5月の晴れたある日、千葉県野田市にお住いの幸子(さちこ)さんのお宅へ。ベーグルカフェの店内で居合わせたとき、「2匹の保護猫と暮らしている」とお聞きしたからです。
「いらっしゃーい」
フレンドリーに迎えてくれたのは、チーちゃん、18歳。老いを感じさせないシャキッとしたサバ白美人さんです。
柱の陰から、ちょっともじもじしてこっちを見ているのは、黒猫のクロちゃん、8歳です。
2匹とも、ある日、庭にやってきて、そのまま居ついてしまったのですって。
「猫があんまり好きではなかった」という幸子さんが、2匹を家猫にするまでの物語を伺いましょう。
「猫との関わりは、この子がすべての始まりなんです」と、幸子さんがスマホ画面を見せてくれました。
そこには、立派な茶白くんが。
「母猫が連れてきて、裏に置いて行った子でした。私は猫が好きではなかったので、義父が可愛がるのを遠目で見ていたのですが......『やること、可愛いんだなあ』と思い始めて。その子、タマがなついてくるともっと可愛くなって」
当時健在だった義母が猫好きでなかったせいもあって、家の中にはたまにしか入れませんでした。1年くらいたったある日、タマは大通りに出て交通事故で旅立ってしまいました。
突然の別れ。幸子さんはすっかり落ち込み、ご飯ものどを通らない日がしばらく続きました。1匹の猫を失うことがこんなにも悲しいなんて。
タマを失って1年半近くたった2009年1月。タマを庭に置いていったノラ母さんが再び現れました。それがチーちゃんです。
面差しも鳴き声もタマにそっくりなチー母さんは、発情期の雄猫に追いかけられて疲れたらしく、縁の下で体を休めていました。ご飯はどこかでもらっていたようですが、寒い季節で家の中に入りたがります、獣医さんのところへ連れて行き、避妊手術をしたのち、家猫にしました。
「タマのことがあって、もう外には置いておけませんでした」
ところが、外でずっと暮らしていたチーちゃん、「外にも出たい」と鳴いてせがみます。そこで、ハーネスとリードで、毎日家の周りを散歩させる日を7~8年続けた後、室内だけで満足するようになりました。
チーちゃんがやってきた10年後の2019年1月に現れたのがクロちゃんです。
チーちゃんが嫌がるので家の中に入れるのを躊躇、しばらく農機具小屋をねぐらとさせていました。クロちゃんの捕獲・手術を手伝ってくださった方から、手術後に「家の中で飼ってあげられない?」と言われ、ふんぎりがつきました。夫も義父も猫たちを可愛がったし、チーもしばらくすると、あとをくっついて回るクロを同居猫と認めてくれました。
「今は、とくに仲がいいとは言えないけれど、仲が悪いわけでもありません。毛づくろいもよくし合っていましたし」
クロちゃんは、2歳になった今も子猫気分が抜けなくて、猫じゃらしの食いつきバツグンです。
「素直で天真爛漫。たまにお外に出たがるけど、『ダメ』と言えばあきらめます」
庭に面した広いぐるり廊下が、2匹のパラダイス。ポカポカと陽の当たる日は、ひなたぼっこを思い思いの場所で楽しみます。
自分がまだ子猫だと思っているクロちゃんは、高い狭い所に上ろうとして落下したり。投げたものをくわえて持ってきたり、犬のようにグルグル回って遊んだり。
賢く穏やかなチーちゃんは、幸子さんの言葉をよく理解しているようで、いい話相手にもなり、幸子さんの気持ちを落ちつかせてくれます。
「人にも言われて大いに納得したんですが、2匹は、私に寄り添うためにやってきたとしか思えません」と、幸子さんは言います。
タマの死の1年半後にチーが再びやってきたのも「息子をずっと可愛がってくれてありがとう」を言いに来て、落ち込んでいる自分に寄り添ってくれたのかなと思っています。
去年10月に股関節の手術のために入院する前にも、不安そうな幸子さんの手にわが手を添えてポンポンと軽くたたき「大丈夫だよ」と送り出してくれました。
「クロの方も、寄り添うためにやってきてくれたと思います。チーにはできない『楽しませる、笑わせる』という役割で。やることなすこと面白くて、見ているだけで笑顔になってしまうんです」
猫が好きではなかった自分が、こんなにも猫との暮らしを楽しいと思えるなんて「猫って、なんて不思議な生き物だろう」と、幸子さんはいつも思うそうです。
「この子たちと暮らせる日々を、一日一日大事にしないと。だから、寝る前にはこう言っているんです。
『今日も元気に一緒に居られてよかったねぇ~』って」
「今日は、あたしたちの物語を聞いてくれてありがとう」と、口々に言って見送ってくれたチーちゃんとクロちゃんでした。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを
『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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大きな澄んだ目が、色々な表情を創り出すチーちゃんとクロちゃん、タマちゃんの事故は悲しいけど、タマちゃんに見守られて、ネコちゃんたちとの会話が絶えない、楽しい生活が何時までも続きますように。
by Y.M 2024-05-14 17:42
子供を託したノラ母さんが家猫に、そんなこともあるんですね。
タマちゃんは残念でしたが、18歳には見えないチー母さん素敵です。
クロちゃんとも普通の距離感で普通に暮らしてゆく、何だか見ていてこちらも幸せな気分になってしまいました。お幸せに!
by ヤンヤン 2024-05-15 05:20
ゴールドグリーンアイズがきれいなチーちゃんとクロちゃん。タマちゃんは残念だったけどきっと猫天国から2匹のことを優しく見守っているよ!タマちゃんがいなかったら,きっとチーちゃんとクロちゃんとの出会いもなかったはずです。タマちゃんに見守られながら,楽しい猫ライフが続くといいね☺️
チーちゃんは 茶色めのサバ白だから,キジ白だと思います。 (すいません!個人的なこと)
by ひろにゃん 2024-05-15 16:53
>Y・Mさん
猫と暮らす楽しみの一つは、猫との会話ってこと、猫好きはよく知っていますよね。
2匹いたら、それぞれ楽しい~~。
by 道ばた猫 2024-05-16 11:55
>ヤンヤンさん
取材の夜、2匹は珍しく寄り添って寝ていたそう。
「今日は、ちょっと緊張したわね。でも、かなりの猫好きだったわね」と話し合って眠ったのかな(笑)。
by 道ばた猫 2024-05-16 11:59
>ひろにゃんさん
そうか、チーちゃんは茶色があるからキジ白ですよね。いつも「この子はキジ?サバ?」と迷ってしまうんです(笑)。ありがとうございました!
by 道ばた猫 2024-05-21 11:15