ほんとうにほんとうにありがとうございます。
by ぴっころ 2023-08-15 13:31
いつも毎週火曜日の更新を楽しみにしています。
お昼ご飯を食べながら読んでいるのですが、いつもながら茉莉子さんの優しい文章と、久しぶりに見るさっちゃんとゴローくんに涙腺が緩んでしまい、鼻をすすりながらのご飯となってしまいました。。
うちのコたち(姉妹猫)はもうすぐ11歳ですが、まだまだ「忘れえぬ猫」にはなってほしくないです。元気でそばにいてくれたらと切に願うばかりです☆
by なないも 2023-08-15 18:25
どのお宅にも忘れがたきペットとのファミリーヒストリーがあるのですね。
by ムヨク 2023-08-15 18:51
お盆特集。それぞれの猫の物語は、胸に迫るものがありました。ミュウミュウ初め、みんなの瞳は、みな賢そうで何かを語りかけているようにさえ思われました。末永く一緒にいたいと思っていても、ネコ達の命は余りに短く、別れた後もいつまでも思いが残ります。とりわけ近くで見ていたサチとゴローは未だに虹の橋のたもとに行ってしまったとは思えません。合掌。
by Y.M 2023-08-15 20:41
久しぶりに投稿いたします。私にとっても忘れえぬ猫、ミュウミュウちゃん。今年のお盆も、帰ってきてくれていたのでしょうか?
うちには3匹の猫がいます。今はみんな健康ですが、一日一日を大切にしたいなと、改めて思いました。
いつも素敵な文章をありがとうございます。
by ふ〜みん 2023-08-16 18:27
お盆のこの時期、「忘れえぬ猫」しんみり拝読させて頂きました。
猫とニンゲンの時間軸は違いすぎますから、一時一時を悔いのないように過ごしたいものです。
佐竹さんの猫さん達写真、実に生き生きとしていますね。
なかでも漁港の母さん猫、初めて拝読させて頂いた時の感動を忘れることができません...
by ヤンヤン 2023-08-17 04:54
どの子も魅力いっぱいですね。映画の主役になるような子ばかりですね。ミュウミュウさん、ものすごく綺麗ですね。たまらない写真ばかりです。
by とも 2023-08-17 22:49
>16にゃんずさん
猫の記憶は、外見じゃなくて、匂いや声、足音などとても深く精緻なものだから、年をとっても絶対見分けてくれますよ!!
by みちばたねこ 2023-08-18 08:07
>ぴっころさん
いっしょに、さっちゃんやごろーくん、クマくんやマリちゃんたちを思い出として大切にしていただけて、とてもとてもうれしいです!!
by 道ばた猫 2023-08-18 08:10
>ちぃさん
そうなんですよね。この世ではいっぱい愛しんであげること。見送った後は、思い出して語ることが「寿ぐ」ことになるそうですので、語り続けましょう!
by 道ばた猫 2023-08-18 08:12
>なないもさん
「猫というのは可愛がった分だけせつない」というのは、取材した画家のかたに聞いた言葉ですが、せつなくとも精いっぱい可愛がらずにはいられませんよね!
by 道ばた猫 2023-08-18 08:15
>ムヨクさん
はい、猫たちも雲の上で「僕が一緒に暮らした人間たちは・・・」とか語り合っていたらおもしろいですね。あ、恥ずかしいことがいっぱいかも(笑)。
by 道ばた猫 2023-08-18 08:17
>Y.Mさん
不思議なことに、ゴロー君やチャイ君など短命な猫は、写真を見返すと、ちゃんと別れを知っていて話しかけてくるような瞳をしているんです…。
by 道ばた猫 2023-08-18 08:22
>ふ~みんさん
ミュウミュウを覚えていてくださってありがとうございます。ずいぶん前のブログに書いたのに!
3匹の猫さんとの日々をどうぞ慈しんでくださいね!
by 道ばた猫 2023-08-18 08:24
>ヤンヤンさん
漁港の母子のその後はいつか書きたいと思っていたのですが、なかなか消息がつかめず。でも、この漁港でそれぞれ可愛がられていたのは間違いありません。
by 道ばた猫 2023-08-18 08:27
ウギャー、ようかん、チャリ、みんなかわいかったなあ。部長はFIPで保護してから1か月も経たずに逝ってしまった。ピースは瀕死のところを保護できたけど、たった5日でお空へ。ネロくんのいるカフェで、ママさんにピースの話をさせていただいたことがきっかけで、茉莉子さんとのご縁もできました。みんな大切でかけがえのない家族でした。今は今いる子たちを精一杯お世話して、看取りまでしっかりやり遂げることが自分の人生最大のミッションだと思っています。これからも心温まる素敵なお話を届け続けてくださいね!
by あべんぬ 2023-08-18 10:06
ミュウミュウちゃん、子猫の白血病キャリアの発症は高く12歳まで元気でいれたなんて奇跡です、愛情の賜物ですね。
我が家のブラ吉も19歳白血病キャリアですが、元気で頑張ってます。いつか白血病が不治の病では無くなります様に、心から祈ります。
by ブラのママ 2023-08-20 14:51