2024年は、とんでもない災害で始まってしまいました。被災された方々に、心よりお見舞い申しあげます。
本年も、人と猫の温かなドラマをすくいあげて綴っていきます。よろしくお願い申し上げます。
猫さんたちが、ガラス戸の中から通りを眺めています。
ここは「須藤商店」。
群馬県桐生市の伝統的建築物が立ち並ぶ本町通りを一本脇に入った、静かな通りにあるお店です。
店内には、自然食品や自然酒類、オーガニック関連の商品が並んでいます。この店は、なんと江戸時代創業だとか。現店主のひで子さんにより、天然木とガラスの明るい作りにリニューアルされ、料理教室なども開かれるサロンも併設されています。
サロンからも、可愛い子がのぞいていますね。
いったい、何匹いるのでしょう。
「5匹いるんですよ。みんなそれぞれつらい過去を持った子たちが仲良く寄り添って暮らしています」と、ひで子さん。
5匹を紹介してもらいましょう。
最初にやってきたのは、「ちびた」さんという、キジトラのメス猫でした。
いかにも放浪の末といったガリガリの飢餓状態で現れたのは、あの3.11の大震災当日。身ごもっていたちびたさんは、ほどなくひで子さんのベッドの布団の上で可愛い赤ちゃんを4匹産みました。子猫たちはみなもらわれていき、しあわせに。
ちびたさんは、もう14~15歳。店奥のご隠居暮らしとのことで、対面はお願いしませんでした。
6年前に迎えたのが、夢ちゃんと金ちゃん。
夢ちゃんの写真をSNSで見たとたん、ひで子さんは迎えることを決めたそうです。
幼い彼は、茨城県でカラスのご飯になる直前を保護されました。カラスから逃げられなかったのは、後ろ両脚が、なかったためです。人為的に切断されていたのです。
そんな夢ちゃん、今では、店内を元気いっぱいに前脚で走り回る、お客さんたちのアイドル猫。
夢ちゃんと同時期に、同じく茨城県から、虐待を受けていたと思われる金ちゃんも迎えました。
夢ちゃんと金ちゃんは、兄弟のように仲良しです。
3年前には、さくちゃんがやってきました。衰弱していたのを命をとりとめた子です。
彼は、多頭飼育崩壊現場から救出された子です。
このさくちゃん、一度脱走騒ぎを起こしています。あの時はどんなにお母さんを心配させたことか。
ちょっと目を離したすきに、サッシの隙間から外に出てしまったさくちゃん。夏の暑い盛りでした。ひで子さんは帰らぬさくちゃんを必死で探し回り、チラシも配り、願掛けもしましたが見つかりません。
「さくちゃんに似た子がいる」との知らせがあったのは、行方不明4週目。黒ずんで痩せこけて、原っぱに座っている子がさくちゃんとは、最初はとても思えなかったそうです。
さんざん心配させておいて、さくちゃん、たちまち丸々に。
そして、いちばんの新入りは、この茶白の麦ちゃん。
彼は、山中でカラスに脚を食べられているところを、ひで子さんの友人に救われた赤ちゃん猫でした。麦ちゃんは、これまでに7回もの手術に耐えています。
須藤商店の猫さんは、みんなそれぞれに大変な過去を持ってここにやってきたのでした。
それでもこうしてお客さんの足元で転がったり、撫でさせたりする性格ハナマルちゃんばかりなのは、ひで子さんの慈愛が惜しみなく降り注がれたからこそ。
おや、「いらっしゃいませ」のマット猫が増えています。向こうではさくちゃんが、落ちていた紐を見つけたようです。
紐遊びの順番待ち3匹。
なんて平和なやさしい時間が、ここには流れているのでしょう。
壮絶な体験を過去として、仲間とともに逞しく前を向く猫たち。
助けを求めている者に、スッとためらわず手を差し出せるひで子さんの大きな愛。
生きていくお手本として、心に刻みました。
2024年が、明るみに向かう一年となりますように。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを
『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
Instagram
厳しい過去を持つ大勢のネコが、揃って皆素直になついているなんて、ひで子さんの愛情の深さが偲ばれる。首を傾げたさくちゃんの目を見ていると、脱走した際は深く物思いにふけっていたような気がしてくる。家に戻るべきか否か4週間も悩んでいたのではないだろうか。それにしても、佐竹さんの撮る数々の写真は、猫たちの目が輝いていて本当に何かを語り掛けているように見える。猫がこっちを向いている写真を撮るだけでも難しいのに、佐竹さんを見るとネコ達は何故か安心してしまうのだろうか。今年も温かみ溢れる文・写真を楽しみにいたします。
by Y.M 2024-01-09 15:33
涙が止まりません。なんて辛い経験……それでも、今、ひで子さんに愛され、幸せそうです。本当に、命の重さを思います。
年明けから、大きな災害や事故にどんな年になるんだろうと不安ばかりでしたが、茉莉子さんと健気な猫さん達に、また、救われた気持ちです。
心からよい年になることを祈ります。
by ちぃ 2024-01-09 23:11
壮絶な過去に涙しましたが、今はひで子さんに愛されてとっても幸せそうで何よりです。
ひで子さんのように、行動できる人でありたいと思います。尊敬します。
今年も茉莉子さんの心温まる「道ばた猫日記」を楽しみにしています。
健康に気をつけてご活躍ください(=^ェ^=)
by なないも 2024-01-10 13:13
みんな幸せそうなお顔をしているのに、すごい苦労をしてきたのですね…
特に夢ちゃん、何ということでしょう…(T_T)
もう言葉もありません。
でも、ひで子さんのおかげで幸せになれて、ほんとうによかった!
末永く、この平和でおだやかな日々が続きますように心からお祈りしています。
佐竹さん、今年もさっそく心が元気になる記事わありがとうございました(^o^)
by ぴっころ 2024-01-10 16:09
今年は大変な始まりでした...
猫日記を拝読するとホッとしますが、可愛らしい猫さんたちにも壮絶な苦労があったんですね。
それでも幸せになって、あるがままを生きる。まさに看板猫・招き猫です。
新年早々温かい記事をありがとうございました。
本年もよろしくお願いいたします。
by ヤンヤン 2024-01-11 17:41
>Y.Mさん
いつも温かなコメントをありがとうございます。
たしかに長く猫たちと付き合っていると、対話力が身につくような気がします。え、年の功?
by 道ばた猫 2024-01-12 12:38
>ちぃさん
猫たちの一生に思いを巡らせれば、なんとたくさんの猫が、別離や病苦や災難を体験して、それでも生き抜いてきたかと思います。負けられませんよね。
by 道ばた猫 2024-01-12 12:40
>なないもさん
はい、私もひで子さんのような方を心から尊敬します。
そして、くじけぬ猫たちも尊敬しています。
by 道ばた猫 2024-01-12 12:42
>ぴっころさん
2枚目のゴローンと転がっているのが、後ろ両脚のない夢ちゃん。
後ろ脚がなくたってなんのその。今は、だれにも負けずしあわせな夢ちゃんです。
by 道ばた猫 2024-01-12 12:45
>ヤンヤンさん
猫たちを見ていると、どの子も福猫、招き猫だとつくづく思わされます。
今年も各地の福猫たちを紹介していきますので、よろしく!
by 道ばた猫 2024-01-16 16:33