梅雨入り間近の青空の下、アジサイの葉陰から、綺麗な瞳がのぞいています。
おや、少し離れたところで、ゆったりくつろぐ猫さんがもう1匹。
凛々しいまなざしがそっくりの、若い2匹です。
ここは、茨城県にほど近い千葉県香取市の「観福寺(かんぷくじ)」の境内です。
日本厄除三大寺師の一つで、890年に開基されました。地元伊能家の菩提寺でもあり、伊能忠敬のお墓もここにあります。
2匹にとって、そんな名刹の自然豊かな境内が「自分ちの庭」。
「ボクが、兄のタンジロウ。よろしく」と、黒さん。
「あたしは妹のネズコ、よろしくね」と、長毛のキジ白さん。
兄妹がこの名前を付けてもらったのには、何やら訳があるのですって。
お寺のスタッフでもある、ご住職様の娘さんに、2匹を迎えたいきさつをお聞きしましょう。
2年前の7月の終わりのこと。朝一番で、ご自宅からお寺にいらっしゃった住職様は、どこからか子猫の鳴き声を耳にしました。職員の方と「中庭から鳴き声がしますね」と言い合っていると、中庭の草陰から1匹の子猫がぴょこん。続いてもう1匹、ぴょこん。幼い2匹が人恋しげに寄ってきました。
どうやら、夜のうちにお寺の近くに捨てられた子たちのようです。汚れてはいませんでしたが、痩せていました。
「住職(父)も私も猫が好きですが、母は猫が苦手。また、法事などでお客様も多く、飼ってやることはためらわれました。それで、中庭にやって来た時にはご飯をあげようということに」
でも、2匹は、そのまま中庭に居座ってしまいました。それで縁台に大きなケージを置いてねぐらにしてやり、お母様に内緒で中庭で面倒を見始めたそうです。
ところがある日、戸は全部締まっているはずなのに、2匹が室内にいるではありませんか。人恋しくて、人の声のするほうを頼りに縁の下経由で、今は使っていない台所のカマドわきのすき間から侵入したのでした。
侵入してきた2匹はそのまま居座り、まんまと寺猫に。
「カマドから侵入してきたので、名前はタンジロウとネズコとしました。某人気漫画の主人公兄妹と同じく、親とひき離された幼い仲良し兄妹でもあったので」
ご住職様も、相好を崩して毎日猫可愛がり。
心配だった、猫をお寺の中に入れることの弊害は、「まるでなかった」とのこと。
とても利口な仲良し兄妹だったのです。すでにどこかで修行を積んできたかのように。
庭でトイレも、障子やふすまガリガリも全くなし。ご住職が境内を歩くときは犬のようについて回ります。呼べばすぐやってきます。ご飯の時間もねぐらのケージに入る時間もわかっています。言葉もかなり理解しているそうです。ご飯の好き嫌いも全くありません。
タンジロウ君は、「可愛いね」という言葉をしっかりわかっているそうですよ。
ネズコちゃんは、木登り上手なのだとか。
「境内は安全なので、日中は自由に遊び回っていますが、お寺を閉める5時前にはちゃんと帰ってきます」と、住職様もご自慢の2匹。
娘さんは、「猫を迎えてよかったことはたくさんありました」とにっこり。
参拝のお客様たちが「猫に会えた」と喜んでくださったり、猫に会いに来てくださったり、法事やお墓参りに連れてきた子どもたちが退屈しなかったり。2匹のおやつを受付に届けてくださる方もいるそうな。
人のそばが好きで、「シャ~」と言ったことは一度もないという、飼い猫の鑑のようなタンジロウとネズコ。
香取市の新年の広報紙にも、開運コーナーで「会えたらラッキーな寺猫」と紹介もされました。
そうそう、猫が苦手だったご住職の奥様。今では「可愛い」と撫でまくっていらっしゃるそうですよ~。
智恵を合わせてカマドから侵入し、自ら運を開いた兄妹のいるお寺。これは、ご利益ありそうですね~。
「道ばた猫日記」から書籍が生まれました。
『
猫との約束』
猫は人生にドラマを運んでくる。ささやかでも、至福のドラマを
『
寄りそう猫』
しあわせは猫の隣り。心温まる17の実話。
『
猫だって......。』
ふつうの猫たちが語る、22の愛情物語。
『
里山の子、さっちゃん』
動物たちはやさしく、気高い。助け合い、ともに生きる猫たちの物語。
『
しあわせになった猫 しあわせをくれた猫』
フェリシモ猫部の心温まるブログ、完全版として待望の書籍化!
写真
道ばた猫日記ライター紹介
佐竹 茉莉子(さたけまりこ)
フリーランスのライター。路地や漁村歩きが好き。町々で出会った猫たちと寄り添う人たちとの物語を文と写真で発信している。写真は自己流。著書に『猫との約束』『寄りそう猫』『猫だって……。』『里山の子、さっちゃん』など。朝日新聞WEBサイトsippoにて「猫のいる風景」、辰巳出版WEBサイト「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。
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体全体に気品が漂っているタンジロウ君とネズコちゃん、仲が良いのも頷ける。お寺さんにはピッタリだし、奥様にも愛されて何より。そのうちに二匹揃って読経の後ろでちょこんと座っているようになりそう。
by Y.M 2024-06-11 17:12
なんと可愛いきょうだい猫さんでしょう! そして、賢い仔ですねー
竈門から入り込むとは…
お参りする人達にとっても、出会えれば、思わず笑顔になりますね。
猫が苦手な奥さまにも好かれて、本当に幸せなお話しです。
お寺と猫さんって、本当に似合いますね。仏様のお慈悲の心が猫さんにも分かるんでしょうね。
by ちぃ 2024-06-11 19:01
てらねこ... 那須の長楽寺様が大変有名ですが、ネコとお寺、神社本当によく似合います。
広い境内で外敵もなく、安全に過ごせている猫さん達は幸せそのもの!
ご住職、お嬢様のナイスプレイ、やはり最後は奥様の溺愛、思わず、それそれ~と拝読しながら頷いてしまいました。(笑)
by ヤンヤン 2024-06-11 20:33
ある日ある日…もと野良にゃんだった2匹は、緑と自然あふれる素敵なお庭にたどり着きました。そこには立派なお寺がありました。そしたら運良く見つけてもらって優しいみんにゃに飼ってもらえることになりました。おしみゃい♪ ここがいいお寺だったからこそ素敵な福猫コンビがやってきたんだね!
by ひろにゃん 2024-06-12 17:24
>Y・Mさん
名刹らしい「わきまえ」と「気品」がありますよね~。
そうか、毎日読経を聞いているせいもあるのでしょうか。
by 道ばた猫 2024-06-14 14:03
>ちぃさん
寺社があれば、ついつい立ち寄ってしまう私。
この日もたまたま寄り道したら、なんと伊能忠敬のお墓と2匹に会えました!
by 道ばた猫 2024-06-14 14:05
>ひろにゃんさん
見つけてもらってもらった運の良さ+カマドから侵入するガッツ!
見事な開運招き猫の物語ですね(笑)。
by 道ばた猫 2024-06-14 14:08
伊能忠敬の菩提寺にこんなに気品のある猫さん兄妹がいるんですね。
香取市の新年広報誌でもアピールばっちり!
寺猫兄妹、これは会えたら幸せになれそうですね。
by ヤンヤン 2024-06-17 04:58